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【完結】夜空の琥珀  作者: はーこ
四章【茜に染まる暗雲】
22/46

3―セイロン―

 

「おい」



 とっさに涙を拭って振り向く。そこにいたのは、ごく普通の男子生徒だ。




「お前が紅林だな」




 私を見据える男子生徒。やがてその表情に、怒りの炎が灯る。




「……お前のせいだ」



「は……?」



「お前のせいで亜貴が怯えてるんだよ! ちょっと陰口叩かれたくらいで、キレやがって!」




 事情を掴めないけど……男子生徒の言い分から察するに、遠藤さんが休んだのは、やっぱり昨日のことが原因で?




「コイツ、何言ってやがる」



「こっちの話だ!」




 苛立たしげな城ヶ崎へ簡潔に返答し、男子生徒へ向き直る。




「私もムキになったところがあったが、彼女も言い過ぎだった。他のヤツらのことまで悪く言ったんだから」



「本当のことを言って何が悪い?」




 そう吐き捨てた男子生徒の矛先が、城ヶ崎に向けられる。




「地味なヤツは地味、不良は不良。見たままを言っただけだろう。誤解だと言うならそんな風に言われるヤツらが悪い」



「テメェ……っ!」



「よせ!」



「お前の指図なんか、誰が受けるか!」



「落ち着け! 殴ってしまえばお前の立場が悪くなるだけだろうが!」




 暴力沙汰になれば厳しい処分が下される。最悪退学になるかもしれない。だから私は、城ヶ崎を止める。




「――私は、城ヶ崎が学校に来てくれて嬉しかったんだよ」




 小声で囁くと、城ヶ崎の動きが止まった。




「部活に来てくれないのは寂しかった。でも話しかけてきてくれたとき、私すごく嬉しかったのかもしれない」




 口は悪いし、会えば口論突入。仏頂面で怖いし、全然合わないって思ってた。


 だけど私はどこかで、心を許していたのだ。



 ――ならば私は、そんな彼を傷つける人に立ち向かわなければならない。




「誤解されるのが悪いだと? それはあんまりじゃないか?」



「事実を口にしたまでだ」




 事もなげに言ってのける男子生徒。


 ……この人も、遠藤さんたちと同じか。




「正論だと思うなら、何を言ってもいいのか? そんなのは言葉の暴力だ!」



「生意気言ってんじゃねぇ!」




 直後、視界が大きく揺れた。



 髪を引っ張られているのだとわかったのは、少し経ってからである。




「友達の悪口は許さないってか? 腐れ人間のクセに、よく善人顔ができるもんだ。


 お前みたいなヤツのの正論なんて、信じられるか!」




 髪を強引に引っ張られ不自然に顔が下を向く。気管をふさがれ、息も抵抗もできない。




「く……ぅっ!」



「どうせこの髪だって染めてるんだろ? 自分で目立とうとしてんじゃないか。それに何を言われたって自業自得だろ。


 休むなら、お前が休めよ。亜貴は悪くねぇ」




 この人は遠藤さんが休んだことを心配しているんだ。それは、思いやり。


 だけど、こんなやり方間違ってる!




「……腐ってる人間なんか、いない」




 少ない酸素。話せばもっと逃げていく。だけど私は。




「城ヶ崎……手ぇ、出す……なよ」




 顔も動かせないし、目を合わせることもできないけど、私は城ヶ崎に笑いかけた。




「そりゃあ、性根の悪いヤツらはいるがな……そいつらも、そいつらなりに生きてんだ」




 私が先生に叱られたって知って、どうして言わなかったんだ、そんな筋合いはないって怒った。


 本当は優しいのに、不器用で強気な口調でしか人と接することができない。



 だから、独りを選んでいく。



 独りにならざるをえない寂しさを、私はよく知っている。




「人ってのは……全員が全員、誰とでも仲良くなれるわけじゃねぇだろ。周りと打ち解けられないヤツだっているんだ……!


 そいつらの生き方を否定する権限があるほど、お前らは偉いのかよ!?」



「コイツ……!」



「私のことはどうとでも言え! だが腐った人間はいなくてもな、腐った心を持った人間なら、世の中腐り果てるほどいるんだよ!


 本当の意味で腐ってんのはどっちか、しっかり考えろっ!」



「調子に乗るんじゃねぇっ!」




 男子生徒の拳が振り上げられる。




「おいっ、紅林っ!」




 私には、抵抗するだけの体力がない。酸欠でフラフラする。ぼやける視界で振り下ろされる拳を認め、目をつむった。




「クソッ!!」




 城ヶ崎の声が聞こえた。それと、彼が駆けてくる音も。




(ダメ。殴っては、ダメ……! お願いだから、来ないで!)




 一心に祈ったそのとき、屋内を一陣の風が吹き抜けた。

 

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