助けた彼らは
1か月以上も放置してすみません。
今回は短めです。
「どうもありがとうございます!おかげで助かりました!」
「いやいや、礼ならこっちのサツキに言ってくれ。オレは最後に手伝っただけさ」
「そんなことないぞ。クーゲルが来てくれなかったら、俺もどうなっていたかわからない」
事実、自分は左肩をやられていて、今も上手く動かすことができない。布を使って腕を吊っている状態だ。
「よく言うぜ。たった1人でオークの集落を壊滅まで追い込むとか、並みのハンターでも難しいぞ」
「そう言うもんか?しっかり罠を張って仕掛ければ、この程度はできると思うけどな……」
言われ、周囲を見渡す。自分が繰り広げた惨状を改めて確認してみたが、確かにこれはない。よくもまあ、この数の集団を相手に生き残ったものだ。
「うん、さすがにもうこんな無茶はやらないよ。何よりあの人たちが連れて来られるのを見なければ、とりあえずギルドに報告して終わりにする気だったさ」
「ははっ、まるで正義の味方だな?」
「茶化さないでくれ。俺にヒーロー願望はないよ」
そう、俺にヒーロー願望はない。昔は憧れたものだが、今はそんな存在がいることはないと知っている。“全てを救う正義の味方”なんて、理想以外の何ものでもないのだから。
そんなことを考えながら、助けた人たちは女性を荷車に乗せ、男2人が引っ張る役と後ろから押す役をするようだ。
「なんにしても、助けられて良かったよ」
「そうだな。さってと、んじゃ後はあの人たちを安全な場所まで送り届けたらお仕事終わりだな」
「ああ、この状況じゃあいつ他のケモノとかモンスターが襲ってくるかもわからないからな」
周りは血だらけ、鉄さびのような血の臭いに吐きそうだ。女性陣もこの惨状を目の当たりにして気分が悪そうだ。それにオーク達に襲われたショックもあるのだろう、ひどく憔悴しきっている。早く安全な場所まで連れて行ってやらねば。
「ほら、早く行こうぜサツキ!」
「ああ、すぐに行く!」
走ると少し肩に痛みが走るが、それを我慢して追いかける。すぐに治るような治癒の魔術を作成せねば。新しい魔術の術式を考えながら、道を急いだ。
「ほら、もう少しで森を抜ける。少し行った先に小川があるから、そこで今日は野営しよう」
「そうだな、日も暮れそうだし仕方ないか。よし、サツキ。オレは焚き火に使う薪を集めてくるから、この人たちをよろしくな」
「ああ、任せてくれ。この辺に危険な獣はいないが、気をつけてな」
「見つけたら今夜のおかずにしてやるさ。そんじゃ、また後でな」
森の奥へと入って行くクーゲルを見送り、自分は周囲を警戒しながら彼らに着いて行く。
しかしまあ、この俺が人助けをすることになるとはね。
口には出さず、前を行く5人の男女を眺める。そう言えばこの世界に落とされた初日も成り行きとはいえ、人助けしたことを思い出す。
あれから2週間しか経っていない。それでも、ずっとこの世界にいたような気もするから不思議なものだ。それだけこの世界に馴染んだのか、それともずっと夢想し続けたからこその勘違いなのか、それはわからない。だが、ケータイや車などの文明の利器など無くとも不満に感じないのは、ここでの暮らしが気に入っている証だろう。
「あの、サツキさん。ちょっといいですか?」
「ああ、はい。なんですか?あと、自分に敬語は必要ないですよ」
20を半ば過ぎているような人に敬語で話しかけられるのはなんだかむず痒い。と言っても、こうやってこちらの世界に来る前はあまり変わらないくらいの年齢だったのだが、どうも精神が10代の肉体に引っ張られているようだ。
「お、そう言ってもらえると助かるよ。いや~敬語とか慣れてなくってさ、正直しんどかったんだよな」
敬語はいらないと言った途端に砕けた態度になった男性の変わり身の早さに戸惑いつつ、続きを促す。
「いや、自己紹介がまだだったなと思ってね。俺の名前はアイザック、特技はパントマイムだ」
「パントマイム?また珍しい特技をお持ちですね」
「まあこれが飯のタネなんだけどな。俺たちはいわゆる旅芸人ってやつでね。それぞれがいろんな特技を持ってるんだよ。例えばもう一人の男の方。名前はオズワルド。あいつはジャグリングが得意だ。ナイフを使ってやるから、見るときは近づかないことだな」
へ~と相槌を打ちながら言われた男の方を見る。糸目とにやついているように見える口元が印象的な男だ。どことなく芸人よりもアサシンのほうが向いているんじゃないかと思ったのは秘密だ。
「んで、あっちの女性陣でショートカットのクール系がイリス、歌担当な。ロングの褐色姉ちゃんがエルザでダンス担当。最後にたれ目とほんわかした雰囲気が全体的に漂っているのがウェンディ、ハープを弾くのが抜群に上手い」
「それは興味深いですね。ぜひ聴いてみたいです。ですが、それもしばらくは無理そうですね……」
一度、彼らが襲われた場所に戻って荷物が残ってないか確認しに行ってみたが、ほとんどが破壊されていて無事なものはほとんど残っていなかった。商売道具が壊されてしまっては、今後アイザックたちはどうしていくのだろうか……。
「な~に、命があっただけ儲けもんよ。また地道に金を稼いで、道具は揃えていくさ。それにサツキみたいな坊主に心配されるほど、お兄さんたちはやわじゃねぇよ」
「わっ、ちょっと!やめてくださいよ!」
頭をグリグリと撫でまわされ、その手を払いのける。アイザックは笑いながら悪いと言っていたが、その行動は自分を安心させるためにしたことは明白だ。
「まあ、なんにせよ。お金に関しては街に着いてからですね」
「そうだな。そこでなんとか金策を練るとして、とにかく今は夜営の準備をしよう」
前方では小川が見えてきており、先に着いたエルザたちは準備を始めていた。と言っても、湯を沸かすための鍋を洗ったり、手頃な石を集めて焚火用に組んでいた。
本当は助けた5人は今回限りの登場人物で役割も名前も決めていませんでしたが、執筆をしていない時にどう展開させていくかを考えているときにちょうど良かったので役目を与えることにしました。
まあ、名前の付け方自体は割と適当な部分はありますが(笑)
それでは、今後とも社会不適合者の異世界戦記をよろしくお願いします。