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【完結】夜空の琥珀  作者: はーこ
六章【夜空の琥珀】
34/46

4― シンジツ―

 

「この程度で済んだこと、彼女に感謝しろよ」




 竹刀を下ろしたのち、若葉くんはちらとすぐ脇を見る。視線を寄越された朝桐くん、日野くん、和久井くんはピシリと固まってしまう。




「若葉くんっ、3人は悪くないの!」




 強硬手段を取ろうとしたのも、長谷川先輩に画策されたこと。友達を思う気持ちは、3人とも本物だ。




「だから……!」



「わかってる。悪いようにはしない」




 ふっと笑った若葉くんは、そのまま3人へと向き直る。




「よくためらってくれたな。何が悪かったのか、それをわかってくれればいい」




 若葉くんの表情は、厳しさを取り去った、やわらかなものだった。


 さて、と息をつく若葉くんは、ふと思い出したように声を上げる。




「そうそう、頼みがあるんだがいいか?」




 そうして地面に転がる長谷川先輩を指差し、にこやかに一言。




「コレ、どこかその辺に捨ててきてくれるか?」



「「「…………は、はいっ!」」」




 威勢のいい返事をした3人は、協力して長谷川先輩を抱え上げると、見事な呼吸で連れ去ってしまう。



 ……あっという間だった。



 後には私と若葉くんが残されただけ。




「……えーと、よかったの? あれで」



「本気で殴ってないし、目が覚めたら自分の足で家に帰るだろう。曲がりなりにも高校生なんだから」



「……懸念する箇所が違うような気がします」




 私の言葉を笑って受け流す若葉くん。


 なんかこう、納得しがたいものが胸につっかえてたんだけど……ふと向けられた琥珀色の瞳に、吸い寄せられてしまう。




「これで終わったよ。無事で本当によかった」




 それはいつもの若葉くんの口調で、優しい笑顔を向けられたりしたら、こらえていたものが一気に溢れ出してしまう。




「……若葉くんっ!」



「うわっ!?」




 驚き、体勢を立て直すように私の肩へ添えられる手。


 ……仕方ないかな。感極まって若葉くんの腕にしがみついていたから。




「えーっと……君は、こんなに積極的だったっけ?」




 困惑する若葉くんの声が、尚更緊張なんて吹き飛ばす。


 安心しすぎて、涙を止めることができない。




「ちょっと待って。なんで泣くの!?」



「悲しいんじゃないの。嬉しいの……。どうして言ってくれなかったの。若葉くんが、ミブロだったって……!」




 間もなく嗚咽が私を襲った。息が詰まり、でも顔なんて上げられるわけがないから、いっそう強くしがみつく。


 若葉くんの、私の肩を抱く手に力が入った。




「……君は怖くないの?」



「怖い?」



「ギラギラしてて怖いでしょ。この色」




 やっと顔を上げる。そこには、儚げに細められる琥珀色の瞳があった。


 確かに、落ち着いた緑とは対照的に、威圧的で好戦的な印象を与える。それに長谷川先輩は恐れおののいた。だけど。




「そんなことないわ。言ったじゃない。若葉くんの瞳は綺麗だって。お月さまと同じ色なんだよ。それに、私の髪と同じ色。怖くなんかないもん……」




 彼が褒めてくれたから、返すのではない。大好きなあの光と、母が褒めてくれたこの髪と同じ色を持つ瞳を、心から綺麗だと思っているから。




「……そうだった。君はそういう子だった」




 そう呟いたかと思うと――やがて、肩に添えられた手が背中に回され、私の身体が引き寄せられた。




「え、と、若葉くん?」



「僕の隠し事を、全部言わないといけないな」




 深く息を吐き、視線を合わせられる。




「僕が壬生狼だったこと、それを隠していたことは知っての通り。君を不安にさせてしまったことは本当に申し訳なく感じてる。


 でも僕は、そうすることがベストだと思ってた」



「どうして?」



「化け物だったから。下手に近づけて傷つけたくなかった…………。


 いい? 驚かないで聞いて。これから話すことは全部本当のことだから」




 化け物だなんて、どうしてどんなことを言うのか。


 その疑問は 彼の言葉通り明かされることになる。

 

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