表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】夜空の琥珀  作者: はーこ
五章【モノクロの喪失】
30/46

6―シツボウ―

 

「城ヶ崎!」




 呼び声が聞こえたから、仕方なく振り返る。


 そこには見慣れた面子が揃っていた。


 同じ学年、同じ剣道部員。悪友とでもいうのだろうか。少なくとも、その3人は紅林より好意の持てるヤツらだった。


 だが仲がいいといっても、クラスが違う。四六時中一緒にいるわけでもない。




「何だよ」




 眉をひそめると、3人揃ってずんずん詰め寄ってくる。


 そして、中でも一番背の高い男、朝桐が口を開いた。




「また紅林のとこに行ってたんだろ? 仲のよろしいことで」



「はぁ? どこが!?」




 心外にも程がある。あの編入生ならともかく。冗談かと思ったが、クソ真面目な顔のまま日野が言葉を継ぐ。




「俺ら言ったよな、アイツだけはやめとけって」




 切羽詰まった表情が、逆に不思議だ。……やめとけ、ね。




「だったら無駄な心配だな」




 コイツらは知らないから仕方ないんだろうが、紅林はただの女なんだ。



 ……いや、少し違うな。弱虫で、強がるくらいしか能のない女。



 だから本心では泣きそうなくらいビビってるクセに、「友達」が傷つけられると真正面から食ってかかってくる。



 それが、紅林がただの女であって、ほかのヤツとは違うところだった。




「話はそれだけか? 俺はもう行くぜ」



「ちょっと待てよ!」



「……だから、何だよ」




 苛立ちを隠さずに振り向くと、肩を掴んでいた日野がうろたえた。朝桐と顔を見合わせ、互いの表情をうかがっている。


 言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいだろうに。




「お前ら、いい加減にしろよ!」




 狼狽する朝桐と日野を一喝したのは、最後の1人、和久井だった。


 コイツはほかの2人とは違い、真っ向から見据えてくる。




「はっきり言わせてもらう。お前、最近俺たちにそそっかしくないか?」



「おい、和久井!」



「お前らは黙ってろ! ――城ヶ崎、アイツに何を言われた? 俺たちのことをわかったような言葉でも、所詮は偽善なんだぞ?


 それに、アイツの後ろにはミブロがいる。近づいて、お前を痛ぶろうとしているのかもしれない」



「だから痛い目を見る前に、尻尾巻いて逃げ出せと? ハッ、そんなヘマ、俺がするわけねぇだろ」



「城ヶ崎! 俺たちはお前のことを思って……」



「黙れ。いくらお前らでも、これ以上は許さん」




 ギンとねめつけてやれば、和久井は口ごもる。



 人というのは、なんとバカな生物なのだろう。


 己が良かれと思ったことはすべて正しいと解釈し、こっちの意思など関係なく押し付ける。


 ろくなことはしないクセに、他人を蔑むことだけには長ける。


 だから俺は、人と関わるのが嫌いだった。怪物だの、恐ろしいだの、愚かしい。


 決して紅林を弁護しているわけではない。人間の哀れな性に、失望しているのだ。




「お前らのおしゃべりに付き合っているヒマはない」




 アイツらがどんな顔をしてようが、俺には関係のないこと。


 今度は振り返ることなく、その場を去った。




 ――……




「……どうすんだよ」




 朝桐が、途方に暮れた声を出す。




「どうしようもねぇじゃん。俺に聞くなよ」




 乱暴に頭を掻きながら、日野が答える。




「どうしてまた、紅林なんかに……」




 和久井の言葉の終わりを待たず、3人揃ってため息をつく。



 そのとき、背後から忍び寄る影があった。




「――おい」



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ