アドバイスは素直に聞きましょう
今回はあまり間を置かずに投稿することができました。
それでは、どうぞ。
「それじゃあ帝国の方から来たのか?」
「そうなんだよ。帝国を巡り巡ってそろそろ違う国に行ってみようって話になってさ」
クーゲルが戻ってきた所で焚火を始め、改めて自己紹介をして現在は食事中だ。ちなみにメニューはクーゲルが森で仕留めてきたウサギ3羽に、魚が人数分。これもクーゲルが槍で突いて仕留めた獲物だ。本当に器用な男だ。
ちなみに俺はと言うと、野宿を想定してはいたが余分な荷物は持ってきていない。2日分の味気ない携帯食料、これは緊急ようなので食う気はない。あとは乾燥野菜と干し肉だけだが、わざわざ新鮮な肉があるのにお湯で戻すだけの食事を作るのは無駄でしかない。なので鍋は湯を沸かすために使い、お茶を皆に配っている所だ。
「へ~奇遇だな。オレも帝国から来たのさ。まあ、目的はアンタらと違ってハンターとして獲物を追ってきただけだが」
「わざわざ向こうからここまで追って来るなんて、いったいどんな相手なんだ?」
「恐ろしい相手さ。まだこっちのギルドにゃ手配書は回ってないだろうが、決して手を出すんじゃないぞ。何てったって人狼だからな」
「人狼って……、アレか?人間と狼を足して2で割ったみたいな奴で、満月の晩に変身するとか」
「いや、満月の晩に変身ってのは聞いたことないが、確かに一番強力になる晩ではあるな。一応訊いておくが、サツキはランクはいくつだ?」
「俺のランクはDの0だよ。ハンターにはまだ成りたてホカホカさ」
「はあ?そりゃいったいなんの冗談だ?あの数のオークを討伐するほどの実力があるんだ。最低でもCランク、それも上位くらいの実力じゃなけりゃ辻褄が合わねぇぞ」
「そう言われてもな……。これで信じてくれるか?」
首からハンターの証であるドッグタグを外し、クーゲルに投げて寄越す。焚火の灯りに反射させてタグを眺めたクーゲルは、そこにあったランクを確認して顔を顰めた。
「確かに嘘じゃねぇな。お前ほどの実力があってこのランクじゃ釣り合わねぇ。さっさと昇格試験を受けろ。お前ならBランクまですぐに上がれるさ」
「それはそれで面倒そうだからな~。ゆっくりランクは上げていくよ」
「強くなって名を上げようとは考えないのか?」
「ないね。名声に興味はないし、必要以上にお金を稼ごうとも思わない。食うところと寝るところが確保できれば、それで俺の人生はハッピーだよ」
「無欲な奴だな。お前みたいな奴、オレは初めて見た気がするよ」
「そうかもなぁ~。あ、そうだ。名声とか言う意味ではアイザックさん達としてはどうなんですか?」
「俺達かい?そうだなぁ~有名になりたいって願望はもちろんあるよ。ねっ、姐さん?」
「姐さんって呼ぶなっていつも言ってるだろアイザック!まったく何度言ったって聞きやしないんだから……」
しかめっ面でそういうエルザさんの表情には若干の諦めが見て取れる。それくらいには懲りずにアイザックさんがそう呼んでるのだろう。しかしアイザックさんが姐さんと呼ぶのも頷ける。確かにエルザさんからは姐御肌な雰囲気が滲み出している。
「ん?坊や、その視線はなんだい?まさか坊やも姐さんなんて呼ぼうとか考えていないだろうね?」
「あはは、まさかそんな……ねぇ。まったく思っていませんよ?」
美人に凄まれると怖いというか、目を泳がせて助けを求めているとアイザックさんと目が合う。自分が言いたいことをなんとなく理解したのかサムズアップしてきたので、エルザさんにバレないように小さく返しておいた。
「どうだか。まあ、いいわ。そうね、有名になりたいって話だったわね。あたしたちの夢はこの大陸中を旅して、あたしたちの芸で人の笑顔を見ることだからね」
「それは良い夢ですね。それに大陸中を旅するのは楽しそうだ」
「お、興味あるのか?なんだったらサツキも一緒に旅してみるか?お前なら強いし、護衛として着いて来てくれるだけずいぶん旅が安全になる」
「それは買いかぶりというものですよ。結局、俺は1人じゃ貴方たちを助けることができなかったんだし」
そうなのだ。それだけは忘れてはいけない。クーゲルが現れてくれなければ、ここで笑顔で話しているアイザックさん達を見ることができなかった。それに自分だって間違いなく命を落としていたのだ。
強くなろう。
そう決意を新たにしていると、ふっと近づいてくる気配がして顔を横に向ける。するとそこには糸目の男性ーー確かオズワルドさんだったか?--が観察するようにこちらを見ていた。
「あの、俺の顔に何かついていますか?」
「ん~~?いやぁ、何もついていないさぁ~」
「えと、だったら何か用ですか?」
「や~~、真剣な顔をして何かを悩んでいたようだったからね~~。どうだい?ちょっと話してみないかい?少しは悩みや気が晴れるかもしれないよ?」
「それは……」
言葉に詰まり、自分が考えていたことを言うべきか周りを見回す。クーゲルは言ってみろとばかりに頷き、アイザックさんも同じように笑顔で促す。
「ボクたちで役に立てることも、あるかもしれない。でも、話してくれなければわからない」
初めて口を開いたクール系美人のイリスさん。その声は歌が得意というだけあって、澄んでいてキレイだ。
「そうですよぉ。話せば楽になることもありますよぉ」
おっとりした口調で話すウェンディさんのおかげで、緊張が和らいで肩の力が抜けたような気がする。
「そうだよ坊や。何を悩んでいるのか知らないけど、ここで吐き出しちまいな。案外坊やが考えているほど、難しいことは何もないんだよ」
怖い印象の方が強いエルザさんだが、姐さんと慕われるだけあって面倒見は良いんだろう。決めた。これからは密かに自分も姐さんって呼ぼう。
「あはは、こうまで言われちゃあ黙っているのは逆に失礼ってもんですね」
それから俺は、訥々と語った。自分の思いを。あのオーク戦で感じた己の力不足、経験不足による不甲斐無さを。独りじゃ何もできなかったことを……。
そうして語った後に待っていたのは、全員からの爆笑だった。
「は?いや、そんな笑えるようなことを俺、話しました?」
混乱しながらもそう訊くと、クーゲルが目の端に溜まった涙を拭いながら答えた。
「何をそんなに真剣に考えているのかと思ったらそんなことかよ!ようは強くなれば解決じゃねぇか!」
「そうだぜサツキ、クーゲルの言う通りだ!先ずはもっと筋肉をつけるべきだな!こんな風にな!」
ふんっと力こぶを作ってみせるアイザックさんに苦笑を零す。
「そうだよ坊や。それに坊やは決して弱い訳じゃない」
「エルザさんの言う通りですぅ。わたしたちはこうして無事にご飯を食べて、笑うことができています」
「うん。サツキがいなければ、ボクたちはひどい目に合っていたかもしれない。1人じゃ何もできないなんて、そんなことはないんだよ」
「エルザさん、ウェンディさん、それにイリスさん」
3人の励ましの言葉に、涙ぐんで視界が歪む。
「それに君が思っているほど、僕らは弱い訳でもないんだよ?不意を打たれて遅れは取ったけど、あれだけ時間を稼いでくれれば隙を突くくらいはできたしね。例えば……こんな風に、ね?」
いつの間に取り出したのか、そもそもどこに隠していたのかと疑問は尽きないが、ニヤリと笑ったオズワルドさんの右手には投擲用と思われるナイフがあり、それが首筋に当てられていた。ひんやりとした刃物の感触に、一気に肝が冷えた。
「確かに、皆さんの言う通りですね。1人で少し考えすぎていたようです」
「そうそう。サツキはまだまだ若いんだから、これから鍛えて強くなっていけばいいさ。後悔しない未来を手にする為にもな」
「ええ、アイザックさんの言う通り、日々精進しようと思います」
そうして2人笑い合っていると、同じようにエルザさんたちも微笑を浮かべて良かったといった顔をしている。しかし、クーゲルとオズワルドさんだけは違った。ピリピリとした空気を纏い、周囲を警戒しているような雰囲気を醸し出していた。
「どうしました?クーゲルさんにオズワルドさん?」
「サツキ、お前もう戦えそうか?」
「腕の方は動かすだけなら問題ない。激しい運動はまだごめんだが」
「だったら腰のハンターナイフを貸してくれ」
ハンターナイフを抜いてアイザックさんに手渡し、暗闇の先に目を凝らす。焚火という光源が近くにあるせいか、余計に周囲が暗く見える。今夜は曇り空で、月も星も見ることがことができないから尚更だ。
「照明弾を撃ち上げる。暗闇から奇襲を受けるよりかはマシだろ?」
「ああ、頼むぜ」
川を背に女性陣を囲むようにして立ち、拳銃を空に向けて構え、照明弾のような明かりをイメージしてトリガーを引く。3方向に向けて続けざまに撃ち、滞空性のある光源を撃ち上げる。そうして明かりに映し出されたのは、周りを囲んでゆっくりと近づいて来ていたオオカミの群れだった。
やっぱり書くことがある程度決まっていると書きやすいですね。
この調子で人狼編を書いていこうと思います。
あとブックマークが増えていて大変嬉しく思います!
これで感想もいただければもっとモチべも上がると思うのですが、それは高望みというものでしょうね。(ボロクソ言われたらさすがにへこみそうで怖いですが……)
さて、それでは今後とも社会不適合者の異世界戦記をよろしくお願いします!!