第5話 どうか、主に見つからぬよう
「お話させてください。貴女に、カストレアと同じ天使であって天使でない貴女に。」
テレジアはキリストを抱くマリア像と同じ優しい顔で行った。全てを見透かすような慈悲深い笑顔。
天使のシェリアがそれを同士と受け入れ、悪魔のシェリアがそれを拒んだ。いや、だがそれよりも…。彼女は今なんと言ったか!
「どうしてそれを……!」
シェリアの驚愕の表情にもテレジアは聖母の微笑を絶やさず、全てを抱くような優しい言葉を紡いだ。
「仮初めにもわたくしも主に仕えるもの。貴女はカストレアと同じ、天使であって天使でない《雑ざりモノ》でしょう?」
そう言うと一瞬だけ笑顔を曇らせ。
そして、聖母は語り始めた。
「お話させてください。あの子がわたくしの元へやって来るまでのことを。
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あの子がわたくしの所へやって来たのは……。そうあれは十六年前の事ね。冬だったわ。
その時わたくしは夫に捨てられ、人に騙され、世の中の無情をかみ締めて、最後の希望である主に一生を捧げることを決めてしばらく経ったころでしたわ。
その日も夕のミサを終えて、先輩シスター達と床に着いたの。
そしたら、ふと、妙な音がして―そう鈴を転がすような静かな、だけど確かな音ね。
何のことはない音だけれど胸騒ぎがして、わたくしはベットから起きて、礼拝堂に向かったの。
すると、ね。
マリア様の像の前に、そうこの像の前ね。」
テレジアは背にしていたマリア像を仰ぎ見た。
「この前に四対の羽を携えた―神々しいまでの御姿をした、腕の中に幼い御子を抱いた天使さまが居られた。」
シェリアもマリア像を仰いだ。
母も、悪魔であった母も私をこんなふうに抱いてくれたのだろうか。
母も聖母マリアと同じ名だった。だからだろうか。こんなことを想うのは。
母上―マリア・リリム
「その天使さまは、わたくしにこう言ったは
『あなたが育ててくれませんか。私の子を、天使と人の子の間に生れ落ちた《雑ざりモノ》です。どうか、主に見つからぬよう。』」




