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【完結】夜空の琥珀  作者: はーこ
四章【茜に染まる暗雲】
21/46

2―ドウシテ―

 

 荷物と竹刀を抱え教室を出る。


 静寂だけが聞こえる廊下。茜に染まる窓辺に腕を組みもたれかかる青年には、見覚えがある。




「城ヶ崎じゃないか。部活は……」




 問いかけようとして、やめた。おもむろに顔を上げた彼が、異様な雰囲気を漂わせていたからだ。


 城ヶ崎は目の前まで来ると、無言で腕を突き出す。




「これは……私の。置き忘れてたのか? 悪い!」 




 危険信号を受信。慌ててランチバッグを受け取り、すすすーと横を通り抜けようとする。と、肩を掴んで引き戻された。


 ジトリと私をねめつける城ヶ崎は不機嫌だ。この上なく。心当たりは……すごくある。




「私の態度が気に入らなかったのなら謝る。だが、若葉に対しても失礼なことを言ったんだから、」



「……若葉若葉と、そんなにアイツのことが好きかよ」



「なっ!」




 今度は直球で来たね!? ストレートすぎてビックリです!




「若葉は友達だ。前にも言っただろ」



「……っ、ふざけんなよ……っ!」




 城ヶ崎が目をむき――衝撃は走った。




「…………は?」




 なぜだか私は、城ヶ崎に胸ぐらを掴まれていた。そんなことをされる意味がわからない。




「まだ気づかれていないとでも思ってんのか」



「え……」



「お前の本性なんざ、とっくに割れてんだよ。さっさと正体を現しやがれ、この化け猫」




 ――その言葉は、危惧を現実のものにした。



 そん、な、信じられない……。




「なんで……どうして?」




 無意識の呟きに、口をつぐんだ。けれど時すでに遅し。「私」の呟きは、城ヶ崎に届いてしまっていた。


 彼は眉ひとつ動かさない。まるで、当然だとばかりに。




「俺たちに理解者は必要ない。全員が敵だ」




 彼の言葉が、やけによく聞こえる。




「友達だと? 笑わせる」




 握られる拳。私はもうすぐ起こるであろう出来事を理解した。予想通りに拳は引かれる。


 けれど私は動けなかった。それどころじゃなかった。



 城ヶ崎の拳が、速度をつけようとしたとき――私の頬を、雫が伝った。




「……っ!?」




 止められる拳の向こうで、瞳が戸惑い揺れている。




「何……やってんだ」



「わからない……けど、悲しいのかな? これは……」




 声はか細く、震えてしまった。




 ――俺たちに理解者は必要ない。全員が敵だ――




 ……今の城ヶ崎は、若葉くんと出会う前の私みたいだった。


 普通の生活をするために何かを犠牲にしなければならなくて、それが友達だった。


 だから私はいつも独りで……いつしかそれを、仕方のないことだと合理化していた。



 誰が敵で味方かわからない。ならば、関わることをやめよう。



 でも若葉くんと出会って、それがどれだけ寂しいことか教えてもらった。


 誰かと一緒にいることが、こんなにも温かくてホッとすることなんだって――そう、教えてくれた。




「……っ!」




 城ヶ崎が手を引っ込めた。濡れる視界でそれを見て、私は確信する。




(城ヶ崎、あなたは……)

 

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