共同戦線!!
「ラスト2体!」
目の前で撃ち殺したオークから視線を切り、洞窟の入り口を守るようにして動かなかったオーク達に向き直る。戦闘開始してからものの数分、10分と経っていないだろう。
「ここまでやっても動かないってことは、それなりに知能はあるってことなんかねぇ」
様子を窺がいながらリロードを手早く済ませる。その間も入口から動くような素振りをせず、なんとしても死守するといった意思が見えるようだ。
「さてと、さっさとそこをどいてもらおうか?俺の勝手ではあるんだけど、助けたい人達がいるんだ」
動こうとしない敵にわざわざ自分から近づいてやる必要もないため、銃口を向ける。これなら後は撃つだけで済みそうだ。
そう油断した瞬間、風切音を伴って洞窟の奥から何かが猛スピードで飛来してきた。
「うぉぉぉぉぉおっ!?」
それでも銃弾に比べれば全然遅い。気付いてからでも対処はできる。咄嗟に躱そうと身をよじる。が、間に合わずに飛来した何かは肩を掠め、衝撃に吹き飛ばされるようにして地面に転がる。
「くそっ、いったい何が……?」
左肩にじんわりと熱が広がり、次いで焼けるような痛みが襲ってきた。それでも地面に転がったままでは致命的な隙になると判断し、痛みに耐えて起き上がる。その時にちらと後ろを振り返り自分を吹き飛ばしたものがなんであるかを確認したところ、投槍用と思われる短い槍が転がっていた。
「ああ、ちょっとヤバいな」
「チッ、外したか。しかしまあ、ずいぶんとワシの子分たちを殺ってくれたのう?」
ズンッズンッと重苦しい足音と共に洞窟の奥から現れたそいつは、身長2メートルを超す巨体。左肩に担いでいるのは、その辺の木ならば一撃で圧し折れるだろう巨大なバトルアックスだ。さらには豚みたいな容姿なくせして、その体はがっしりと鍛えられていてまるでプロレスラーのようだ。
「オークも人の言葉を話せる奴がいるんだな」
「ふん、言葉を人間共だけのものだと思わぬことだな。それにしてもヌシはなんだ?そのおかしな面はいったいなんだ?」
「あ~コレかい?これはちょっとした魔術道具さ」
「小憎たらしい面だ。まあいい、ヌシに殺された子分どもの仇、取らせてもらうぞ」
ブオンッと風を切って振るわれたのを見ただけで背筋が寒くなる。痛みに関しては癒しのルーンを即座に発動させたからだいぶ引いてきた。しかしそれでも動かすのは無理だ。
状況はこちらが不利。拳銃はリロード済みなので問題ないが、動きが鈍った状態でやり合うには不味い。
「いくぞ人間。覚悟はいいな?」
「できればやめてほしいけど、そうもいかないよな?」
「ぬかせ!!」
両手で持ち直したバトルアックスを上段に構え、突撃を敢行するオークのボス。巨体にあるまじきスピードに意表を突かれ、動き出すのが遅れてしまう。それは致命的な隙だ。取り返しのつかないミスだ。
「くたばれ!人間!!」
ああ、ここで死ぬのだと。せっかく与えられた新たな生。その対価として求められた責務さえ果たせず、ここで果てるのだと。
そう覚悟した時だった。
「諦めるにはまだ早いぜ!」
脳天目掛けて振り下ろされようとしていたバトルアックスに、その声とともに襲いかかったのは豪風を伴って飛来した槍だ。真横からバトルアックスに直撃した槍はその軌道を逸らし、間一髪の所で当たることなく地面を叩いた。
「うおぉおっ!?」
「もたもたすんじゃねぇよ!」
バトルアックスが地面を叩いた時に巻き上がった礫に戸惑っている間に、襟首をグンッと引っ張られる。何が何だかわからぬ内に地面を引きずられ、ようやく解放され安堵の吐息を零したのも束の間、オーク達と自分の間に立ち塞がるようにして灰色の外套が翻った。
「あんたはいったい?」
「通りすがりのハンターさ。助太刀するぜ、ピエロの兄ちゃん」
「ピエロ?ああ、この仮面か」
確かに、角度によっては笑っているようにも泣いているようにも見えるこの仮面は道化師と言われてもおかしくない。
「危ないところを助けてもらってありがとうございます」
「良いってことよ。この数のオークを相手に1人でやり合おうなんて、兄ちゃん度胸あるな~~。気に入ったぜ」
「それはどうも。自分の力を過信したせいでピンチに陥っていましたがね」
「オレにもそういう経験があるから気にすんなって。それより構えたほうがいいぜ。やっこさん、邪魔されて相当頭にきているらしい」
言われてみれば確かに。鼻息荒く、いまにも突進してきそうな感じは有名なモンスターをハントするゲームに出てくる大イノシシみたいだ。
「兄ちゃんの得物は拳銃か?」
「ああ、拳銃を使った魔術が得意だ。そっちは槍か?」
男の隣に並び立ち、油断なく構えられた槍に視線を落とす。相当使い込まれたのだろうそれは、その辺に転がっているオーク共の槍よりも洗練された雰囲気を醸し出していた。
「じゃあオレが前衛、兄ちゃんが後衛な」
「わかったよ。あと兄ちゃんはやめてくれ。あなたの方が年上っぽいし、サツキと呼んでくれ」
「了解、サツキな。オレはクーゲルだ。呼び捨てで構わないぜ。なんせこれから一緒に命を懸けるんだからな」
「死ぬ相談は済んだか、人間共?なら、行かせてもらうぞ!!」
そう言うないなや駆け出してくるボスオークに同じく突撃を敢行するクーゲル。横薙ぎの一撃を跳躍して飛び越えるクーゲル。回転の勢いを緩めずにそのまま後ろまで振り抜こうとしたのをクーゲルに当たらないよう銃撃して阻止する。
「くそっ、厄介な!!」
「ナイスフォローだ!」
「先に残りを潰してこい!こっちはそれまで持たせる!」
「おうよ!!」
着地してそのまま洞窟の前の2体に駆けていくクーゲル。その間にボスオークの注意を引くために回り込みながら牽制射撃を行う。それを煩わしそうに迫ってくるボスオークに近づかれ過ぎないよう、気を付けながらクーゲルの様子を窺がう。そちらは手っ取り早く片付いたのか、既にこちらに向かって反転していた。
「待たせたな!」
「仕事が早くて助かるよ!」
「おのれ!!最後の子分さえも殺してくれおって!絶対に許さん!!」
頑強な肉体に阻まれ、自分の数を撃つだけの魔術弾では有効なダメージを与えられていない。ともすれば、弾を入れ替えようにも左腕がうまく動かない現状ではどうしようもない。ここはクーゲルに止めを刺してもらうしか手はない。
「俺が隙を作る!クーゲルは俺を信じて突っ込んでくれ!!」
「いいぜ!信じてやるからしくじるなよ!!」
会って間もない自分を信じると言ってくれたクーゲルの為にも、ここだけは外せない。元の世界では人の信頼を裏切るようなことしかできなくて、何度悔しいやら情けないやらといった苦い思い出が蘇りかけたが、それを振り払って集中する。
「おおおっ!!」
「来い!!人間ぅぅう!!」
突っ込むクーゲル。迎え撃つボスオーク。今度は上に逃げられないようにするためだろう。スピード、威力共に申し分ない上段からの振り下ろしを狙うボスオークに対し、微塵も恐れず突っ込んでいくクーゲルの信頼に応えるべく、バトルアックス目掛けて銃弾を見舞う。
「ぬぅ!?」
狙い過たずバトルアックスに命中した銃弾は動きを止めさせ、最後に手を狙った一撃で吹き飛ばすことに成功した。
「よくやったぜ、サツキ!あとは任せろ!」
がら空きの心臓へ突き出される槍。それを何とか腕を交差させて防ぐボスオーク。
「ぐふっ、惜しかったな人間……」
両腕を刺し貫かれてどうにか心臓への一撃を止めたが、それでも浅く胸板に刺さったのか血を吐きつつ不敵に笑うボスオーク。それに対してクーゲルも背中越しではあるが、笑ったような気がした。
「ああ、だがまだだぜ?蹴りこめ、サツキィィイ!!」
「おらあぁぁぁあっ!!」
呼ばれた時には既に駆け出していた。ひたすらに何も考えず、角度を調整するように持ち上げられた槍に向かってジャンプして蹴りを放つ!!
「くそ人間共めぇぇぇえ!!!!」
ぞぶりと石突きを蹴り抜いた槍が心臓を貫く。断末魔の雄叫びを上げるのを聞きながらドロップキックをかましたため、地面で背中を強かに打った痛みに呻く。そうして痛む背中を擦っていると、不意に影が落ち、手を差し出された。
「やったな、オレたちの勝ちだ」
「ああ、そうだな」
手を握り返し、グイッと引かれて立ち上がる。そうして初めてクーゲルの顔を正面から見ることができた。野性味溢れた容貌でありながら悪ガキのような笑みを浮かべたその顔は好感が持てる。
「もう終わったことだし、そろそろ素顔を見せてくれてもいいんじゃないか?」
「そう言われれば確かに」
仮面をイヤリングに戻し、改めてクーゲルに向き直る。
「改めまして、サツキ・サヨナキだ。ご助力感謝します」
「固い固い、もっと気楽にいこうぜサツキ。オレたちは共に戦った、言わば戦友ってやつだしよ、そういう堅苦しいのは無しにしようぜ。な?」
「わかったよ、クーゲル」
「おう、わかればよろしい。オレはクーゲル・ブリッツだ。これからよろしくな!」
そう言って改めて固く握手を交わす。これが後に悪友であり良きライバルとなる槍使い、クーゲル・ブリッツとの出会いであった。
こんな時間に投稿する自分も自分ですが、夜中に投稿してすぐに読んでくれる読者様がいるのを見ると嬉しくなります。
9月になって朝夕が涼しくなってきた為か体調を崩し気味の作者ですが、皆さんもお体には気を付けてあまり夜更かししないようにしてくださいね(笑)