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【完結】夜空の琥珀  作者: はーこ
一章【新緑と陽だまりの編入生】
6/46

4―ヤクソク―

 

 やって来たのは教室棟の一番端にある資料室。人影は少ないものの、日当たりはいい。まあそれはともかく。




「さてと……若葉くん、大丈夫だった? すごい悪口言われてたけど自覚してる?」



「うん」




 ホントに!? 悪口を言ってきた相手と一緒に笑ってたと思うんだけど!


 と、すぐそこまで出しかけていた言葉を、真面目な若葉くんの表情を前にして、飲み込んでしまう。




「平気。ちゃんとわかってるよ。あの人たちの悪意も、自分がどれだけバカにされていたのかも。


 挑発に乗りたくなかったからああやって返したけど、まさか、紅林さんが間に入ってくるなんて思わなくて」



「……!」




 若葉くんは、自分の置かれている状況がちゃんとわかってた。その上で、どう乗り越えるべきか考えていた。


 ということは、私のしたことって、余計なお世話……。




「……ごめんなさい」



「どうして謝るの」



「だって、勝手に割り込んで騒いじゃったから」




 早とちりで困らせてしまった。これじゃあ、ただのおせっかいの押し売りじゃない。




「そんなことないよ。紅林さんが来てくれて嬉しかった。僕、地味なのは変わりないから。


 紅林さんみたいに仲良くしてくれる人がいると、こんな僕でもいいんだって思えるんだ」



「ううんっ! 若葉くんは全然地味なんかじゃなくて……」



「……ありがとう」




 まただ。どうして若葉くんは、私に笑顔でお礼を言うのだろう。




「私はね、若葉くんが思ってるほどいい人じゃないよ。


 さっき割り込んだのも、話があってたまたま居合わせたからやっちゃったようなものだし」



「僕に、話?」



「私のこと……黙っててもらおうと思って。


 最初に会ったときも、さっきも、私の口調を聞いたでしょ?


 私、この学校では不良で通ってるの。こんな髪の色だし、怖いからさ。素の部分だけは、誰にも見られたくないの」




 入学してから、もう1年以上経ってしまった。今さら「違う」と言っても信じてくれる保証はない。


 みんなにとっては、あの姿が〝紅林瀬良〟


 これから平穏に暮らすためにも、素顔を知られないことが必須条件なのだ。




「金髪はイギリス人のお母さん譲りなの。


 だけど顔はお父さんに似ちゃったから、目は茶色いし、鼻は低いし……ハーフに見えないし」




 きっかけは本当にささいなこと。


 だけどウワサはウワサを呼び、結果として怖がられるようになった。


 周りと合わせていかなければ、私は生活できない。




「だから、黙っててもらおうと思って探してたの。あんなことになったけどね」



「紅林さん……」



「なんか、頭にきちゃって。あれだけ好き勝手言って、『あなたたちは若葉くんの何を知ってるの?』ってね。


 まあ……私も朝が初対面だし、人のこと言えないんだけど、若葉くんがいい人だっていうのは知ってたから、ついね」




「怖くない」と言ってくれたことが、どんなに嬉しかったことか。


 それだけは、揺るがない事実だから。




「大丈夫。誰にも言わないよ」



「ホント?」



「もちろん。断る理由がないから」



「ありがとう!」




 胸を撫で下ろす。


 ……嬉しい。でもこの気持ちは秘密が守られる安心からじゃない。


 怖がったりしないで普通に接してくれることが、ただ純粋に嬉しかったから。


 彼なら、私がずっと待ち望んでいたもの――友達に、なってくれるかもしれない。




「あ、あの、改めて、これからよろしくね」




 ちょっとぎこちない私に返ってきたのは、まぶしいくらいの笑顔。




「こちらこそ」




 希望の光が、見えた気がした。

 

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