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シャムセイル学院 Ⅰ

 ユーリ、アルル、ナタリーは湖のそばで体を休めていた。

 ユーリは倒れた大木にだるそうに腰掛けている。アルルは湖に足を浸して体の火照りを冷ましている。ナタリーは気を失ってしまった相馬の介抱をしている。

 相馬が濃霧を作り出して紅竜の追撃を免れたあと、相馬は糸の切れた操り人形のように気を失ってしまった。空中から落ちてしまうところを寸でのところでナタリーが支えて、ユーリが風を操りここまで運んできた。

 アルルは火照った体を冷ますどころか逆に寒くなってきたので、濡れた足を自分の出した火で乾かし、ユーリのそばまでやってきた。

「ねえ、ユーリ」

「なーにー? あー、もうしんどい……」

「あはは、ごくろうさま。あのさぁ、ソーマくんって、何者なんだろうね」

「うーん、考えてたけど、わっかんないわ。だってあんなの見たことも聞いたこともないわ」

「だよねー。ナタリー、ソーマくんの様子はどう?」

 ナタリーは二人の方を振り向き、軽く溜息をついた。

「気を失っているだけだとは思いますが、一応癒しの霊術を施しています。まだ目を覚ます様子はありませんね。どうしましょうか? このまま意識を取り戻すのを待ちますか?」

 ユーリとアルルはお互いに顔を見合わせ、しばし頭を悩ませた。

「正直、寝たまんま運ぶのは骨が折れるわ。どうせあたしが運ばなきゃならなくなるんだし」

「でも、あんまり休んでもいられないよ? 時間かけ過ぎたら捜索隊とか来て大騒ぎになるかもしれないし。そこまで心配されないとは思うけど」

「まあねー」

 ユーリは嘆息しつつも重い腰を上げ、相馬の顔を覗き込んだ。

 ただの迷子ならばここに置いていっても構わないと思う。しかし、あんなものを見せられては連れて帰らないわけにはいかない。

「この人は……その、合成精霊術を使いました。それ自体はさほど驚くことではなかったのですが……」

「ええ。まさか、ね。こいつはアンチマジックを合成させた。ありえないもの見ちゃったわね。紅竜に襲われるわありえないこと見せられるわ、ああーっ、もうっ! なんかこいつの寝顔見てたら腹立ってきたわ」

 ユーリは風を巻き上げて相馬の体を浮かせた。その風の勢いがどんどんと増していく。

「ちょ、ちょっとちょっとぉ! ユーリ何するつもり?」

「ん、湖にでも放り込んだら目が覚めるんじゃないかなって。気絶してるだけでしょ?」

「いやぁ、さすがにやめといた方がいいと思うよ。わたしは」

「風邪、引かないといいですけどね」

 ナタリーの言葉にユーリはニカッと笑って相馬を湖の上まで移動させた。これくらいなら泳いで帰って来れるだろうと距離を見計らって、投げた。そのまま落とすだけならまだ可愛いものをわざわざ風で上に放り投げ、後は重力に任せて自然落下させた。

 大岩でも落としたかのような水しぶきを上げ相馬は湖に沈んで行った。

 アルルは額に手を当てて「あちゃあ……」と首を横に振る。ユーリは「にしし」と悪戯っぽく笑い、ナタリーは水しぶきが作った虹を「おーっ」と拍手をしながら眺めていた。

 さあ、目を覚ませ。

 ユーリは何かを成し遂げた高揚感にも似た気持ちで相馬が水面に浮かび上がるのを待った。アルルは火をちょこちょこ出して相馬を乾かす準備をしている。

 しかしながら、一向に相馬は浮かんで来ない。

 ……やり過ぎた?

「浮かんで来ないね」

「き、きっと泳いでるのよ。あれね、そうよ、お腹空かせてたみたいだったから魚でも捕ってるんじゃない?」

「まあ、あの高さから落ちたら水面とはいえ相当ダメージがあるでしょうね」

 ナタリーは状況を完璧に理解していた。理解したうえで楽しんでいた。

 気絶した相馬に追い打ちをかけたユーリは嫌な汗が止まらなかった。

「せっかく助けたのにユーリが殺した……。人殺しだぁっ!」

「な、何言ってるのよアルル! あたしは目を覚まさせてあげようと思って」

「このままだと本当に死んじゃいますよね」

「じょ、冗談じゃないわ!」

 ユーリは慌てて相馬を投げ入れた地点へ飛んで行く。

(ちょっと悪ふざけしただけじゃないの。ああもう、世話の焼ける!)

 自業自得だ。

 湖の上、落とした場所を覗いてみる。湖は透明度の高い綺麗な水だったのだが、空中に浮かぶ自分の風のせいで水面が波打って中がよく見えない。飛び込んで探す? 嫌だ。濡れるし、冷たいし。でも助けなくてはならない。でも濡れたくはない。人の命と自分の些細な嫌悪感を天秤にかけるユーリだった。

 そのまま頭を抱えながら葛藤していると、何かが水中で動いているのが見えた。

 まさか、溺死体ではなかろうな。恐る恐るその物体に目を向けると、だんだんと浮かび上がって来る。それは人の姿だった。手足を必死に動かし、酸素を目指しながら上がって来る。

「ぷはぁっ! かはっ!」

 勢い良く頭を日の下へさらけ出した相馬を見て、ユーリは安堵の息を吐いた。本日何度目かの臨死体験をした相馬は顔面蒼白だった。

 目が覚めたら水中だった。そんな摩訶不思議な体験をした相馬は周囲を見渡し、水面に影を見つけた。見上げるとそこには金髪緑眼の少女がいた。たしか名をユーリといったか。何をしているのだこいつは。

 相馬の目に映ったのは長い金髪のゆらゆら揺れる美少女が自分を見下ろしている様と、そしてその白い太股の奥に見えた黒い三角布。いや、影だから黒く見えるのか。とにかく見えてしまった。

「ようやくお目覚めね。いろいろと聞きたいことがあるわ。岸に上がりなさい」

 鼻を鳴らしながら腕を組みながらそう言う仕草はかなり威圧的に感じてしまうものだが、いかんせん見えてしまっている。本人は気付いてなさそうだが。もう少しでその全貌が明らかになりそうなのに、風が弱い。もっとスカートを揺らしてみろ。

 相馬は少しだけ移動してみる。スカートの中が見えやすいように、少しだけ前方へ。顔は上げたまま、移動したと思わせないように、さりげなく。

「あんた、水の中にいる割には随分と顔が赤いわね」

 鋭い! かおがあかいのはみえているからです。

「聞いてるの? 人の話しはちゃんと相手の目を見て――って、あんた、さっきから何を見てるわけ?」

 キヅカレタ……? ヤバイ、モグリマショウ。

 ユーリは咄嗟にスカートを押さえ、相馬はぶくぶくと泡を吹きながら湖に潜り始めた。緊急避難である。

「聞こえているかしら? 潜っちゃったら聞こえないわよねぇ。あたし、水の精霊術だって使えるのよ。逃げ出す準備はできたかしら?」

 ユーリは口の端をぴくつかせながら霊力を練り始めた。すると、湖の水が渦を作り始める。初めは湖面が揺れる程度だったのだが、次第に相馬がいる辺りを中心に渦が勢いを増していった。

 微かにだが、相馬がもがいている姿が見える。

「ふふふ、この湖の中のものは全てあんたに向かって流れていくわ。さて、この中に大木でも落としたらどうなるのかしら。うふふ……うふふふ……」

 目が据わっている。

「ユーリ! すとーっぷ!」

 岸から叫んだアルルの声で我に返った。

「や、やばっ!」

 すぐさま逆方向に渦を作り勢いを相殺していき、湖面には静寂が訪れた。そして、ぷっかりと浮かび上がる溺死体。

 ユーリはそれをちょんちょんと足先でつついてみた。

「し、死んだ?」

「生きとるわ!」

 生きていた。

「何しやがる! 一瞬死んだぞ! 誰かに追い返された気がする!」

「案外しぶといのね」

「殺しかけといて言う台詞か!」

 怒声を浴びせる相馬を見て、言葉とは裏腹に安堵の表情を隠せないユーリだった。一方の相馬は恨めしそうにユーリを睨んでいる。何て女だ。

「あんたこそ、スカートの中覗いといて言える台詞かしら?」

「みっ……見たくて見てたんじゃねえよ。見上げてたらたまたまそういう風に見えただけだろ」

「ふーん、顔赤くして?」

 言い逃れが効かない。たしかに顔が赤かったのは相馬自身もわかっていた。女の子の生下着など見たことはなかったし、しかもこんな美少女の下着なんて、秘密の花園だ。とにかく、またさっきのような目に遭ってはたまらない。言い訳が必要だ。

 咄嗟に思いつく言い訳はこれくらいだった。

「あ、赤くして、だよ。お、お前があまりにも、か、可愛かったから」

 言ってしまった。言い逃れるためとはいえ、こんなにも恥ずかしいことを。しかし変態扱いされるよりかは幾分かマシだった。

 しかしこれが効果覿面だった。

「な、何よそれ。そ、そんなこと言ったって誤魔化されない、から……」

 今度は逆に顔を赤く染めるユーリがいた。

 ユーリは類稀なる美貌を持っていた。それは同性も羨むことで誰もが認めることだった。だがそれが良くも悪くもユーリに言い寄る男を遠ざけていた。自分に自信がある男でも、自分ではユーリには釣り合わない。そんなことを周りの男に思わせていた。神々しくも輝く金髪がより一層そう思わせているのかもしれない。

 しかし、それがユーリの抱える一つの悩みでもあった。

 自分で自分のことは可愛いと思う。美しいと思う。誰もかれもからそう言われたわけではないが、アルルやナタリーからはよく言われていた。別に言われたいなどとそういうことではない。しかし生まれてこのかた、付き合ったことはなく、可愛いやら、美人やら、愛の告白やらを囁いてくる男はいなかった。不思議でたまらなかった。周りには恋人同士の男女もいる。仲良さそうに腕なんぞを組んで歩いているのをよく見ていた。ちょっと、憧れる。正直、自分の方が可愛いのに。男の人から見ると自分なんて平凡な女なのだろうか。

 些細な悩みなのかもしれない、ユーリのことを羨む同性はいくらでもいる。ユーリの悩みをそんな彼女らに話すと怒声の嵐が巻き起こるに違いない。それでもユーリにはわからないのだから仕方がないのだ。

「ほら、運んであげるから力抜いて」

 急に優しい口調になるユーリを相馬は訝しく思わずにはいられなかった。だが少し考えて、やめた。体が痛い。体が重い。早く休ませて欲しい。十分に休んでいたのだがユーリの手によって湖に放り入れられたことを相馬はまだ知らなかった。



「あれあれ? 何かいいことでもあったのかな? ユーリ」

 機嫌良さそうに帰ってきたユーリと、人工的な波によって岸まで押し流されてきた不機嫌な相馬を見て、アルルは不思議そうに言った。

「な、何でもないわよ。それよりも乾かしてあげて、この人」

「りょうかーい。ソーマくんおいでー」

 アルルは手招きをして、相馬をさきほど自分が座っていた丸太の上に座らせた。そして火の玉を作り出して相馬に向ける。温度調節もお手の物だ。

 人間が火を出すなんて、改めて見ると不思議な現象だ。不思議ではあるけれど、便利なもんだ。相馬は口の中で呟いていた。

「ソーマさん、でよろしいですね。これも何かの縁ですし、自己紹介をしましょう」

 ナタリーがとことこと相馬に歩み寄り、開口一番そう提案した。アルルはにっこりと笑い、ユーリも微笑みを浮かべた。

 そして初めに口を開いたのはナタリーだった。

「では私から。私はナタリー・カルドール。こう見えても女の子です。よく坊やとか言われますけど私は女の子ですから。レディーです。万が一口が滑りでもして私のことを坊やとでも呼べば水塊を顔に当てて陸上での溺死という惨事が起こり得ないのでゆめゆめお気をつけ下さい」

 にたあと笑い怖ろしいことを口走るナタリーだった。そんなこと言うならスカート穿けよと心の中でごちる相馬。ナタリーか。くん付けだけは気をつけよう。

「じゃ、次はわたし! わたしはアルケニア・ノーブル・ルルーブラント。みんなからはアルルって呼ばれてるよ。ソーマくんもアルルって呼んでね。きゃはっ」

 照れながら自己紹介を済ませるアルル。その際に火加減を誤り相馬の前髪が焦げた。この子も何かと気をつけた方がよさそうだ。うっかり丸焼きにされかねない。

「じゃあ、最後はあたしね」

 ユーリは先程から妙にしおらしくなっていた。相馬に少し熱っぽい眼差しを向けていた。相馬はそれが少しだけ気持ち悪いと思っていた。何かよからぬことでも企んでいるのではないか。

 相馬にとってユーリの印象は良いものではなかった。美人なのに、こいつこそ何をしでかすかわからない。加減を知らない女だ。

「あたしはユーリ・スタンフォーリア。あんたの命の恩人ね。二度ほど。ウェアウルフの時と紅竜の時。あ、あんたが望むならあたしのこと名前で呼んでいいわ」

 アルルとは違う様子で照れている。

「命の恩人って、さっきはお前に殺されかけたっていうのに」

 相馬は鼻で笑ってユーリを一瞥する。

「ああ、ちなみにそこにソーマくんを放り込んだのもユーリだよ」

 炎で矢印を作り湖を指し、アルルが満面の笑みで言う。

「なっ! お、お前かっ!」

「ちょっ、アルル! 余計なことは言わなくていいの!」

 相馬は今にもユーリへ飛び掛かりそうな勢いだった。

 しかし待て相馬。冷静になれ相馬。返り討は確実だ。

「も、もうやめてくれよな、あんなこと」

 仕方がない。またあの変な力を使われたらたまったものではない。今生きているのが不思議なくらいだ。

「わ、わかってるわよ。でも、あんたも精霊術使えるなら自分でどうにかできるでしょ」

「……は? 精霊術? 誰が?」

「あんたよ、あんた。しかもアンチマジックを合成させるとか、ありえないし。本当にどこの出身? あんな技術を持ってる部族なんて聞いたことないわ」

 何だ、何を言っているのだこのユーリとか言う女は。あの不思議な力を自分が使ったというのか。何を勘違いしているのだ。

 相馬はそう思うばかりなのだが、相馬にはどうにもユーリが嘘をついているようには見えなかった。そもそも嘘をつく理由も見当たらない。アルルとナタリーも興味深そうに二人の様子を窺っていた。

「ソーマくん、どうして最初はとぼけた様子なんて見せたの? 精霊術なんてまるで知りませんみたいな顔してさ。もしかして合成の技術が一子相伝とか?」

 ユーリもアルルも、何の話しをしているんだ。

「まぁ、隠したくなるようなことですからね。興味があります。その頭を切り開いて見てみたいですね」

 ナタリーまで。しかも幼い顔して残酷だ。

 相馬を見る三人の目は宝でも見るような目だった。自分たちにできないことがこのソーマとかいう男にはできてしまう。それはどうしてだ。いや、一体どういう仕組みで精霊術を使ったのだろう。聞きたい。知りたい。教えてもらいたい。

 この世界に生きる者にとっておそらくは共通の見解だった。学院でもそんな技術は教えてもらえない。そんなことができることすら教えてもらえない。必ず合わさることはないと言われている相反する属性の精霊術の合成。一体この男は……?

 しかし当の本人は困惑していた。

 精霊術なんて、魔法のようなファンタジーにしかない力なんて、普通の人間に使えるわけないじゃないか。こいつら頭おかしいんじゃないか?

 しかし実際にこの目で見た。ユーリは空を舞い、アルルは今だって自分を乾かしてくれている。ナタリーはドラゴンの炎を防いだ。全て現実に起こったことだ。

 となれば自分がおかしいのか。

 そう思ってしまう。今まで暮らしていた地球が夢か幻で、この世界が本物で自分は記憶一切を失くしてしまっているのだろうか。

 何から何までさっぱりだ。

「でさぁ、ソーマくん。あれってどうやったの? やっぱ教えられないことなのかな?」

 アルルは目を輝かせて相馬に尋ねた。口元からは微かにヨダレが。ユーリもナタリーもヨダレには一切気がつかず相馬の言葉を待っている。

「あ、あれって?」

 本当に珍獣扱いだ。

「だぁかぁらぁ、さっきソーマくんが使った火と水の合成精霊術のこと。本来は互いに打ち消し合ってしまう力なのに、ソーマくんは普通にその二つを合成させた。わたしたちにとってそれってすごいことなんだよ? ソーマくんが住んでたとこじゃ普通だったのかもしれないけれど」

「だから俺じゃないって。俺がそんなオカルトなもの使えるわけないじゃないか」

 強く否定する相馬だが、三人ともそれを真に受けようとはしなかった。

 この目で見た。この男が精霊術を使うところを。今さら誤魔化しなど効くものか。

「大体そんなことできるならあの狼だって自分でどうにかしてたって」

 それに反応したのがユーリだった。

 たしかにそうかもしれない。あの時こいつは一人だったし、わざわざ力を隠す必要もなかったはずだ。助けに入らなければ確実にやられていた。では何故だ。そう考えてしまうと紅竜との戦闘で使った精霊術の辻褄が合わない。

 ユーリは相馬と出会ってからのことを思い返していた。注意深く思い返して、気付いた。

「もしかして、意識せずに力を使ったってことかしら?」

 アルルとナタリーは同時に目を見開いた。

「たしかに、紅竜の時のソーマさんは様子がおかしかったですね。呼びかけにも答えませんでしたし、集中……しているとも思えない表情でした」

「言われてみるとそうだねぇ。ソーマくん、どうやってあの紅竜から逃げたのか覚えてる?」

 先の先頭での相馬の記憶は、紅竜の口から火弾が放たれたところまでだった。その先は覚えていない。次に気が付いたのは水の中だった。溺れていた。苦しかった。くそぅ。

「いや、覚えてない。……まさか、俺が何かしたっていうの?」

「やっぱりね……」

 ユーリは嘆息した。

「そうなるとやはり連れ帰らないといけないようですね。ソーマさんが何もわからないのならここで話していても仕方ありませんし」

「だね。じゃ、そうと決まったらさっさと帰ろう! お腹も空いたし疲れちゃったし、お風呂にも入りたい!」

 アルルとナタリーの意見にユーリは軽く返事をして、

「ソーマ、あんた歩ける?」

「歩けるけど、もしかして俺に選択権はないっぽい?」

「当たり前でしょ。今のあんたはさしずめ要注意人物、重要参考人ってところかしら。あんただってどうせ行く宛てもないんでしょ? あたしたちのところなら巨獣の連中も襲って来ないし。一緒に来た方があんたの身のためよ」

 たしかにそうだ。行く宛てもなければ、金も食べ物もないのだ。さっきのウェアウルフみたいな化物に襲われたらたまったものではない。一応、保護してくれると言ってはいたし。

「仕方ない。迷いの森に自分から足を突っ込むってのも癪だけど、もう少しおとぎ話の先を見てみたい気がするしな」

 精霊術という力なんて、漫画などの中だけにある空想のようなものだ。そんなものを実際目の当たりにした相馬は少なからずもこの世界に興味を抱いていた。

 夢のような話しだ。もしかして本当に自分にも力が使えるのかもしれない。友達と内なるパワーや気の力を試そうとしたことはあったが何の変化もなかった。当然だったけれど。しかし自分が使い方を知らないだけかもしれないが、見てしまった。空を飛んだり火を出したり。そんな奴らがそこらに平然といたら世界は大混乱に違いない。夢の、おとぎ話の世界だここは。ならば満喫してやろう。少しだけ。危険なことは避けて。

 相馬の言葉にユーリは表情で返事をして、アルルとナタリーに向かって言った。

「さ、帰りましょう」

 二人とも柔らかく微笑んで頷き、ユーリが歩き始めると共に歩みを合わせた。

 風になびく金髪。

 それが心強く感じられて、相馬も足並みを合わせて歩き出した。



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