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謎の美少女カッコ笑……えない

 登校の途中、黒塗りの「いかにも」なリムジンが俺を追い越していった。

 徐行運転だったこともあり、中に乗っている人物も視認できた。

 清流院 麗華。

 まぁ、確認しなくてもこの辺りであんな車に乗っているのは彼女くらいのものだろう。


 彼女はその名前や家柄から、「金髪縦ロールのやたら目立つ娘」というイメージを持たれているが、現実の彼女は「黒髪お下げの目立たない娘」なのだ。

 容姿、並。スタイル、並。身長、並。着る服や所持品は流石に高級品だが、よほど目が肥えた人でなければその辺の安物だと思うようなモノばかり愛用している。


 そんな彼女と俺は付き合っている。


 ……いや、彼女が付き合っているのは「俺」なのかというのは疑問だ。

 彼女とのデートで、俺は常に女装しているからだ。

 彼女は俺のことを「いっちゃん」と呼ぶ。

「海藤 専一」として恋人になれているのかは(はなは)だ疑問だ。


 なんで女装して付き合っているのか?

 それには2つ理由がある。


 先ず、単に俺の趣味だという事。

 俺は生まれる前は女の子だと思われていたらしい。

 エコー診断でついていない(・・・・・・)と判断され、女の子だと告げられていた。

 が、生まれてみたらキッチリついていた(・・・・・)

 先走った祖父母や両親は3歳までの女児用の服を買ってしまっていた。

 もったいないので、そのまま着せて育てた。

 結果、当の本人は女物が気に入ってしまった。というわけだ。


 もうひとつは彼女がレズビアンだという事。

 いや、まぁ、俺と付き合っているので、バイセクシャルだという意見もあるだろうが、男の俺に魅力を感じているかは疑問だ。

 男には一切の恋愛感情が湧かず、初恋も保育園の保母さん。

 体育の着替えは天国だと言っていた。

 デートの服装もすべて女装。

 男の恰好はもちろん、キュロットですらあまり良い顔をしない。


 なので、デートは常時女装。

 学校では他人のフリ……というか、彼女に無視されている。

 たまーに、「いっちゃん」に嫉妬するが、この気持ちをどこにぶつければ良いのか分からなくなる。



「はよー」


 教室に入ると、何やら騒がしい。

 何事かと見回すと、麗華の席の辺りに人だかりができていた。


 鞄を置いて近づくと、田中が麗華に何やら詰め寄っていた。


「頼むよ! な? このとーーーーり!」

「ですから、先ほどからお断りしますと何度も……」

「そんな事言わないで! 紹介してくれるだけで良いから!」

「田中! 麗華が嫌がってるでしょ!」


 どうやら、田中が麗華に何か頼み事をしているらしい。

 周りの女子から咎められているので、かなりしつこく迫っているらしい。


「何やってんだよ、田中」


 彼女が困っているらしいので助け舟を出す俺。

 ……気のせいかな? なんか麗華がすっごい嬉しそうな顔したけど。

 というか、「助けてくれてありがとう」という顔ではなく、俺をランジェリーショップに誘う時のようなそっち(・・・)の笑顔なのは何故?


「おお、海藤! お前でも良いや! 頼むから紹介してくれ!」

「は?」


 田中が意味不明な事を言い出した。


「お前ん()のマンションにすんげー可愛い娘が住んでるだろ!? 紹介してくれよ!」

「誰の事だよ!? しらねーよ!」


 住人全員と顔見知りというわけじゃないんだ。

 廊下ですれ違ったりエレベーターで一緒になっても、名前もしらない人も居る。

 紹介もくそもない。


「ていうか、何でソレで……清流院に絡んでるんだよ?」


 アッブネー、麗華って言いそうになった。

 付き合ってるのは秘密なんだよな。


「清流院の車から出てきたんだよ、その女の子!」


 ……は?

 え? それってもしかして……


「あ、その顔は知ってるな! 紹介してくれよー!」


 詰め寄ってくる田中。

 ちらりと麗華を見ると、とっても嬉しそうな顔をしていた。

 獲物で遊ぶ猫の顔だ。

 ああ、こういうヤツだよ。コイツは。


 だがそこが良い!


 惚れた弱みだよ何とでも言え。


 さて、状況が分かって来たら気になることが出てきた。


「田中。お前、彼女いるんじゃなかったか?」

「そ……それはソレ! これはコレだ!」


 田中の答えに、周りの女子が汚物を見るような視線を田中に向けた。

 ていうか、田中もかよ!

 つい先日、委員長と付き合ってる筈の遠藤が根岸先生とデートしてる現場に出くわしたばっかりだよ……

 浮気者多いな、このクラス。

 あんまり麗華が男の印象悪くするような事は控えてもらいたいんだけどなー。


「わかった、紹介はいい。マンションに入れてくれ!」

「却下」


 なんの為のオートロックだと思っているのだ。

 わざわざ不審者を入れる事はできない。


「なら、マンションの前で張り込むしか……!」

「ストーカーじゃねーか!」


 あー、もう最悪だ。

 こんなんじゃぁ、うっかり女装のまま帰ることも出かけることもできない。

 どこかで着替えるとしても、どうするかなー。


「はー、仕方がないですね」


 渋々、といった風に麗華が言い出した。


「クラスメイトが犯罪者になるのは御免です。フられてスッパリ諦めていただけるなら、紹介だけはしましょう」


 ……はぁ!?


「ちょ、なんでフられる前提なんだよ! 付き合えるかも知れないだろ!」

「先ほども言いましたが、あの方には恋人が居るので望みはないですよ?」

「振り向かせてみせる!」


 え? なにこの流れ?


「では、先方の都合を確認して連絡するので、それまで大人しくしてくださいね?」


 ニッコリ笑った麗華がそう締めくくった。


 え?  え?


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