第6話 《半分》
テレジアはそこまでを一気に話すと、ふぅと息を吐いた。
一息吐くと、また言葉を紡ぐ。
「その御子がカストレア。天使さまと人の子との《雑ざりモノ》。天使さまから託されて以来十六年。わたくしはあの子を育ててきた。……でもね、いまだにあの天使さまの言った『主に見つからぬよう』という言葉の意味が分からないんですの。ねぇ、シェリアさん。一体どういう意味なの?あの子は天使さまの御子なのに。」
ああ、彼女は《雑ざりモノ》の天界での扱いを知らないんだ。とシェリアは思った。
彼女は主を信じている人間だ。万物の愛の象徴、汝の隣人を愛せよと言う神を、そしてその直属の僕である天使たちは絶対なる慈悲の象徴だと信じている。
だから、知らない。彼らの愛の矛盾した形を。それはシェリアのような《雑ざりモノ》への絶対の侮蔑、降りかかる嘲笑、変わることの無い差別。
それこそが彼らの愛の形。彼らの母であり父である神の愛。
「知りたいのか?」
シェリアは苦笑した。その顔をテレジアは不思議そうに見つめ、そして頷いた。
「もしかしたら、ここに、人間の世界にいるよりも同じ尊い存在である天使さまたちと一緒の方があの子にとって幸せかもしれないですもの。」
シェリアは思い出す。母が悪魔たちに殺された後、ウフィエルに連れられて行ったあの天界での待遇を。彼の後ろに隠れていなければ、石が飛んできた。魔法で殺されそうになった。母から聞いていた父と同じ天使とは思えないあまりにも残酷な魔物たちがそこにはあふれかえっていた。
シェリアはテレジアの瞳を見つめた。
父母から受け継いだのは何も飛行能力だけでは無い。父からは天使の聖術。母からは悪魔の魔術。加えてその身に宿る魔力は並みの大天使や伯爵クラスの悪魔にも引けをとらないと言われている。
テレジアの瞳から彼女の深層意識を探る。カストレアの幸せを願ってと言いながら本当は、彼女の面倒を見るのが嫌になったのではないかと。でも、もし―もしも彼女が本当にカストレアの幸せを願って言っているなら……。
もしかしたら、《半分》の成分が人間のカストレアなら……
あるいは《半分》が悪魔のシェリアとは違う扱いを受けるかもしれない。
そしてそれはきっと自分よりいい方向に。
テレジアの瞳の奥には……限りないカストレアへの愛があった。
聖母の慈悲。神の愛。―それにも勝る。
「わかった。教えて、あげる。」
彼女はそれを知ったとき、どんな反応をするのだろうか。
神の絶対の愛を信じる者の絶望は悪魔のシェリアにとって最高の馳走であり、
天使のシェリアにとって最悪の……




