3―ショウドウ―
始まりの場所は、あの公園だった。
僕はそこで彼女と出会い、彼女に救われ、彼女から大切なものをもらった。
とりとめのない日常の一瞬一瞬が思い出となり、心の支えになる。
彼女とこのままずっと一緒にいられたら、どんなにいいだろう。触れ合う度、その気持ちが強くなった。
けれど楽しい時間が過ぎ行くのは、まばたきをするより早いものだった。
☆ ★ ☆ ★
「また遊ぼうね、ソウくん!」
「うん」
手を振り返しながら、軽い足取りで駆けて行くちいさな背中を見送った。
脳裏をよぎる笑顔に温かい気持ちを感じ、同時に胸が痛くなった。
「……ごめんね、セラちゃん」
目頭が熱くなり、空を振り仰ぐ。頭上に広がる茜は驚くくらい澄み切っていて、悔しいとも、綺麗だとも思った。
……もう、準備は整ってしまった。
僕は明日早朝、京都に帰らなければならない。
☆ ★ ☆ ★
帰宅した頃には、宵闇が空を染め始めていた。
「あら、もう帰ってきたの? せめて今日くらいは、もう少しだけセラちゃんと遊んでいてもよかったのよ?」
「……いい」
「聡ちゃん?」
母さんの呼び声を無視して居間を通り抜け、真っ直ぐに自分の部屋へと向かった。
……気分が悪い。どうにも落ち着かない。
夜風に当たりたくなって外へ出ると、運の悪いことに満月だった。
「……くっ!」
血が、疼く。
うっかり琥珀の光を見てしまった僕は、とっさに掴んでいたベランダの手すりに額を打ち付けた。
衝撃。すぐ後に痛みがついてくる。
歯を食いしばり、ただ床を睨みつけていた。
こうなることはわかっていた。だから早く帰ってきたんだ。傍にいるほど、離れたくなくなってしまうから。
僕はまだ、この衝動を抑えることができない。
今の僕に会えば傷つけてしまうから、僕は何も言わずに君のもとを去る。
君が泣いても、それをやめはしないだろう。
――夜が更け、満月が空の頂点へと昇る。月の力が最も強くなる時間帯だ。
「……っ!」
今夜は一晩中眠れないだろう。よりにもよって、それが今日だなんて。
一晩中、あの子の笑顔が浮かんでは消える。それは、生き地獄だった……。
「――聡士くんっ!!」
突然の声に耳を疑い、反射的に顔を上げる。
夜になり飛躍的に上昇した視力では、その声の主が誰なのか、判別するのは容易だった。
僕は唇を噛み締め、部屋を飛び出した。




