うちあげ
「では、アリシャの編入試験合格と、期末テスト終了を祝って」
『カンパーイ!』
放課後の部室。
お菓子やジュースを持ち寄っての打ち上げである。
先に達也が宣言した通り、アリシャは無事編入試験に合格。
他の3人も、赤点もなく無事にテストを乗り切ったのだ。
香苗は司書教諭なので、当然試験は無い。……採点には駆り出されたが。
「いやー正直、アリシャは家で漫画読んでる姿しか見てなかったから、ちょっと心配だったんだが、ちゃんと勉強してたんだな」
「一応、みんなが学校に行っている間は普通に勉強していたぞ。それに、ラノベや漫画を読むのも勉強だ」
達也の言葉にアリシャが反論混じりに答える。
「漫画でなんの勉強だよ?」
「日本語」
『あー』
アリシャの答えに納得する一同。
流暢に日本語を喋ってはいるが、アリシャはずっとアマレス……外国に居たのだ。編入試験最大の障害は「試験の問題文が読めるかどうか」だったのだ。
それをクリアするためには、とにかく日本語の文章を読むのが勉強になるのだろう。
「結構真面目にやってたんだな」
「試験に落ちたら、アマレスに強制送還だったからな。死ぬ気で勉強した」
「アリシャ、強制送還って?」
アリシャの発した単語に、恵が反応した。
「そのままだよ。爺ちゃんの言いつけを破って魔法使った前科があるからね。それなりの制限があったんだ」
「うう、私のせいだよね……」
アリシャの言葉に落ち込む陽子。アリシャの前科には彼女も関わっていたのだ。
「気にするなと言っただろう? あんまり言うと、子供服着せちゃうぞ」
「あ、似合いそう」「ね」
「やーめーてー」
アリシャの言葉に恵と香苗が食いつくが、陽子は全力で拒否した。
どうやら、お気に召さないらしい。
達也も別に良いじゃないかと思う。小柄な彼女によく似合うだろう。
だからこそ、彼女は嫌がっているのだが。
「そういえば、アリシャのクラスって、何組になるの?」
「あ、私のクラスになるみたい」
恵がアリシャに問うたが、答えたのは陽子だった。
「何で陽子が知ってるんだ?」
「先生が言ってた。新学期から、海外からの転入生が来る。って」
「へー、何となく達也が居るから、私たちのクラスかと思ってた」
「逆よ。親類は分かれるようにクラス分けするの」
香苗が言うには、親戚がクラス内にいると、コミュニティが狭くなりがちになるし、単純に苗字が同じ人物がクラス内に複数居るのを避けているのだという。
あとは、成績やクラスの人数など、学年の担任副担任が会議で総合的に判断しているらしい。
「成績順でクラス分けするんだと思ってた」
「俺も。あと、高校生になると、成績順位が廊下に張り出されるんだと思ってたなぁ」
恵と達也がポテチに手を伸ばしながら言う。
「進学校だとあるみたいよ。ウチはそこまでしてないの」
「ん? 結構名門高校だと聞いているんだが?」
香苗の言葉にアリシャが疑問の声をあげる。
「名門=進学校というわけではないわ。実際、偏差値や進学率は北高の方が高いし」
「たしか、元はお嬢様学校だったんだっけ?」
香苗の言葉を継いだのは陽子だ。
今でこそ共学だが、設立当初は華族の子女が通う学校だったのだ。それが時代の変遷で共学校になり、今に至る。
平民が通うようになり、共学になっても、年寄りなどが「華族の学校」と認識していることもあり、それなりの社会的地位を持っているのだ。
「今でも華道部とか茶道部とか、お嬢様ぽい部活は優遇されてるわね。……まぁ、家元の子とか在籍してるのもあるけど」
「考えてみたら、元々は清流院みたいなお嬢様だけが通う学校たんだよな」
「……清流院家は華族じゃないらしいけどね」
達也の発言を修正する恵。クラスメイトということもあり、最近は何かと喋るようになったらしい。
「いつの間に仲良くなったんだ?」
「あの日から、結構通って来るのよ」
「え? 俺、全然見てないけど?」
達也は恵の家である産婦人科でバイトしている。その達也は清流院とは学外で会った記憶が無かった。
「毎回、自宅側から来てるからね。受付からじゃ、分からないでしょうね」
「私たちも、薬貰うときは自宅側からだし」
「薬……? 持病は無いみたいだけど?」
薬という単語に、アリシャが反応した。
「ああ、ピルよ。 ……って言って分かる?」
恵が答えるが、上手く説明できるか、不安そうだ。
「ああ、避妊薬か。 ……なるほど、それで……」
と、ナニやらアリシャは納得する。
「そういえば、アリシャはピルとか飲んでる? 何なら、ウチで処方するように頼んでみるけど」
そんな提案を恵がするが、アリシャは首を横に振った。
「いや、エルフの妊娠率は低いからね。わざわざ避妊するようなマネはしたくない」
「避妊しないって……」「デキたら産むって事!?」「高校生なのに!?」
女子3人が驚きの声をあげる。達也は固まっていた。どうやら、そんな気だったとは知らなかったらしい。
「年齢的には、母さんも俺を産んだのは16の時だし、アマレスじゃ成人年齢だから珍しくもない。それに、エルフの妊娠率の低さは問題になっていてね。実際、俺にも母さんにも兄弟は居ない」
産めるなら産まないと、絶滅してしまうらしい。
ワリとヘビーな話だった。
「でも、妊娠したら、学校は……」
「いえ、確か大丈夫。誰か、生徒手帳持ってる?」
香苗がそんな事を言い、陽子が差し出した生徒手帳をめくる。
流石司書というべきか、直ぐに目的の記述を見つけ、皆に該当のページをみせた。
「懐妊時の対処……?」
そこには、妊娠した場合の座学、実習の規定や、産前産後の補習についても懇切丁寧に書かれていた。
「何でこんな規定があるの……?」
恵が呟いた。
「お嬢様学校だったから、婚約者とかと居る生徒が多かったのよ。そうなると、普通の学校より妊娠する子が多かったみたいで」
「わざわざ校則に明記して、改定もされずに残っている。と」
「だったら、問題ない……の?」
少なくとも、校則上は問題ない。
「どうした? 達也」
先ほどからフリーズしている達也に、アリシャが声をかける。
「いや、なんていうか、いきなり話が飛躍し過ぎて……妊娠とか、なんていうか、まだ覚悟が……」
と、ヘタレた事を言う達也。
「そんな事か。覚悟なんて、デキてから産まれるまでに固めればいい」
「そんな簡単に言われても……」
種族的な問題なので、避妊しようとは言えない達也。
いや、そもそもこれまで何度もヤっているので、イマサラな話なのだが。
「ま、まぁ、焦らなくても良いんじゃない? 何なら、ウチは不妊治療もやってるし、なんとかなるでしょ」
恵が達也にそんな助け船をだした。
彼女にしても、高校生のうちから達也を父親にするつもりはない。本格的な子作りはもっと先だと考えているのだ。……直近では自分だけ産めないからではない。
「それもそうだな」
アリシャが納得したので、達也はひとまず問題を先送りにできた。
「じゃぁ、のんびり子作りしような、達也!」
できてなかった。
次回30日です。




