一難去ってまた一難!!
皆様、お久しぶりです。先週末には更新したかったのですが、珍しく用事が重なり、さらには今後の仕事についてちょっと問題が発生したため、遅れてしまいました。本当に申し訳ありません。
それではお楽しみいただければ幸いです。
「やるっきゃないでしょうよ!」
自分を叱咤しながら騎士と少女の元へ駆け出す。騎士と少女はなんとか土の中から抜け出して体勢を立て直しつつあり、サソリに向かって行った4人は距離を取って近づきすぎないようにしながら火属性っぽい魔術を使って足止めをしている。
あれ?これってもしかして俺いらなくね?なんて思った時にはもう少女たちの所にたどり着いていた。
「おい、アンタたち大丈夫か?手助けは必要か?」
「いや、その必要はって、貴様!この怪しい奴め、お嬢さまにそれ以上近付くな!」
「怪しいって、そりゃないでしょうよ」
確かに手助けはいらなかっただろうが、いきなり不審者扱いはやめていただきたい。お嬢さまと言われた少女に顔を向けると怯えたように騎士の後ろに隠れる。そのことに結構ショックを受ける。
そんなに俺って怖いのか?ほんと泣けてきそうなんですけど。
「仮面を着けて顔を隠しておいて怪しくないなどと言われて信用なんてできるものか!」
「あ、そういや仮面着けたままだったのか。コレで問題ないか?」
着けると自分から見たときに透明になる機能がついていた仮面のことを思い出し、イヤリングの状態に戻す。素顔を見せることで少しは安心して不信感をなくしてもらえればいいのだが。
「ああ、だがどうして子供がこんなところにいる?ここは街道からも大きく外れているぞ」
子供、というのは聞き捨てならない。確かに見た目40代後半くらいの歴戦の猛者っぽいおっさんからしたら、今年で27になる俺は若造ではあるだろうが子供と言われる程では無い筈だ。仮に外国人からしたら日本人は若く見られがちというのを聞いたことがあるが、子供とまではさすがに言い過ぎだろう。
しかし、ここで問題にするのはそこではなく、なんでここに居るのか?と言われても説明に困る。空から落ちてきましたなんて言っても信用してもらえないだろうし、ここは笑って誤魔化すしかないだろう。
「あははは、それにはちょっと事情がありまして……。とにかく、今はあれをなんとかするのが先決では?」
「それもそうだな。だが、あとでキッチリ聞かせてもらうぞ?」
「できれば勘弁してほしいですね。それで、馬のほうは大丈夫ですか?走れそうですか?」
「それが少し良くないな。このやけに柔らかい地面に足を取られたときに痛めたらしい、治癒の魔法をかけて治療してやらないとすぐには走れないだろう」
「そうですか。治療にはどれくらいかかります?」
「治癒には時間がかかる。5分……10分はないとダメだろう」
10分か……このままあの4人が時間稼ぎを続けても、いつかはこっちに向かってくるかもしれない。できれば森の中にでも誘導して遠ざければいいのかもしれないが、騎乗して戦っている彼らが障害物の多い森の中に行くのは危険すぎる。となれば、自分が取るべき選択肢は1つしかない……。それが不可抗力とはいえ面倒をかけてしまった責任を取ることだと信じたい。
「んじゃ、俺があのサソリを惹きつけますから、その間に逃げてください」
「おい、惹きつけるって!無茶だやめろ!」
「やってみなくちゃわかんないって、まかせろ!」
おっさんの制止の声を振り切ってサソリの元に向かう。そのまま真っ直ぐ突っ込んで攻撃したら自分の後ろにいる少女とおっさんにターゲットが移ってしまうかもしれない。それを避けるために左側に走りながら銃を構える。
「ほんと、最初はスライムが良かったんだけどな……!!」
気色悪い虫っぽいのが初戦闘の相手とはツイてない。ゲームとかで言うならフィールドボスみたいな相手なのだ、危険度はかなり高いと言わざるを得ないだろう。それでもやると決めた以上、倒せないまでもここから遠ざけて撒ければ上等だろう。
「先ずはターゲットを俺に向けさせてやるか。こっちだ、サソリ野郎!串刺しにしてやんよ!」
威勢よく声を出して己を鼓舞しながら、鋼鉄の突撃槍をイメージしてトリガーを引き絞る。また手から銃に向かって何かが流れていくような感覚に襲われ、銃口の先に魔法陣が展開され、そこを銃弾が通過した瞬間、ランスが形成される。大砲の砲弾のような速さで発射されたランスがサソリ目掛けて飛んでいき、振り上げられた右のハサミの付け根に命中して貫いた。
キシャアァァァァアッ!!と気持ち悪い叫び声を上げ、攻撃を仕掛けた相手を探すようにしていたのでもう一発。今度は確実に殺すつもりで顔面に狙いを定め撃つ。今度はさすがにバレたのか、左側のハサミで弾かれてしまった。
「さあさあ、追って来いよ!」
牽制に爆裂魔術を放って森に向かって駆け出す。森に入る前に振り向きざまに残弾を全て撃ち込み、リロードしながら木々の間を駆け抜ける。背後から木々をなぎ倒しながら進んでくる音が聴こえてくることから、囮の役目は十分に果たせただろう。あとはこの間に逃げてくれることを祈るばかりだ。
「って、さすがにそれは困るか。適当にどこかでやり過ごせればいいのにな」
何も倒す必要はないのだ。適当にダメージを与えて逃げてくれればそれで良し。それが無理なら隠れれそうなところを探して目くらましを仕掛け、やり過ごせればそれでもオッケーなのだ。自分の勝利条件を確認し、休憩を兼ねて木に背中を預けて背後を振り返る。相も変わらずサソリは執拗にこちらを追いかけようとしてハサミで木々を殴りつけ、時には切断しながら進んでくる。騎士たちを追いかけていた時よりもそのスピードは遅めだが、それは彼らが馬が走ることを考えて木の間隔が広いところを走っていたからだろう。
「これなら撒くのはそう難しくないかな?」
そう油断したときだった。いきなりサソリもどきが尾を振るったかと思うと周囲に毒々しい色をした液体がバラ撒かれた。そしてすぐにシュウシュウと音がしたかと思うと異臭が漂い、液体が付着した木や草が溶けるように腐りだした。
「おいおい、これって相当ヤバくないか?」
幸い木に隠れていたおかげで直撃はしなかったが、背中にあった木の感触がゆっくりとなくなり、いや……後ろに向かって倒れだした。冷や汗を流しつつ、恐る恐る振り返る。するとそこには毒を浴びた木が倒れてしまいちょっとした広場になったような空間が広がっていた。そして当然の如く、障害物がなくなったサソリは俺に向かって進撃を開始した。
「ほんとにしつこいっての!!」
これからアイツのことは死の追跡者と呼ぼうと勝手に決めて、足止めように爆裂魔術を適当に撃ち込む。目くらまし気味に炸裂させ、その間に片膝をついて照準を安定させる。狙いはデス・ストーカーの顔面。複数ある目の内の1つに狙いを定め、今度はランスではなく大きめの杭をイメージして引き金を引く。ランスの時と同じように銃口の先に出現した魔法陣を通過した弾丸は杭の形状を取り、吸い込まれるように目に向かって飛んで行き、ハサミの隙間を縫って見事目に命中した。
「よっしゃあっ!」
命中したことに喜んだのも束の間。悲鳴のような雄叫びを上げたデス・ストーカーは狂ったように暴れ出し、逃げるように反転して駆け出してしまった。もちろんその方向にはあの騎士たちがいる。もう逃げてくれていればいいのだが、そこまで森に引き込んだ訳でもない。まだ移動したとは限らないだろう。
「ほんと俺は事態を悪化させることしかしないな!!」
仕事でもなんでもそうだ。良かれと思ってしたことが全て裏目に出て、失敗して苦い経験をしたことが山ほどある。それでも仕事ならまだ良かった。いや、良くはないけど。それでも人命まで、それも他人の命がかかったことはなかったのだから。
「行かせるかっての!!」
なぎ倒された木々が邪魔で真っ直ぐ走ることができないのがもどかしくて仕方がないが、それでも必死に追いかける。その間にシリンダーを開けて排莢を済ませるが、再装填を行う暇がない。そして森を抜けた先でデス・ストーカーが騎士たちから攻撃を受けて足止めされているのを確認した。
間に合わなかったことに歯噛みし、視線を巡らせて状況を確認する。そして戻るときに再度暴れてなぎ倒したのか、サソリに向かって斜めに伸びる倒木があることに気付いた。そこからの判断は迅速に。走る勢いを落とさず、一発だけ装填。撃鉄を起こした時にちょうど弾がくるように、慎重に調節して戻す。
「弾は一発、チャンスは一度。だが、外しはしねぇよ!!」
普通の人間なら、命が懸かったこの状況で恐怖を感じて立ち竦むものだろう。だが、自分が感じているのは高揚心だ。自分ではわからないが、恐らく口元を触ればにやけているに違いない。この時ふと、会社の先輩に言われた一言を思い出した。お前は社会不適合者だ。ヒドイ言葉だと思うが、なぜこの言葉を思い出したのか?その疑問も、倒木に足を掛けた時点で吹き飛んだ。
「おおおぉぉぉおっ!!」
倒木を駆け上がり、最後の一歩を大きく踏み込んで飛ぶ。騎士たちが驚いたような顔をしているのを視界の端に捉えつつ、デス・ストーカーの頭上を取る。これなら外しようがない。串刺しにするつもりでありったけにの思いを銃弾に込める。手から銃に向かって流れる力の勢いが増したのを自覚し、先ほどよりも大きな魔法陣が展開される。体が自由落下し始めた瞬間、トリガーを引き絞った。
放たれた銃弾がランスに変化し、サソリを標本のように串刺しにして地面に縫い付ける。断末魔の悲鳴だろう、一際大声で雄叫びを上げたデス・ストーカーが最後の抵抗とばかりに尾を振るう。それが運の悪いことに真っ直ぐ自分に向かってくる。逃げようにも空中に逃げ場などなく、回避しようにも手段がない。衝撃に備えて腕でガードしようとしたが、さらに悪いことが重なる。
釣り針のように上に向かって曲がっていた針がどういう訳か腕の隙間をすり抜けて腹にゾブリと突き刺さる。気色の悪い感覚と毒が注入されたのか内臓が爛れるような痛みに襲われ、逆流した血が口から溢れる。針に突き刺さったままの俺は勢いよく空中に投げ出され、しばしの浮遊感を味わったあと木に背中から激突し、地面に落ちたところであまりの痛みによって意識を失ってしまった……。
誤字・脱字あれば教えていただけると嬉しいです。
ついでに感想もいただければ……。
まあ、感想についてはまだまだそんなことを言えるほど書いている訳ではないので、あまり期待できないことは承知していますのでスルーしてください。
さて、次話は土曜にでも更新できればと考えています。
それでは、失礼します!