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学校の天使

 香苗が校舎の見回りをしていると、正面玄関に天使が居るのが見えた。


 いや、別に羽根が生えてたりしているわけではない。

 とんでもなく美人なのだ。

 ブロンドヘアのスレンダー美女。


 女の香苗でも見惚れる美しさだ。


 だが、見たことのない顔だ。

 これほどの美人なら、一度見たら忘れないだろう。


 香苗の頭に新任の英語教師、という可能性が思い浮かんだが、特にそんな話は聞いていない。

 教育実習か? 挨拶に来ただけなら、香苗が聞いていないだけの可能性もある。

 外国人の年齢はわかりにくいから確かではないが、20代に見える。

 欧米の人は10歳老けて見える。という話を香苗は思い出した。

 いや、日本人は10歳若く見られる。だったか?


 そうなると、10代の可能性もある。

 生徒の友人かも知れない。


 何にせよ、部外者を放置はできない。

 香苗はその人物に声をかけた。


「Hello.May I help you?」


 案内板を見ていた女性ーーメアリだ。

 メアリは一瞬驚いた様だったが、直ぐに落ち着いた様子で応対した。


「ああ、日本語でお願いします。英語は苦手で……」


 その見た目で?

 喉まで出かかった言葉を、香苗は飲み込んだ。

 友人の1人に、日本生まれ、日本育ちのフランス人が居るのだ。彼女は英語はおろか、フランス語も怪しい。


「……失礼しました。改めまして、当校に何か御用でしょうか?」

「編入の手続きをしに来ました。校長室はどちらでしょうか?」


 編入生だと香苗は判断した。ーー実際に編入するのはメアリの娘なのだが。


「案内します。こちらです」


 案内しながら、編入手続きは普通親がやるものだろうに、流石外国人はしっかりしている。と感心していた。そこにメアリが控えめに声をかけてきた。


「あの、生活指導の先生でしょうか?」


 授業時間中に校舎を歩いている職員は生活指導の教師だと思ったのだろう。

 本来は正解なのだが、生活指導の教師は現在出張中だ。

 なので、代わりに香苗が校舎の見回りをしていたのだ。


「いえ、司書教諭です」

「そうでしたか。いえ、娘は10年近く日本から離れていましたので、何かとご迷惑をおかけすることもあるかも。と思いまして……

 積極的に本を読むような子ではないので、接点は少ないかも知れませんが、何か粗相があれば、殴り飛ばしていただいて構いませんので」

「あ、いや、そういうワケには……」


 物騒な物言いに、彼女が保護者だという衝撃の事実は彼方に飛んで行った。

 今のご時世に鉄拳制裁などしたら、数日から数週間はマスコミに騒がれるだろう。それ以前に警察沙汰か。


 幸い、この学校には表立って大きな問題を起こすような生徒は居ない。

 少なくとも、香苗が把握している範疇では。

 ……校内で複数の女性とイタす男子生徒や、生徒に手を出す司書教諭が居る事実を、香苗は思考から追い出した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なんて事があってね」

「今の時期に編入ねぇ……よくあるの?」


 放課後。卓ゲ部の部室で恵、陽子、香苗が集まってTCG(カードゲーム)に興じている。

 名目上、一応は部活動である。

 今は恵と陽子が対戦していて、香苗がアドバイザー兼審判だ。


 達也は居ない。何やら自宅に来客があるという事で放課後早々に帰ったのだ。

 それで達也が居ないからといって、3人の彼女がバラバラに行動するわけではない。

 むしろ、部活は教師である香苗も堂々と同席できる貴重な時間なのだ。

 女同士の交流も、一夫多妻の重要なファクターだ。……というのが恵の持論だ。

 まだ結婚はしていないが。


「学年の変わり目がほとんどね。今回の子も編入試験はともかく、登校は2学期からみたいだし」


 こういう事を喋って良いのかと恵や陽子は心配したが、むしろ広めて欲しいとメアリから言われている。編入試験に落ちる可能性もあるのだが……


「そういえば、何年生なの? その子」

「1年生。だから、あなた達と同学年ね」


 陽子の質問に、メアリから得た情報を答える香苗。


「外国人の美少女転校生かぁ……マンガみたいね」


 自分たちが色んな意味でフィクションな存在なのを棚に上げて恵が言う。

 むしろ、「外国人の美少女転校生」の方が、1000倍リアルである。

 ……実態はお察しだろうが。


「美人さんの娘だからって、美少女とは限らないんじゃない? ……『オーガ・ブラザーズ』召喚。ターン終了」

「ドロー。 想像するだけなら、タダだからね。……様子見でターン終了」


 2人共ゲームに慣れてきているようだ。

 ……香苗の位置から見える恵の手札がかなりエグいのが気になるが。


「ドロー。 噂が広まって、ゴリラみたいな子が来たら男子はショックかもねー。……『オーガ・ブラザーズ』に『パワープラス』。マナクリスタルにダイレクトアタック!」

「『夢幻のリリム』の魔力で『チャーム』」

「まだあったの!?」


 恵の手札は『チャーム』以外にもカウンター系の嫌らしい魔法が揃っている。

 かなり玄人向けなデッキなのだが、素人のワリには使いこなしている。

 陽子のオーガ、トロル系中心のパワーデッキも大会上位を狙える構成なのだが……相性が悪過ぎる。


 勝負は見えた。

 次は恵と香苗の対戦だ。

 恵は調子に乗って、通称「誘惑デッキ」を再使用するだろう。

 それならば、と香苗は得意の死霊デッキを用意する。

 対戦中に会話できるほど慣れたのなら、少しばかり本気を出しても良いだろう。

 顧問が全力で楽しんで良いだろうかと疑問に思ってはいけない。


 卓ゲ部は今日も通常運転だった。

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