6―シツボウ―
「城ヶ崎!」
呼び声が聞こえたから、仕方なく振り返る。
そこには見慣れた面子が揃っていた。
同じ学年、同じ剣道部員。悪友とでもいうのだろうか。少なくとも、その3人は紅林より好意の持てるヤツらだった。
だが仲がいいといっても、クラスが違う。四六時中一緒にいるわけでもない。
「何だよ」
眉をひそめると、3人揃ってずんずん詰め寄ってくる。
そして、中でも一番背の高い男、朝桐が口を開いた。
「また紅林のとこに行ってたんだろ? 仲のよろしいことで」
「はぁ? どこが!?」
心外にも程がある。あの編入生ならともかく。冗談かと思ったが、クソ真面目な顔のまま日野が言葉を継ぐ。
「俺ら言ったよな、アイツだけはやめとけって」
切羽詰まった表情が、逆に不思議だ。……やめとけ、ね。
「だったら無駄な心配だな」
コイツらは知らないから仕方ないんだろうが、紅林はただの女なんだ。
……いや、少し違うな。弱虫で、強がるくらいしか能のない女。
だから本心では泣きそうなくらいビビってるクセに、「友達」が傷つけられると真正面から食ってかかってくる。
それが、紅林がただの女であって、ほかのヤツとは違うところだった。
「話はそれだけか? 俺はもう行くぜ」
「ちょっと待てよ!」
「……だから、何だよ」
苛立ちを隠さずに振り向くと、肩を掴んでいた日野がうろたえた。朝桐と顔を見合わせ、互いの表情をうかがっている。
言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいだろうに。
「お前ら、いい加減にしろよ!」
狼狽する朝桐と日野を一喝したのは、最後の1人、和久井だった。
コイツはほかの2人とは違い、真っ向から見据えてくる。
「はっきり言わせてもらう。お前、最近俺たちにそそっかしくないか?」
「おい、和久井!」
「お前らは黙ってろ! ――城ヶ崎、アイツに何を言われた? 俺たちのことをわかったような言葉でも、所詮は偽善なんだぞ?
それに、アイツの後ろにはミブロがいる。近づいて、お前を痛ぶろうとしているのかもしれない」
「だから痛い目を見る前に、尻尾巻いて逃げ出せと? ハッ、そんなヘマ、俺がするわけねぇだろ」
「城ヶ崎! 俺たちはお前のことを思って……」
「黙れ。いくらお前らでも、これ以上は許さん」
ギンとねめつけてやれば、和久井は口ごもる。
人というのは、なんとバカな生物なのだろう。
己が良かれと思ったことはすべて正しいと解釈し、こっちの意思など関係なく押し付ける。
ろくなことはしないクセに、他人を蔑むことだけには長ける。
だから俺は、人と関わるのが嫌いだった。怪物だの、恐ろしいだの、愚かしい。
決して紅林を弁護しているわけではない。人間の哀れな性に、失望しているのだ。
「お前らのおしゃべりに付き合っているヒマはない」
アイツらがどんな顔をしてようが、俺には関係のないこと。
今度は振り返ることなく、その場を去った。
――……
「……どうすんだよ」
朝桐が、途方に暮れた声を出す。
「どうしようもねぇじゃん。俺に聞くなよ」
乱暴に頭を掻きながら、日野が答える。
「どうしてまた、紅林なんかに……」
和久井の言葉の終わりを待たず、3人揃ってため息をつく。
そのとき、背後から忍び寄る影があった。
「――おい」




