2―ドウシテ―
荷物と竹刀を抱え教室を出る。
静寂だけが聞こえる廊下。茜に染まる窓辺に腕を組みもたれかかる青年には、見覚えがある。
「城ヶ崎じゃないか。部活は……」
問いかけようとして、やめた。おもむろに顔を上げた彼が、異様な雰囲気を漂わせていたからだ。
城ヶ崎は目の前まで来ると、無言で腕を突き出す。
「これは……私の。置き忘れてたのか? 悪い!」
危険信号を受信。慌ててランチバッグを受け取り、すすすーと横を通り抜けようとする。と、肩を掴んで引き戻された。
ジトリと私をねめつける城ヶ崎は不機嫌だ。この上なく。心当たりは……すごくある。
「私の態度が気に入らなかったのなら謝る。だが、若葉に対しても失礼なことを言ったんだから、」
「……若葉若葉と、そんなにアイツのことが好きかよ」
「なっ!」
今度は直球で来たね!? ストレートすぎてビックリです!
「若葉は友達だ。前にも言っただろ」
「……っ、ふざけんなよ……っ!」
城ヶ崎が目をむき――衝撃は走った。
「…………は?」
なぜだか私は、城ヶ崎に胸ぐらを掴まれていた。そんなことをされる意味がわからない。
「まだ気づかれていないとでも思ってんのか」
「え……」
「お前の本性なんざ、とっくに割れてんだよ。さっさと正体を現しやがれ、この化け猫」
――その言葉は、危惧を現実のものにした。
そん、な、信じられない……。
「なんで……どうして?」
無意識の呟きに、口をつぐんだ。けれど時すでに遅し。「私」の呟きは、城ヶ崎に届いてしまっていた。
彼は眉ひとつ動かさない。まるで、当然だとばかりに。
「俺たちに理解者は必要ない。全員が敵だ」
彼の言葉が、やけによく聞こえる。
「友達だと? 笑わせる」
握られる拳。私はもうすぐ起こるであろう出来事を理解した。予想通りに拳は引かれる。
けれど私は動けなかった。それどころじゃなかった。
城ヶ崎の拳が、速度をつけようとしたとき――私の頬を、雫が伝った。
「……っ!?」
止められる拳の向こうで、瞳が戸惑い揺れている。
「何……やってんだ」
「わからない……けど、悲しいのかな? これは……」
声はか細く、震えてしまった。
――俺たちに理解者は必要ない。全員が敵だ――
……今の城ヶ崎は、若葉くんと出会う前の私みたいだった。
普通の生活をするために何かを犠牲にしなければならなくて、それが友達だった。
だから私はいつも独りで……いつしかそれを、仕方のないことだと合理化していた。
誰が敵で味方かわからない。ならば、関わることをやめよう。
でも若葉くんと出会って、それがどれだけ寂しいことか教えてもらった。
誰かと一緒にいることが、こんなにも温かくてホッとすることなんだって――そう、教えてくれた。
「……っ!」
城ヶ崎が手を引っ込めた。濡れる視界でそれを見て、私は確信する。
(城ヶ崎、あなたは……)




