一戦目開始!!
次話投稿します。
「武器はいろいろ準備してある。好きな物を使うといい」
「サツキ様、こちらからお選びください」
何時の間に準備していたのか、気付かぬうちにウォルターさんの横に様々な武器が台に置かれていた。ライフルをウォルターさんに返してそちらに近づいていくと、本当にいろんな武器がそれこそ節操なく陳列されていた。
「なんともまあ、よく用意したものですね」
「新兵訓練用の木製の武器だからケガの心配はそれほどしなくていいぞ。せいぜい打撲から、ひどくても骨折だ」
「それ、十分に重傷だと思うのは自分だけですか?」
「なに、治癒の得意な術者であるロベルトがいるんだ。その程度すぐに治してやるから安心しろ」
「任せてください。完璧に治してみせますから」
「ああ、それはどうも」
良い笑顔をして言うライアンさんとロベルトさんに苦笑いを浮かべつつ相槌を打つ。ケガするのを前提に話をされても困るのだが、それでもやることには変わらないのだし、何より長い時間痛い思いをしなくて済むのは良いことだと無理やり自分を納得させておこう。それより今は、どの武器を使うのかを選ばなくては。
並べられた武器を1つ1つ確認していく。ショートソードに長剣、幅広の大剣にレイピアまで、剣だけでも数種類がある。というか、新兵を鍛えるのにこんなに用意する必要はないと思う。長柄の武器で槍に薙刀っぽいもの。バトルアックスにハルバード、さらには現実に使用するには不向きだと思う鎌まである。そして小さいものではナイフが数種類にククリ刀みたいなくの字に曲がったやつなど、本当にこんなに必要なのかと疑いたくなる物ばかりが置いてあった。
「よくもまあ、こんなに用意しましたね」
「それぞれに得意とする武器がある筈だからな。ある程度は揃えているつもりだ。どれにするか決まったか?」
「まあ、どれを使っても大して上手く扱える自信はありませんし……」
だいたいどれを使うかはもう決まっている。だが、武器についてはいいが盾を1つも置いていないのはどういうことなのだろうか?片手剣が置いてあるくらいなのだから、盾があってしかるべきだと思うのだが。
「ライアンさん、盾が無いようなのですが、新兵の訓練に盾は使用しないのですか?」
「ん?ああ、我々は盾を持ち歩かない。その答えはこれだ」
すっと持ち上げられたライアンさんの左腕に注目する。籠手の部分が淡く光ったかと思うと、カシュンッブウンッと音を立てて一度腕に沿って長方形の棒が伸び、扇子を開くように円形の盾が展開された。機械的なそれはこれまたファンタジーには不釣り合いな気もするが、見た目だけならカッコイイことこの上ない。しかし防御面に関してはどうなのだろうか?
「構造的には防御面に劣ることは確かだが、魔力を流して強化を施すことでカバーできる。だがこれも補助的なもので本命はこちらだな」
そう言って今度は盾を収納した左手を前に構えると、魔法陣のようなものが空中に展開された。見たままを言うならバトルファンタジー漫画とかでよく見るような魔術障壁と言ったところか。
「へ~~凄いですね。これなら銃弾も簡単に跳ね返せそうだ。実際にどの程度の強度なんですか?」
「そうだな、銃弾くらいなら跳ね返せる。あくまでも対人火器限定だな。魔法なら物によるが中級程度だな。ただし剣に関してはそこまで有効に作用しない。研究者達によると剣などの近接武器には個人の魔力が直接上乗せされるから、それが障壁に作用して簡単に切り裂いてしまうらしい」
「便利なように見えて弱点はあるんですね」
「だから盾があるのさ。まあ、何事も備えあれば憂いなし、ということだな。という訳でこれを最初から使わせるよりも、先ずは剣なしの状態で戦えるように訓練させることから始めるのが方針なんだ」
そうなんですか、と相槌を打ちながらこれで盾が無い理由はとりあえず理解した。ならば盾を使う作戦は無しだ。だったら自分に残された選択肢としては1つしかない。
「そろそろ武器は決まりましたか?」
「ええ、お待たせしてしまいすみません。今決まりましたので、早速始めましょう」
手に取った武器は槍、分類的にはショートスピアと呼ばれる2メートル近い槍だ。なぜ槍を取ったのかというと理由は簡単だ。実力差がある相手と同じ武器で戦うのはそれだけで自殺行為だと思うし、何より戦国時代の兵士の主武器は槍だったと聞く。それは敵を遠くから攻撃することができることから、心理的に恐怖心を和らげてくれるとかそんな感じだった筈だ。さらに戦略的な面で言うなら突くだけで避けにくい攻撃になるし、振り回すだけでも遠心力による攻撃力アップを期待できるからだ。
「それでいいんですのね?では、始めましょうか」
「サツキさん、ケガだけはしないでくださいね」
「はは、レティーア様相手にどこまでできるかわかりませんが、やれるだけやってみます」
頑張ってくださいの応援ではなく、ケガの心配をされるあたりセリカちゃんでも自分が勝てるとは思っていないようだ。それはそれでちょっと悔しいが、事実には違いない。諦めて勝てる戦いではなく、負けない戦いをするしかない。
「では僭越ながら審判はこのわたし、ライアンが務めさせていただきます。勝敗条件は降参するか気絶してしまうか、それ以外には勝負がついたとわたしが判断した時点で止めに入りますのでそのつもりでお願いします」
「わかりました」
「自分もそれで構いません」
「それじゃあ、両者共に5m離れてください」
ライアンさんの指示に従い目測で5メートル離れる。これでお互いの距離は10メートルは離れた訳だ。2人の中間にいるライアンさんには目もくれず、ただレティーアさんだけに集中する。
両手で構えられた剣はブレることがなく、しっかりと固定されているように微動だにしない。武術に関する経験や知識はないが、まったく隙がないことくらいは感じることができる。気分的には剣道の授業で段持ちの部員と練習試合をさせられるような感じだ。
「それでは、試合ーー」
ライアンさんの腕が振り上げられる。緊張感からか心臓の鼓動が早くなり、うるさく感じる。半身になって構えた槍を握る手に自然と力が入る。
レティーアさんも僅かに腰を落とし、気持ち前傾姿勢になっている。おそらく腕が振り下ろされると同時に駆け出してくるに違いない。
「開始!!」
「--っ!!」
思った通り、ライアンさんの腕が振り下ろされたのに合わせて一気に駆け出してくる。上段に振り上げられた剣を正面から受け止めるような愚を犯す気は毛頭ない。槍のような長柄武器にとって、懐に入られることほど危険なことはない。剣が振り下ろされるのに合わせて槍を横合いから叩きつけることで回避する。
「意外とやりますわね」
「はは、たまたまですよっと!」
バックステップで距離を取り、剣が届かない間合いから突きを繰り出す。3回繰り出した突きは全て弾かれ、3回目の突きを放った後の引く動作に合わせて突撃してきたレティーアさんを引き離す為に、引く手に合わせて体を右回転させて薙ぎ払いを仕掛ける。
「くぅ!」
回避することが無理と判断したのか腕に密着させる形で剣を構えて防御される。弾かれた槍を今度は逆回転させて上段から振り下ろす。それを受けるのはマズイと感じたのか、今度は受けることはせずに半身になって躱される。地面を打った衝撃に手が痺れるが、気にしている暇はない。
「覚悟!」
「まだまだぁっ!!」
体ごと体当たりするように繰り出された突きを柄で受け流す。勢いそのままに通り過ぎようとしたレティーアさんだが、踏み止まって振り向きざまに薙ぎ払いを仕掛けてきたのをまた柄で受け止める。
「なかなかやるじゃないですか」
「それはどうもっ」
ふふふっと余裕の笑みを浮かべるレティーアさんに対してこちらはいっぱいいっぱいだ。一連の攻防だけで神経を削られ、マラソンをした後のような疲労感が体を支配している。このまま負けを認めて楽になりたいところだが、それは許してくれないだろう。
「とは言え、どうしたものか……」
レティーアさんに聞こえないように独り言を漏らす。打つ手なし、手詰まり状態をただ引き延ばすだけでは芸がない。せめて何か有効な手を打って負けるなら負けたいものだと思うのは贅沢過ぎるだろうか?
『わたしが言ったことをもう忘れちゃったの?』
「っ!?」
いきなり頭の中に響いてきた声にびっくりする。それを声に出すことはしなかったが、一瞬ビクッと体を震わせたのを見てレティーアさんに怪訝な顔をされた。
『仕方ないなぁ。じゃあわたしが言う通りにやってみてね。こんなサービス滅多にしないんだから有り難がりなさい!』
どこかで聴いたようなセリフを言うロリ女神の声に困惑しながらも、突然の事態に困惑している自分に攻め時と判断して打ちかかってくるレティーアさんの相手をする。2つのことを同時にするのは苦手だが、なんとかする為にここは踏ん張るとしよう。
何時の間にやらお気に入りからブックマーク登録に変わっていますが、それでも登録された方、ありがとうございます!!
次話でとりあえず試合は終わります。
その後にはハンターズ・ギルド編を書こうと思っています。
もうしばらくゆるい感じで進めるつもりですが、サンベルグ編の最後は結構派手に終わらせるつもりですので、期待していてください。
あ、でも過剰な期待をされても困るのでほどほどによろしくお願いしますね。