表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】夜空の琥珀  作者: はーこ
三章【群青色の記憶】
19/46

4―イカリ―

 

「紅林さん!」




 反射的に暗い気持ちを振り払うのと、若葉くんが息を切らせながら駆け寄ってくるのは、同時だった。




「やっと見つけた。よかった……」



「若葉くんが慌てるなんて珍しいね。何かあったの?」



「うん、ものすごく! どうしても話しておかなくちゃいけないことがあって」



「は、はい。何でしょう……?」



 とても真剣な若葉くんを前にして身動きが取れなくなってしまう。さながら、ヘビに見込まれたカエルみたいだった。


 一体何を言われるのか、ハラハラしていると、




「ごめん。すっかり忘れてた」




 ヘビに謝られ、ポカンとするカエル。




「ほんっとごめん。ついさっき思い出したんだ。もう……どうして昨日気づかなかったんだろう」



「えーと、何のことです?」



「今日の漢文、古文に変更したんだ。予習するよう昨日の授業中に言われてたんだけど、すっかり忘れちゃってて」



「……マジですか」



「マジです」




 それはビックリ仰天事実発覚。


 古典担当の西田先生は課題に厳しいお方。忘れたとなればどうなることかわかったもんじゃない。おまけに、授業は次だし。




「本当にごめん!」



「あ、謝らなくていいよ! 私が頑張ればいいことだから」



「やっぱり僕の責任だし。……今から時間もらってもいい?」



「特に支障はないけど……?」



「僕が教えるよ。せめてものお詫び。お願い、やらせて?」




 願ってもない提案に、私は飛び上がった。




「お願いも何も、大歓迎だよっ!」




 若葉くんってなんて親切なんだろう。こんなにいい人を遠巻きにするなんて、もったいないことをしていますよ、クラスのみなさん!


 なんて思っていると、微笑ましげな視線を感じた。




「私の顔にゴミでもついてる?」



「ううん。ちょっとね」



「…………」




 待って。デジャヴだよ、これ。




「ちょっとって、なに?」



「それは秘密」




 やっぱり!


 にっこり顔でごまかそうとする若葉くんをじーっと見つめる。




「若葉くん、気になるよ。ものすごぉ~く気になるんだけど?」



「…………」



「…………」



「あははっ」



「そこ笑うとこ!?」



「紅林さんは、笑った顔が素敵だなあと思って」



「す……っ」




 ステキ!? この人はまたとんでもないことを!




「まぶしすぎるくらい笑顔が魅力的な人に言われても、説得力がないんですけど!」




 思わず叫んで我に返る。


 若葉くんが目をしばたたかせていた。


 しまった。私、何をバカ正直に……。




「ありがとう」




 そういうところだけちゃっかり聞いてる若葉くんは、ある意味油断ならない。どんなときも笑顔で全部片付けちゃう。


 ……ズルい。




「ひとまず教室に荷物取りに行って、図書室でしようか。2人で集中できるよ」



「うん、そうだね……って、ふたりぃっ!?」



「人目のつくところじゃ、やりにくいでしょ?」



「そ、そうでした……」




 素顔を知られたくないと言い出したのは私。若葉くんはそれを意識しながら接してくれている。


 だから、私がどうこう言える立場じゃないのはわかってるんだけど……胸の奥がキュッとなるのはなぜなのか?



 ……早くも難問が立ちはだかってきたものだと、頭が痛くなってきた。




 ――……




 わけのわからない質問をしてきたかと思えば、急に駆け出す。


 人に物を拾わせておいて薄情な女だと苛立ちすら覚えた。


 だが、虚空に悪態をついたところで余計な体力を消費するだけだから、仕方なくアイツのランチバックを手に後を追った。


 そこで目にしたもの。




 ……何だ。



 何なんだ、あれは。



 寝ぼけるのは寝てからにしろ。




 一度は自分を叱咤したが、すぐに、目前の光景が幻などではないとわかる。



 そこには編入生と話す紅林がいた。だがいつもの仏頂面ではなく、気弱そうなクセして明るく笑う、そこらのヤツと変わりばえのしない女だった。



 何だ、やっぱりただの女じゃねぇか。



「最凶の不良」がただの女。そんなヤツに言いくるめられたのか、俺は。



 一度でも認識してしまうと、ふつふつと湧き上がる感情を抑えきれない。




「……クソッ!」



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ