4― シンジツ―
「この程度で済んだこと、彼女に感謝しろよ」
竹刀を下ろしたのち、若葉くんはちらとすぐ脇を見る。視線を寄越された朝桐くん、日野くん、和久井くんはピシリと固まってしまう。
「若葉くんっ、3人は悪くないの!」
強硬手段を取ろうとしたのも、長谷川先輩に画策されたこと。友達を思う気持ちは、3人とも本物だ。
「だから……!」
「わかってる。悪いようにはしない」
ふっと笑った若葉くんは、そのまま3人へと向き直る。
「よくためらってくれたな。何が悪かったのか、それをわかってくれればいい」
若葉くんの表情は、厳しさを取り去った、やわらかなものだった。
さて、と息をつく若葉くんは、ふと思い出したように声を上げる。
「そうそう、頼みがあるんだがいいか?」
そうして地面に転がる長谷川先輩を指差し、にこやかに一言。
「コレ、どこかその辺に捨ててきてくれるか?」
「「「…………は、はいっ!」」」
威勢のいい返事をした3人は、協力して長谷川先輩を抱え上げると、見事な呼吸で連れ去ってしまう。
……あっという間だった。
後には私と若葉くんが残されただけ。
「……えーと、よかったの? あれで」
「本気で殴ってないし、目が覚めたら自分の足で家に帰るだろう。曲がりなりにも高校生なんだから」
「……懸念する箇所が違うような気がします」
私の言葉を笑って受け流す若葉くん。
なんかこう、納得しがたいものが胸につっかえてたんだけど……ふと向けられた琥珀色の瞳に、吸い寄せられてしまう。
「これで終わったよ。無事で本当によかった」
それはいつもの若葉くんの口調で、優しい笑顔を向けられたりしたら、こらえていたものが一気に溢れ出してしまう。
「……若葉くんっ!」
「うわっ!?」
驚き、体勢を立て直すように私の肩へ添えられる手。
……仕方ないかな。感極まって若葉くんの腕にしがみついていたから。
「えーっと……君は、こんなに積極的だったっけ?」
困惑する若葉くんの声が、尚更緊張なんて吹き飛ばす。
安心しすぎて、涙を止めることができない。
「ちょっと待って。なんで泣くの!?」
「悲しいんじゃないの。嬉しいの……。どうして言ってくれなかったの。若葉くんが、ミブロだったって……!」
間もなく嗚咽が私を襲った。息が詰まり、でも顔なんて上げられるわけがないから、いっそう強くしがみつく。
若葉くんの、私の肩を抱く手に力が入った。
「……君は怖くないの?」
「怖い?」
「ギラギラしてて怖いでしょ。この色」
やっと顔を上げる。そこには、儚げに細められる琥珀色の瞳があった。
確かに、落ち着いた緑とは対照的に、威圧的で好戦的な印象を与える。それに長谷川先輩は恐れおののいた。だけど。
「そんなことないわ。言ったじゃない。若葉くんの瞳は綺麗だって。お月さまと同じ色なんだよ。それに、私の髪と同じ色。怖くなんかないもん……」
彼が褒めてくれたから、返すのではない。大好きなあの光と、母が褒めてくれたこの髪と同じ色を持つ瞳を、心から綺麗だと思っているから。
「……そうだった。君はそういう子だった」
そう呟いたかと思うと――やがて、肩に添えられた手が背中に回され、私の身体が引き寄せられた。
「え、と、若葉くん?」
「僕の隠し事を、全部言わないといけないな」
深く息を吐き、視線を合わせられる。
「僕が壬生狼だったこと、それを隠していたことは知っての通り。君を不安にさせてしまったことは本当に申し訳なく感じてる。
でも僕は、そうすることがベストだと思ってた」
「どうして?」
「化け物だったから。下手に近づけて傷つけたくなかった…………。
いい? 驚かないで聞いて。これから話すことは全部本当のことだから」
化け物だなんて、どうしてどんなことを言うのか。
その疑問は 彼の言葉通り明かされることになる。




