5話 『仕事』
今回は少し短めです。
「それにしても凄かったッス。ハイゴブリンなんて盾役と攻撃役で戦って安全が確保出来るのが低レベルでの基本と言われてるんスけどね。流石、勇者様ッス!」
結局、地の喋り方で話せばいいとキッドを言いくるめてから話していると今日の戦闘の話へと移っていった。
「それに、最後のはスキルでは無かったようですが、なんだったのですか?」
アレンさんも気になるらしい。まぁ知識欲の人みたいだから仕方ないか。
「最後に言ったのは『正法執行』って言って、凶悪な犯罪者を現行犯で断罪する時の掛け声みたいなもんですね。前の世界じゃ、軍とか騎士団みたいなのに所属してたんで、ハイゴブリンが人を襲ったって聞いて『仕事』の意識で戦ったんでそう言ったんですよ」
ああ、なる程。と言ってるアレンさんとこちらに振り向き目をキラキラさせてるキッド。
「詳しく聞きたいッス!勇者様は前の世界でも勇者様だったんスか!?」
確かにこちらの世界で見れば勇者かもな。でも実際は『俺は』勇者じゃない。
どうせ帰るまではお喋りが続くんだから俺の事を話すか。別に支障も無いし。
◇◇◇
前述の通り、俺は勇者じゃない。だが、俺の両親は世界規模、いや、もしかしたら宇宙規模での英雄かもしれない。
正確には俺の両親と友人四名とナノマシンの開発者でもあるロリッ娘体型の異星人博士の計七名が英雄だ。
早い話が快楽殺害で宇宙を荒らしていた大規模な集団を博士開発のナノマシンを使ってたった六人で壊滅したのだ。博士はこいつらに勝つために地球まで惑星逃亡してきたらしい。
んで、宇宙を荒らしていた集団を倒してメデタシメデタシでは無かった。
地球内で新技術たるナノマシンを巡って戦争は起こるわ、新たに侵略してくる異星人が来るわで武力と情報戦略でなんとか終結させる頃には全員英雄になっていた。と言うわけだ。
そんな中でもちゃっかり愛を育んでいた俺の両親はそ早々に結婚、妊娠、俺誕生である。
博士は恋愛に興味が無くて残った四人が男女二人ずつだったが、残念、女性二人は名家のお嬢様で立派な婚約者がいて男二人が残された。
この二人は変人と堅物で未だに結婚出来ず、たまに俺への訓練と言って女にふられたショックを八つ当たりしに来るのはメンドクサかった。
それで、俺はと言うと、両親や何故かつきまとってくる博士、訓練してくれる英雄に囲まれて次代の英雄となるべく異星人や、その技術で殺人などの重犯罪を犯した者達を取り締まる事を『自主的』にしていた。
ああ、自主的だ。博士に当初は無理矢理ナノマシンを押し付けられたり、訓練だと言われて犯罪者とのバトルを強制されたりしてるとしても俺が自主的と言ったら自主的だ。
だからアレンさん、その悲しみと優しさの籠もった目で見ないで下さい。泣きたくなるから。
しかも博士が情報操作するから警察や各国の軍関係者達と強力してたりするある種フリーの正義の味方だ。
そして掛け声の『正法執行』はナノマシンでの断罪記録の保存とかの役割があったりする。
まぁ、他にも色々と特殊な事はあるがだいたいがこの話に集約するな。
ああ、後この革のジャケットもナノマシンで擬態したものだから、防御は優れてるし、攻撃にも利用出来る便利な武器だ。
◇◇◇
「革鎧を着てくるから戦いに慣れているとは思いましたが、英雄のご子息でしたか、なるほど、納得です」
「英雄の息子が異世界の勇者…、カッコいいッス!」
賞賛をありがとうキッド。かわりに頭をモフモフしてあげよう。
その後もこの世界の常識とかを教えてもらいながら馬車は王城へと戻ってきた。
馬車から降りてキッドは納屋へ行き、アレンさんは助手の子に呼ばれて研究室へと飛んでいった。うん、『飛んだ』。魔法は低空なら飛べるみたいだな。スゲー。
そして一人になってからあらかじめ聞いていた訓練所に併設された浴場に行こうとしたら、明らかに敵意の見える表情の騎士が俺の前に立ちはだかった。
「お前が、勇者か」
なんだろう、明らかに敵意は持ってるのにそれを抑えてる。
「ああ、リーゼロッテ姫様に召還された勇者のナギ・ジュウモンザキだ。アンタの名前を聞いても良いか?」
「…バルトフェルトだ。…くそっ、なんでこわな覇気の無い奴が勇者なんかに…」
なに、俺が勇者じゃ文句ある人?
「まぁ、それでもちゃんと勇者として魔王とは闘いますんで見ててください」
「……ふん!姫様の払った代償分以上に働かなければ許さんからな!」
そう言って、ドギツイ目で俺を睨んでからバルトフェルトさんは歩き去っていったけど、最後に凄い事言っていったな。
まぁ、予想はしてたけど。
アレンさんも召還者の反動とか言う前に『の』って言って言い換えたから召還したら呪いでも掛かるのかと思ったけど、今ので確定したな。
勇者召還で強力な力を持った人物を一人召還する。その勇者は加護でさらに強化されている。
…多分その加護の対価に何かを代償として支払うとかそんな感じなんだろう。
うーん、これは一度姫様とちゃんと話をしないとマズそうだなぁ。