7―トモダチ―
剣道場の一件で結局遅刻してしまった私は、大人しく先生に怒られることに。
遅刻理由は適当にはぐらかせたけど、クラス中の視線を浴びる、息苦しい午後の授業だった。
「さあ、部活部活ー!」
1日のうちに何があったとしても、終わりよければすべてよし!
鼻歌を歌いながら荷物をまとめていると、若葉くんが教室に戻ってきた。放課後になるなり、担任の土屋先生に呼び出されたのだ。
「お帰りっ! 先生なんて?」
「今日1日の様子と、部活はどうするのかって聞かれた」
何てタイムリーな質問!
「若葉くん、ズバリ何部に入りたいですか!?」
手にマイクを持ったフリで、リポーターの真似事をしてみる。
インタビューされた若葉くんは腕を組み、しばらく考え込んでいたけど、思い浮かばないみたいだ。
「迷ってるなら剣道部に入らない? 一緒に剣道しよう。きっと楽しいよ!」
ずずいっと身を乗り出す。
でも若葉くんが目を白黒させていることに気づいて、慌てて引っ込めた。
「いきなりごめん! 私考えるより先に声に出しちゃうの。気が進まないなら……」
「そういうわけじゃないんだ。紅林さんが嬉しそうだったから。
剣道、すごく好きなんだね。……うらやましいよ」
「……若葉くん?」
「部活は、当分考えてないんだ。僕自身やらなくちゃいけないことがあって、今はそれで手一杯だから」
「それって家のこととか?」
家族で東京に越してきて間もないというし、不馴れなことが多いんだろうなぁ、と思うのが自然だった。
若葉くんは明確にうなずきはしないものの、にっこりと笑う。
「でもすぐに慣れるはずだし、終わったらちゃんと考えるよ」
「そうなんだ……」
勧誘でなかっとは言えない。
仲間が増えたらいいなとか、結果的に保留になって残念だとか、そういう気持ちも全部本当。
でも、決めるのは私じゃない。そこまでちゃんと決めてるなら、私から言うことはこれ以上ないよ。
「じゃあ、今日はもう帰るんだ」
「紅林さんは部活だね。頑張って」
「わかった。じゃあね若葉くん。また明日!」
手を振ったら、振り返してくれる。
朝起きて、学校に来て、部活をして家に帰る。
繰り返される日常の中に友達がいるだけで心はこんなに晴れ晴れするんだって、若葉くんの笑顔に教えられたな。