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【完結】夜空の琥珀  作者: はーこ
二章【紅蓮のハザード】
15/46

6―オレンジ―

 

 昇降口で待っていると、すぐに若葉くんが荷物を持ってきてくれた。




「わざわざありがとう!」



「ん、気にしないで。これくらいどうってことないから」



「ホント? 若葉くんってたくましいね」



「……男ですから」




 何だか嬉しそう。照れたような横顔も魅力的だなぁ……って。




「あれ……」



「どうかした?」




 不思議そうにこっちを向く若葉くん。


 私が驚いたのは、レンズを介さない彼の瞳が、緑色であるはずなのに違っていたからだ。


 窓から差す夕暮れと同じ茜色。若葉くんも何のことか気づいたらしい。



 ――若葉くんの瞳は、『光の反射角度で色が変わる』



 朝と昼は緑色であることは見ていて気づいたけど、夕暮れともなると太陽の位置が大きく変わるし、それに伴って瞳の色も変わるのだろう。




「そっか。夕方はオレンジっぽいんだ。カラフルで綺麗だね」




 朝昼夕、となると、当然気になることがもうひとつ出てくる。




「じゃあ、夜はどうなるの?」



「え……?」




 一瞬だけきょとんとした若葉くんは、すぐに笑って言った。




「夜は光が当たらないじゃない。色の変化のしようがないよ」



「あ、そっか」




 言われてみればそうだ。色が変わらないってことは、ノーマルな状態なんだよね。


 えっと、じゃあ夜は黒ってことでいいのかな。光が当たらないのに緑やオレンジに光り出すわけがないし。


 うーん。若葉くんの瞳って摩訶不思議だよねえ。




「……ねえ、紅林さん」



「ん? どうしたの。真剣な顔して」



「……紅林さんが寝てるときに何か言ってたから、少し気になって」



「へっ? 寝言口走ってた!?」



「なんて言ったかは聞こえなかったけど、誰かの名前を呼んでたみたい」




 寝ていたときに見てた夢って……アレだよね。どう考えても、アレだよ。




(おっ……お月さまの夢だよぉ~っ!)




 ということは、その誰かって……。




「もしかして、怖い夢だった?」



「そ、そうじゃないけど!」



「けど……?」




 心配そうな若葉くん。あ、これは何か言わなきゃ、だよね……。




「ええっと、私が見ていた夢っていうのは怖い夢なんかじゃなくて……その、えっと…………が………………てくれる夢です」



「え?」




 あーもうっ! 聞き返さないでよっ!




「憧れの人が、助けに来てくれる夢です! 文句ありますか!?」




 恥ずかしい! ただでさえそんな少女漫画みたいな夢、引くのに!


 とりあえず、怖い夢でなかったとわかったらしい若葉くんは一息ついて、遠い目をした。




「憧れの人……なんだ」




 でも、瞬きをした後には、もとの笑顔に戻っていた。




「だいぶ暗くなってきたね」




 窓の外を見ると、茜の空が少しずつ宵に染まり始めている。




「送って行こうか?」



「えっ?」



「こんな中を、女の子1人で帰らせるのは心配だから」




 ドキッとした。


 冗談……ではないことが若葉くんの本当に心配そうな表情から見て取れた。だから余計焦ってしまう。




「だっ、大丈夫だよ! ほら私、家近いし、そんなに気を遣わないで! 今日助けてもらっただけで充分だよ!」




 気持ちは嬉しいんだけど、そこまで行くと私の心臓がもたないと言いますか。


 躍起になって断る私に、若葉くんは苦笑。




「冗談だよ」



「……え」




 冗談だったの? 全然そうは見えなかったんですけど。




「でも、暗い中を帰ることには変わりないから、気をつけてね。気づいたら真っ暗、なんてこともあるかもしれないし。


 それと、知らない人について行っちゃダメだよ」




 ……お母さんだ。お母さんがここに!




「う、うん。なるべく早く帰るようにします」




 心配しているお母さん……じゃなかった若葉くんを安心させるには、素直にうなずくに限る。


 若葉くんがホッと胸を撫で下ろしたのを確認してから、靴に履き替える。


 振り返ると手を振ってくれた。私も振り返しながら、学校を出る。



 下校時刻まで少し余裕があるため、外は部活生が忙しく走り回っている。



 ふと空を仰ぐ。



 夜の帳が下りる空に、白い月が浮かんでいる。形も輝きも、完成まであと少し。




「ミブロ……」




 満月が近いから夢に出てきたのかな。



 ……私のお月さま。

 

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