エルフだから恥ずかしくないもん!
その後、積もる話もあるが、聞かれたら困る話題も多いので3人は遠藤家に移動。
アリシャに割り当てられた部屋に案内した後、達也は自室でゴロゴロする事になった。
アリシャと沙織は荷物整理だ。
達也も手伝おうとしたのだが、
「女の子の荷物は見ちゃダメ!」
と、沙織が追い出したのだ。
ちなみに、母親の紗也はアリシャが持ち込んだお土産を料理中だ。
夕飯は異世界食材のナニカらしい。
達也はこの間に「アマレス観光案内」を読み返していた。
アマレスの基礎知識の習得にと父親から譲られた物だ。
同じものを妹の沙織も持っている。
そもそも、異世界の観光案内本が(対象者限定とはいえ)出版されている事が、先ずビックリした。
というか、異世界の知識を得るものが、古文書や日記ではなく、観光案内。というのが泣けてくる。
父曰く、この本が一番詳しいらしい。……ということは、他の観光案内本もあるわけだ。
こんな本が出版されているということは、達也が思っている以上にアマレス関係者は多いらしい。
さて、この本によると、「アマレス」とは異世界にある1国名であり、別に異世界全体の名前ではないらしい。世界そのものの名前は無い。
言われてみれば、達也が住むこの世界も、別に世界の名前があるわけではない。「この世」「現実世界」……何か違う気がする。この本には、あえてそれぞれの世界を呼ぶときは「セカイ」「ロームンド」と、それぞれ「世界」を表す単語を使うと良い。と書かれていた。
この辺りは、もう何度も読んでいるので読み飛ばし、達也は「ロームンドのヒト」の章に目を留めた。
その章は、アマレス国内を中心に、ロームンドに住む「ヒト」を紹介していた。
先ずは「ヒト」の定義から少々小難しい事が書いてあるが、「要するに、種族として翻訳できる言語を話していればヒト」らしい。
その定義なら、未知の言語である日本語しか話せなかった達也の祖父たちは、当初野生動物扱いだったわけだ。小説で書かれていた以上に苦労しただろう。
現在、一般的にはセカイにヒトはホモ・サピエンスしか居ないと思われているが、ロームンドには一般的に様々なヒトが知られている。
エルフ、ドワーフ、オーク、獣人、そして人間。
ロームンド全体ではさらに多くの種族が存在するが、アマレス国内の人口比率でいえば、先の5種族でほぼ90%を占める。
達也はエルフのページまで飛ばした。
エルフ。耳が長い以外は人間と大差ない見た目をしている。ただし、総じて美形。また、女性の乳房は人間と違い、授乳期(出産前後の18ヶ月程度)以外膨らむ事はない。
※男性諸氏に注意。胸の大きなエルフの女性をナンパしない事!
ああ、そういえば、アリシャもメアリも胸は無いな。と達也は思い返した。
一般的にイタズラ好きで魔法の扱いに長ける。特に幻惑魔法の扱いは他の種族の追随を許さない。
この幻惑魔法の用途は、笑えるイタズラに無駄に高難度の幻惑魔法を使用する程度であるが、稀に詐欺に用いる者もいるので、注意されたし。
昼間に見せられた4次元ポケ◯ト。
アレが幻惑だろうと、ホンモノだろうと、仕込んで達也たち兄妹の反応を楽しんだ事は確かだろう。
エルフは女性が多く、男女比は1対10。エルフに限らず、アマレスでは一夫多妻が認められているので、美形の男性に告白されても、実は妻も子もある事も珍しく無い。
※それでも構わないという女性以外は、注意されたし。
色々読んでいるうちに、いつの間にか夕飯の時間になり、仕事から帰った父も一緒にアリシャの歓迎会を行なった。
メインディッシュは、アリシャが持って来た「スライム肉」。
安くて美味いと評判の、アマレスの名物なんだとか。
牛、豚、鶏の肉を絶妙な加減でミックスしたような味……達也は幼い頃に食べた謎肉の正体を知った。
☆
食事も風呂も終わり、達也がWeb小説を読み漁っているとコンコンコン、とノックの音が聞こえた。
「達也、居るか?」
アリシャだ。
風呂に入っていたはずだが、上がったのだろう。
一番風呂を勧めたのだが、荷物整理が終わってから。という事で、最後になっていた。
「居る。風呂終わったのか?」
「ああ。ちょっと話良いか?」
「良いよ。鍵は開いてる」
家に帰ってからはずっと沙織と部屋に篭っていたし、夕食時はみんな居たので、達也とアリシャが2人で話すのは本当に久しぶりだ。
「お邪魔しまーす」
「はい、いらっしゃーーって、何てカッコしてるんだよ!?」
アリシャは腰にバスタオルを巻いただけの状態だった。
達也や父が同じ格好でうろついていると、沙織が怒る理由が今なら分かった。
いや、そういう問題じゃなかった。
「おま、胸、隠せよ!」
達也はあまり大声にならないように指摘した。
他の家族が様子を見に来たら、色々ヤバい。
「ああ、エルフの女の胸は男と同じだからな。俺は構わない」
「俺が構うんだよ!」
本当に、貧乳とかいうレベルではなく男と同じ胸でも、こんな男口調でも、女の子の胸だ。おっぱいだ。しかも美少女だ。構わないわけがない。
「昔は3人で一緒に風呂にも入っていたじゃないか。あの時と変わらんぞ?」
「変わるわ! とにかく、胸を隠せ!」
「はいはい、わかったわかった」
そう言って、アリシャは腰のタオルを上にズラした。
すると、微妙に丈が足りずに下半身が露わになる。
「ちょ、おまぁーぁ?」
「くくくっ、ビックリした?」
タオルの下からは肌の色とは全く違う、黒い布が現れた。
パンツだ。
パンツなのだが……ボクサーパンツ。しかも男物だ。
色気とかなんにも無い。
「ったく、イタズラにしても、シャレにならんぞ……て、よく見たらソレ、俺のパンツじゃねーか!」
達也の指摘通り、アリシャが穿いているのは、彼のパンツだった。しかも、今日身につけていたものだ。
「へー、よく見たんだ?」
アリシャがニヤニヤしながらそんな事を言った。
「しょうがないだろ、男なんだから」
「ま、サービスはこのくらいにして、ちょっとお願いがあるんだ」
「サービスってか、微妙に精神攻撃だったんだが?」
文句を言う達也だが、アリシャが真剣な顔になったので、聞く姿勢をとった。
相変わらずの格好のアリシャは、
「俺を4人目にして欲しい」
と言った。
次回15日です。




