視える!視えるぞ!!
久しぶりに投稿します。
『じゃあ先ずは仮面以外の物にする所から始めようか。とりあえずメガネとかどう?』
いや、その前にいきなり人の頭に直接話しかけるのをやめてもらえるとありがたいのですが……。
『それは無理な相談だね。さあ、いつまでも悠長なことを言ってられる余裕はあるのかな?』
からかうようなロリ女神の声に意識を現実に引き戻す。すると目の前には一足飛びに踏み込んできたレティーアさんが剣を突きだそうとしていた。
「くっ!?」
「わたしを相手にして気を逸らすとは、ずいぶん余裕ですわね?」
鍔迫り合いではないが、柄で受け止めた剣をギリギリと押し込んでくる。好戦的な笑みを浮かべている彼女は本当に楽しそうだ。戦闘狂の気があるんじゃないかと本気で疑いたくなる。というか、女性の細腕にしてはえらく力が強すぎやしないですかね?もしかして強化の魔法でも使っているんじゃないだろうか。
「それはすみません。どうやったら勝てるのかを考えていたら、ちょっと集中しすぎてしまいました」
「あら、それで勝つ算段はつきまして?」
「自信はないですけど、まあやれるだけやってみますよ」
『よく言ったわね。早速やってみましょう!メガネが嫌ならコンタクトでもいいから、とりあえず想像しなさい!』
言われた通りにコンタクトを想像する。メガネは昔から嫌いだ。目頭辺りの違和感が拭えなくてどうにも好きになれなかったのだ。ついでに言うと全然似合わなかったせいもある。
なんてことを考えているうちにイヤリングの感触が消え、目に微妙な違和感を感じる。そして最大の変化は視覚情報に妙なものが増えたことだ。レティーアさんの体にオーラみたいなモノが纏わりついているのが見える。これが魔力とかいうものだろうか。
「あなた、その眼はいったい……?」
『さあ、反撃といきましょうか?さっきよりもいろんなものがよく見える筈よ』
「いっちょ気合入れていきますか!」
戸惑った隙に一気に力を入れて押し返す。蹈鞴を踏んで怯んだ隙をついて槍を突きだす。しかしそれを辛くも避けたレティーアさんは体勢を立て直し、剣を下段に構えて腰を落とす。下がった分だけ踏み込んで振り上げられる剣を紙一重で躱し、続けて薙ぎ払い、突きと次々に繰り出される攻撃を最小限の動きで躱しながら時に弾いて防御する。
「ちょこまかとーーっ!!」
『いいわね。その調子よ』
レティーアさんの声も、ロリ女神の声さえも置き去りにしてすべてがよく視える。レティーアさんの次の動きが未来予知のような軌跡を伴って視え、後はその剣の軌道から避けるか防御するかを選択するだけ。動きがスローモーションのように見えるのは動体視力が上がったのか反射神経が上がったのか……いや、あるいはその両方なのかもしれない。
さらに何度か攻撃を回避したのち、次の動作に移る合間に隙のようなものを感じることができるようになってきた。ここに今、この瞬間に打ち込めば必ず当てられるような気がするというものだ。始めは攻勢に出ることに躊躇いがあったが、意を決して攻撃を開始する。
攻撃が当たらないことによる焦りから大振りになった隙を突き、剣の横腹に槍を叩きつけ無理やり体勢を崩す。体が流れて無防備になったところを狙い、胴体目掛けて槍を振るう。確実に入ると思われたそれは、背面ではないが棒高跳びをするように回避されてしまう。
だがしかし、その行動まで視えていた俺に動揺はない。槍を振るった勢いを殺さず一回転。前転して着地し、振り返り様に立ち上がろうとしていたレティーアさんの喉元に槍を突き出す。もちろん当てるつもりはないので、腕が伸びきった状態で寸止めの位置になるよう自分の動きも幻視した上での行動だ。
「ふぅ、これで降参してもらえませんか?」
「なかなかやりますわね。でも、その状態ではあと一歩、届きませんわよ?」
余裕の笑みと共にそう言われ、思わず苦笑して返す。
「ですが、この一歩を踏み込む間に逆転することは不可能なのでは?」
「あら、では試してみますか?」
はい?と聞き返す間もなく、槍先の重さが無くなり軽くなる。気付いた時には槍の穂先が地面に落ち、笑みを深くしたレティーアさんが振り抜いたと思われる剣を返して、飛び上がるように襲い掛かってきた。
「ちょっとちょっと!それって本当に木剣ですよね!?なんで同じ木でできた槍を切断できるんですか!?」
「このわたしに魔刃を使わせたこと、褒めて差し上げますわ!」
「魔刃って、それはなんかズルくないですか!?」
自分に向かって振るわれる剣には確かに魔力が纏わりついていて、それが薄い刃のようなものを形成しているのが見て取れる。勝利したという余裕から油断していた一瞬の隙を突かれたことで差し迫る危機に、とにかく当たる訳にはいかないと無様でも避けまくる。
「それはお互いさまでしょう。あなたもよくわかりませんが、その瞳に何かを宿しているではないですか?」
「その前に身体能力強化の魔法か何かを行使していたレティーア様に言われる筋合いはないと思うのですが!?」
「あらあら、では最初に魔法の使用を禁止していましたか?」
「いえ、それはしていません……ですが!」
「ならばこれもルールに則った範疇ではありませんか」
「詭弁だ!!」
防御にならないが持っていた柄も細切れにされ、役に立たなくなった棒を投げ捨てる。万事休す、打つ手なし。残されたのはただ降参するだけ。剣を逆に喉元に突き付けられ、身動きが取れなくなる。
「さあ、これで形勢逆転ですわよ?」
「そうですね」
「わたしみたいに足掻きませんの?」
小首を傾げて問われるが、答えられるような手段はすぐに思いつかない。さすがに拳銃を使う訳にはいかないし、というか使えば最悪殺してしまうから除外だ除外。
『別に良いんじゃないの?飛び道具の使用は禁止していないんだし』
それでも守るべき最低限のルールはあると思う。銃を使ってしまってはこの戦いの意味がなくなってしまう。あくまでもこれは近接戦闘の腕比べなのだから。
『だったら取って置きなのがあるじゃない。もう一つの心造兵装を出しなさいよ』
ああ、その手が有ったか。確かにあれを使えば勝機は有ったかもしれない。かもしれない、というのはライアンさんが慌てて止めに入って来たからだ。
「お嬢さま、そこまでです!この勝負、お嬢さまの勝ちです。ですから剣をお引きください!」
「そうですか。でも、彼にはまだ何か隠し手が有ったようですわよ?」
「はは、ご冗談を。さすがにこの状況を覆すような手など、わたしには思いつきませんでした」
『白々しいわね。あ~あ、つまんない。じゃあまたね』
気配が離れて行くのを感じながら、つまらないから帰るとか、ずいぶん身勝手な神様もいるもんだと内心ため息を吐く。
「本当に?」
レティーアさんからは疑わしい目を向けられるが、笑って誤魔化しておく。いくら動きを先読みできる目が有ったとしても、あの状況で攻撃を避けて武器を取り出せたかは微妙なところだ。
「では、そういうことにしておきましょう。ウォルター、汗を掻きましたので湯浴みの準備と着替えをお願いします」
「御意に。すぐに侍女たちに準備させます」
「ライアン、わざわざわたしの我が儘に付き合ってくれてありがとう。この剣を片付けておいてもらえる?」
「なんのこれしき、どうってことはありません。剣はお預かりします」
てきぱきと指示をだしていくレティーアさんは疲れをあまり感じさせない。対するこちらはというと、緊張感が解けたからかどっと疲れが襲ってきた。思わずへたり込みそうになるのを我慢し、使ってくださいとセリカちゃんから手渡されたタオルで汗を拭う。そうして気が抜けていたら、目の前まで接近してきていたレティーアさんに気付かなかった。
「それとサツキでしたか?」
「はい!?」
「何を大声を出しているんですか?まあ、そんなことよりなかなかの実力をお持ちのようですわね」
「あ、ありがとうざいます」
「レティ姉さまをあと一歩のところまで追いつめるなんて、なかなかできることではありませんよ!」
興奮して褒めてくれる分にはありがたいが、それをレティーアさんの前で言うのはどうなんだろうか?ムキになって再戦しようとか言いださないと良いのだが。
「年下の男に負けそうになったのは初めてです。思わずムキになって使うつもりがなかった魔刃まで出してしまいました」
「自分の方も少しだけズルをしましたから、お互い様ですよ」
「それです。それについてお聞きしたかったのです。あれはどういう魔法なんですの?普通、身体強化の魔法を使っても見ただけでわかる訳ないですし、それに途中から動きが完全に視えていたようですし」
「それについては自分でもよくわかっていないので、後日ということでもいいですか?」
「そうですか、わかりました。では後日、確実に報告しに来るように」
「はい、わかりました」
よろしい、と頷いて立ち去るレティーアさんを見送る。ああでも、説明なんて苦手なことを安請け合いしてしまうとは、面倒事が増えてしまった。
とりあえず一度部屋に戻って汗を流して、それから次のことを考えよう。
セリカちゃんと試合のことを話しながら、ゆっくりと城に戻ってこの試合の幕は閉じた。
最近、仕事のことで悩んでいたのでなかなか書く気分になれず、またもや遅れてしまいました。
世間では今日まで(正確には昨日までか)三連休だったようですが、自分は普通に土曜も仕事で、次週が連休になります。
なので今度は一週間で更新できると思うので、遅れないように頑張ります。
あと、猫アレルギーってわかってて猫と触れ合う場所に行くことになり、若干ダウン気味の作者。嫌いじゃない分、本当に辛いです。ああ、猫と戯れたい!肉球弄りたい!
なんてどうでもいい話ですね。すみません。
それでは今後も社会不適合者をよろしくお願いします!!