5―ドンカン―
「……みっともないところを見せちゃったね」
「ううん。言ったでしょ。僕は紅林さんを受け止めるよ」
「……ありがとう」
顔が真っ赤なのは、泣いたせいだけじゃない。
熱いし、恥ずかしいし、くすぐったい。
こういうのって何て言うんだっけ。ええと、あれだ!
「本音で話せる友達っていいね!」
若葉くんが、笑顔のまま硬直する。
「………………この流れでそれを言う?」
ボソッと何か言ったみたいだけど、残念ながら私には聞こえなかった。
「紅林さんって、意外と天然?」
「急にどうしたの。違うよー」
「……絶対そうだね」
「それを言うなら若葉くんだって!」
反論しようとしたら、若葉くんにはぁ……とえらく長いため息をつかれた。
「……違うな。鈍感、か」
「だから、何言ってるのー!」
「聞きたい?」
「うんっ! 聞き……」
たい、と言おうとして、気づいてしまう。
若葉くんが、異様なオーラを身にまとって微笑んでいることに。
「あー……、やっぱり、いいかな?」
「そう? 残念だなぁ」
言葉のわりに目が笑ってない。
まだ怒ってる? 何で?
私何かしたかな。というか、何かしたの私なの?
そうよね。2人っきりなんだし、他の誰が何をしたって……。
(……ちょっと待って! 私、今なんて……2人っきり?)
今更だけど、再認識してしまう。
え、何これ。顔がすごく熱いんだけど。
「あれ?」
火照った頬を両手で覆い、押し黙ってしまった私を見て、若葉くんがきょとんとする。
「なんだ」
それだけ言うと笑った。その笑顔を見てさらに顔が熱くなると、若葉くんはもっと笑みを浮かべる。
なんで若葉くんは笑ってるの? なんで私は顔が熱くなって…………。
「紅林さん」
「は、はひィッ!!」
声が裏返った。……もうやだ。
焦ってるこっちがバカみたいに向けられたのは、いつもと変わらない笑顔。
「一時はどうなることかと思ったけど、午後の授業丸々休んだからかな、元気になったみたいでよかった」
「私、そんなに寝てたの!?」
慌てて掛け時計を確認すると、7限目の授業なんて、とっくの昔に終わっていた。
窓からは茜が差し込んでおり、完全に夕暮れ。想像を絶する気絶時間。
「紅林さんは、無理をすると身体が素直に反応しちゃうみたいだね」
「うん。お腹が痛くなるの。でもここまでとは予想がつかず……!」
「それほど、紅林さんにとって堪えることだったんだよ。
いい機会だと思って、今日は部活休んだら? 全快しないことには調子が出ないでしょ」
「……そうだね」
「じゃあ僕、教室に荷物を取りに行ってくるよ」
「重いから自分で行くよ。歩けるし」
「それじゃあ休む意味がないでしょう」
「でも、日直も全部してくれたんでしょ? 迷惑かけてばっかりで悪いもの」
「何言ってるの。迷惑をかけられるために僕がいるんじゃない? 紅林さんは、もっと人をコキ使うことを覚えたほうがいいよ」
「……そんなことを勧めるのはどうかと思うんだけど」
コキ使うとか……若葉くんに何だか黒いものが見え隠れしているのは、気のせい?
「とにかく、紅林さんはもっと甘えるべきだってこと! いい? 遠慮禁止だから」
「えっ!」
禁止されちゃった。えっと……どうしよ?
色々考えたけど何も思い浮かばない。となると、仕方ない。
「じゃあお言葉に甘えて、お願いしてもいい?」
こっちは申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど、若葉くんはすごく嬉しそうに笑った。
「もちろん!」




