6―コハクイロ―
「……そろそろ帰ろうか。夜遅くなってきたし、送ってくよ」
「えっ!?」
飛び退くように身体を離した私の腕を掴んで、若葉くんはいたずらっぽく笑った。
「まさか、僕がこんな夜遅くに女の子を1人で帰らせるとか思わないよね? 3年前みたいなことがあったらどうするつもりなの」
「それはそうなんだけど……そ、そういえば! どうして助けてくれたの? 3年前はまだ京都にいたんじゃなかったっけ」
「あのときはちょうど夏休みだったでしょ。父方の実家がこっちにあるから、折あるごとに帰省してたの」
「ちょくちょく東京に来てたんだ? じゃあミブロが満月の夜だけに現れるっていうのは?」
「そういえば、過去に例を見ない量の不良を片付けたのが満月の夜だったかな。ほら、タチの悪いゴロツキって夜行性じゃない。
なんかすっごい恐怖を刻んじゃったみたいけど、あれで治安がよくなったから結果オーライかなって思って」
「……なんで、若葉くんがここの治安を気にしてくれたの?」
「それは君が住んでるから……って」
「え、どうして私の住んでる場所を知っ……」
「何でもない!」
私の言葉を遮って、若葉くんが咳払いをする。
「ともかく! あのときは大会を控えていたから、近くの道場へ試合に行ってた、その帰りだよ。本当に、間に合ったからよかったものの……」
「すみません……」
「いい? 断ったって連れ帰るから。君に何かがあったら荒れ狂う。絶対」
説教っぽく言っていたけど、声を上げて笑う表情にかげりは見られない。
うー……。これはもう、抵抗しても無駄なのでは?
「ほら、行こう!」
差し出される手は、あの日、あの夜に私を助けてくれた手と同じ。
見上げると、穏やかな琥珀色の瞳に吸い込まれる……。
断れるはずがない。こうなることを望んだのは、誰よりも私自身なのだから。
差し出された手を取る。大きな手は優しく、それでいて力強く握り返してくれる。
月明かりの下を、2人並んで歩き出す。
会話はないけど、ただそれだけで満足だった。




