1―デアイ―
「お母さん……」
しばらく寝ぼけ眼でぼんやりとしていたけど、ハッとして周囲を見渡す。
誰もいない、静まり返った教室。
(そっか……まだ朝早いから、みんな来てないんだ)
ようやく状況を掴むと笑ってしまった。
「寝言でお母さんって言って起きるの、カッコ悪いなあ」
思いっきり伸びをして、窓に映った自分に視線をやる。
ゆるいウェーブがかった金色の髪が、朝日に反射してキラリと光った。瞳はブラウン。
うん、いつもとおんなじ私の顔。
「大丈夫、私は今日も頑張れる。だからお月さま、力を貸してね」
懐かしい記憶に浸るのはおしまい。両頬を平手打ちして、気合いは充分!
「よしっ!」
そうして私は、すっくと立ち上がったのだ。
――……
私の通う都立光涼(こうりょう)高校は、男女共学、全日制と至極一般の学校だ。
梅雨の雨脚もすっかり遠のき、これからが夏本番という7月初旬。
快晴の空の下、細長い臙脂の包みを片手に、渡り廊下を急いでいたときのこと。ちょうど向かいから男子生徒がやってくるのが見えた。
「よぉ紅林瀬良。今日はちゃんと学校来てんだな」
「……げ」
条件反射で口元が引きつってしまう。
ヤバイですお月さま。朝っぱらからごめんなさい、力を貸してください。
「なーに持ってんのかなぁっと……なんだ、愛刀か。朝早くからゆすりに向かおうとはご苦労なこったな」
(ゆすり……っ!?)
うろたえそうになるところを、グッと踏ん張る。
ここで引き下がったら相手の思うツボ。すうっと深呼吸をして――
「戯言ほざいてンじゃないよ。こっちは夏の大会で忙しいんだ」
強い口調は、私の精いっぱいの虚勢。
ナメられないように毅然とするの。大丈夫、私にはお月さまがついているもの。
「んだと……!」
さらに言い募ろうと相手が動くのを認め、仕方なく肩にかけていた包みを下ろす。
包みと同じ臙脂の紐をほどき、間もなく現れたのは四尺弱の竹刀。それを握り締め、男子生徒の目前に掲げてみせた。
「くだらないことするヒマがあったら、ちったぁ勉強しやがれ」
……痛いくらいの沈黙。
舌打ちが聞こえ、やがて忌々しそうな視線を置き土産に男子生徒は去って行った。
その背中が渡り廊下を曲がって見えなくなると、やっと竹刀をおろし、
「こここ、怖かったっ!」
ヘナヘナと、その場に崩れ落ちた。
「おなか痛くなってきた。性に合わないことはするもんじゃないな。はぁ……」
……私は、異質な髪の色から周囲に恐れられている。いわゆる、不良というモノを思わせたのだろう。
元々ツリ目で、キツイ印象を与えるのは仕方ないとしても、そこまで誤解されるなんて高校に入る前は考えもしなかった。
子供の頃からやっている剣道の竹刀も、私が持つだけで不良の金属バット的なポジションに置かれてしまうんだろう。
そんな私に近寄る人がいたとしたら、さっきみたいな人たち。
同類だと勘違いしたのか、しばしばちょっかいかけてくるけど、一言いいですか。
違いますから!
私はウワサみたいに強くないし、実際は気弱な小心者。
でも入学したての頃、間違って殴っちゃった相手が運悪く上級生だったことがすべての始まり。
あれよという間に恐怖は全校中に広まった。自業自得といえばそうなんだけど……。
「それにしたってひどくない? 私、不良じゃないもの!
髪だって地毛よ。抗いようのない遺伝子の力を前に、どうやって立ち向かえばいいっていうの、教えてよメンデル!」
叫ぶ。そうでもしないとどうにかなってしまいそうだ。
どうせ1人なんだし、誰も聞いてやしないんだから――
「あの」