うちの妹が最近変なんだが
「沙織が最近変なんだが、何か知らないか?」
「変て何が?」
夕飯の後、達也の部屋でくつろぐアリシャに達也が相談を持ちかけた。
「急に仏壇に向かって話しかけるようになった」
遠藤家の仏壇には母方の祖父母が祀られている。両親の結婚前に亡くなっているので、当然達也たち兄妹とは面識がない。
それでも、盆くらいは手を合わせているのだが、最近の妹は学校であった話を仏壇に報告しているようなのだ。
「ああ、『霊感』の訓練だろ」
「レイカン?」
こともなげにアリシャが言ったが、達也にはわけがわからなかった。
「沙織にスキルが生えていただろう? 訓練方法を聞いてきたから、知ってる事は教えといた」
「え? 嘘!? いつの間に?」
驚く達也だが、そんな彼にアリシャが半眼で告げる。
「達也、何で沙織のステータスを見ない? 家族の体調チェックは、スキル持ちの義務だぞ?」
そんな義務があることは初耳だった。
バイトでは健康チェックもしている達也だが、、そんなに頻繁に家族のステータスを見るものでもないと思ってた。
「まぁ、これからはちゃんとチェックするんだな」
言って、読んでいたマンガに目を向けるアリシャ。
部屋着の中でもラフな格好だ。ノースリーブのシャツに短パン。下着を着けてないのも、先程から見えている。
「でもアイツ、彼氏いるだろ?」
「それがどうした?」
「ある日、アイツから処女の表記が消えたら、俺はどうすれば良いんだ?」
「……祝えば良いと思うよ」
「えー」
それはどうなんだろうか?
この辺りの感性が普通なのかどうか、サンプルがあまりにも少なく、達也には判断がつかない。『ステータス閲覧』持ちは、自分自身とアリシャ、それにここには居ない伯父と祖母くらいしか知らないのだ。
「……あ」
そこまで考えて、達也は気付いた。気付いてしまった。
「どうした?」
アリシャがたずねる。
「いや、幸一伯父さんがアリシャを見たら……」
「ああ、達也と男女の仲になったのは、直ぐに分かるな」
「マジカー!」
達也は頭を抱えた。
なんだその罰ゲームは。
「え、ちょっと待って。アリシャ、次に伯父さんと会うのって、いつ!?」
「夏休みには、一旦帰省する予定だが? あ、ついでに皆でアマレスに行くか?」
夏休みまで、なんだかんだで後半月ほどだ。
その時には、伯父にアリシャとの関係がバレる。
達也も、いつかはちゃんと挨拶に向かうつもりだったのだが、思いの外タイムリミットは近かった。
「うーわー、どう言おう……」
「別に、何も言わなくて良いんじゃないか? 見れば分かるんだし」
ソレが問題なのだ。
いや、問題にならないかも知れないが、伯父に見られる前に、こちらからちゃんと説明するべきだと思うのだ。
そもそも、娘を下宿させたらそこの息子に手篭めにされていた。なんて、どう考えても激怒モノの案件である。
伯父にはそれなりに可愛がってもらった記憶はあるが、それとコレとは話は別であろう。
そんな風に達也が悩んでいると、ドタドタと廊下を走る音が聞こえて来た。
まさか、両親がこんなに音を立てるとは思えないので、沙織だろうか?
おおかた、窓から虫が入ってきたとかで興奮しているのだろう。
そんな風に2人が思っていると、達也の部屋のドアが勢いよく開いた。
「お兄ちゃん、アリシャちゃんと付き合ってるって、ホント!?」
部屋に飛び込んできたのは、案の定沙織だった。
掴みかからんばかりの勢いで、達也に詰め寄る。
「ちょっと待って、誰に聞いたの? そんな事」
達也が沙織に尋ねた。
アリシャではない。彼女には家族に内緒にしてくれと頼んであるし、夕飯前に聞いていたならその時にこうして詰め寄られただろう。そして、夕飯後はずっと達也と一緒に居たのだ。
「おじいちゃん」
「は?」
なぜアマレスに居る祖父が沙織にそんな事を伝えるのか?
「ああ、もう交信できたのか。流石に位牌があると早いな」
達也の隣で、アリシャがそんな事を言った。
そういえば、と沙織のステータスを見ると、確かに『霊感』のスキルがあった。
……ちなみに、まだ処女だった。
「え、ちょっと待って。まさか、死んだおじいちゃんに教えてもらったの!?」
「そうだよ。おじいちゃんとおばあちゃんの孫は私たちだけだから、ずっと見守ってくれてるんだって」
「へー、良いおじいちゃん、おばあちゃんだね」
「でしょー」
アリシャと沙織が和んでいるが、つまりは達也の行為は祖父母に見られていたという事だ。
達也は背中に滝汗をかいていた。
「で、どうなの?」
沙織がアリシャに尋ねる。
「んー、もう聞いているなら、良いよな? 達也と付き合ってる」
「ホントー!? おめでとう!」
お祝いモードの沙織。先ほどの剣幕は何だったのか。
「で、お兄ちゃん」
一瞬で氷の様な無表情を達也に向ける沙織。
「4マタってどういう事!? アリシャちゃん泣かせたら許さないんだから!」
「ちょっと待って、合意だから! おじいちゃんも、中途半端に伝えないで!」
沙織の怒りに、達也も反論する。
少々ハッスルして声も大きくなってくる。
「お前たち、近所迷惑だぞ!」
結果、父親に怒られ、事の経緯を説明するハメになった。
次回15日です。




