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【完結】夜空の琥珀  作者: はーこ
三章【群青色の記憶】
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2―コウロン―

 

「アイツにしか言えないことか。お前ら、どういう関係?」


「は……?」




 何が一体どうなって、そんな質問をされたのか。ここまでを遡ってみる――




 ――……




 ちょうど上履きに履き替えたところだった。城ヶ崎とかち合ったのは。


 誰もいない昇降口を横切った無愛想な横顔。彼も私に気づいて眉をひそめる。




「朝早いのに珍しいな。ちゃんと学校来る気になったのか?」



「俺が何しようが、関係ねぇだろ」




 素っ気ない言葉。ふいと逸れた仏頂面。やっぱりそう簡単に上手くはいかないか。




「……おととい」



「ん?」



「おととい、なんで先公に言わなかったんだよ」




 その問いを受け登場するのは、脳内搭載の「不良語辞典」


 ええっと「センコー」は……ああ、先生のことか。それでおとといって「剣道場事件」のことよね。


 先生に怒られたことが、城ヶ崎の耳にも入ったらしい。でも、どうしてそんなことを聞くんだろう?




「まさか……心配してくれてる、とか?」



「はぁ、バッカじゃねぇの!? 言えばいいものを、黙って怒られるなんてのが胸クソわりぃんだよ!


 お前なんかに助けてもらう筋合いはない。むしろ無性に腹立つ!」




 ……そこまで全面否定されると、さすがにヘコんでしまうのですが……。




「まぁ……大人しく退いたからな」



「なんだと?」



「私の注意を聞いたろう? 元々悪気があってやったわけでもないし、お前たちばかり責めるわけにもいかないだろう」




 せっかく丸くおさまりそうな事案を掘り返す必要もないと思った。だから先生には言わなかったんだ。




「何サマだよ……こんなヤツに目ぇつけられたアイツには、同情するな」



「アイツ? 若葉のことか?」



「他に誰がいるんだよ」




 グサッ!




 う……そうですよー、若葉くん以外には友達いませんよーだ。




「で、どうして若葉が出てくるんだ」



「別に。お前が編入生可愛がってるって聞いたからな、顔を拝んでやっただけ」



「可愛がる?」




 ちょっと待ってね、不良語で「可愛がる」は――ああそうだ。「リンチ」と同意義語だ、って。




「んなわけあるか――っ!」




 勘違いもここまでくるとタチが悪い。


 若葉くんをひどい目に遭わせてる? 私が? それはないない断じて違う!


 第一、私と若葉くんはお友達なんだから、そんなこと絶対ないって……言いたいけど言えない! 私たちの素顔は秘密なのだ。ああじれったい!




「あのな、他人の話をうのみにするほど俺はバカじゃねえ」



「じゃあ何だって言うんだ」



「確かなのは、あの編入生が、紅林に話しかける命知らずなヤツだってことだ」



「……ちょっと待て。なぜお前がそんなことを知っているんだ」




 ふと湧いた疑問をぶつければ、妙な沈黙が流れる。




「まさかとは思うが……私たちの会話を聞いていたのか?」



「……目に入っただけだ」



「っざけんな! プライベートだろ!」



「うるせーな! 話は聞いてねぇんだからいいだろ! それとも何か? 聞かれたら困るようなことでも話してたのか?」




 うっ、図星……!


 何しろ、若葉くんの前では素全開ですからね。そりゃあ聞かれちゃアウトですよ!


 不自然に黙りこくった私をいぶかしんで、城ヶ崎がとんでもない質問をかませてきた。


 そして、冒頭に至る――




 ……私と若葉くんの関係? そ、そんなの!




「友達に決まってんだろっ!」




 昨日の今日で、言いづらい関係になったつもりはないよ!?



 なおも追及するような視線に冷や汗が出てきた頃、ふと興味を失くしたように城ヶ崎が肩をすくめた。




「あっそ」




 え、聞いといて何ソレ。


 こっちは必死だってのに無責任じゃない? この人は何がしたかったの?




「ふん、友達なんて小綺麗なものが本当に続くと思うのか」



「ネチネチと嫌味なヤツだな。そんなに私のことが気に食わないのか」



「聞くほどのことでもないだろ」




 むっかー! いちいち堪忍袋の緒をつつき回さないでよね!


 いい加減ソリが合わないと判断した私は、仁王立ちして人差し指を突きつける。




「私は教室に行くんだ。用がないなら早々にそこをどけ!」




 これでもかというほどの命令口調。なにおう! と掴みかかってくると思いきや、「言われるまでもないっつーの」とすんなり道を開けられた。


 肩透かしを食らった私に、やれやれ、とまた肩をすくめて歩き出す城ヶ崎。




(ため息つきたいのはこっちだって!)




 遠ざかる背中にあっかんべー。


 口をひん曲げて歩き出したところ、目の前にはある人物がいた。


 それは、なるべくここにはいてほしくなかった人。




「あ、ごめん。聞くつもりはなかったんだけど」



「ぅわっと!? え、あ、ええっ!?」




 ――若葉くんだった。


 よりにもよって、啖呵切った後のものすごい剣幕を見られるなんて……。


 沸騰したヤカンみたいに、頭から湯気が立ち上る。




「わっ! えっと……今のは聞かなかったことにするから、平気だよ。ね!」



「……いいの若葉くん。人には誰だってさらけ出さなければならない一面があるわ。私は平気よ。……うん、きっと平気」




 あまり深く触れないほうがいいと察してくれたんだろう。


 若葉くんもそれ以上言葉にはしないでくれたので、気が抜けてしまう。




「ふわぁ……」



「ずいぶん眠そうだね?」



「今朝早くに目が覚めちゃって。シャキッとしなきゃダメよね!」




 気合い注入の平手打ちで目を覚ます。




「若葉くん、今日も1日よろしくね!」




 返ってきたのは、朝日に負けないまぶしい笑顔だった。

 

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