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シュール・コメディーを目指してます

暇潰しにでもお付き合い頂けたら 幸いですvv


 人気のない深夜26時のオフィス街。

 空を仰ぐ女が二人。



「それじゃ、行くわよぉー?」

「はい。ではサポートをお願いします」

『了解。さっさと行ってこい』



 ふたりはブーツの高いヒールを鳴らして走り出す。

 目指すは最近名前をよく聞く、とある企業の自社ビル最上階。

 








 そこはクラシックというには野暮ったい、成金趣味な社長室。

 屋外のネオンに照らされた薄暗い室内に動く影は4つ。


 部屋の主は突然部屋の照明が落ち、秘書の呻き声に何事かと顔を上げた途端

襲われて、気付いたら床に転がされていた。



「キサマら一体何者だ!何が目的なんだ!?」



 その部屋の主。明らかに体脂肪率が30%は軽く超えているであろう中年社長が、

普段メディアで見せる人の良さそうな顔を嘘のように歪ませて個性のない言葉を喚く。



「こんなことをしてタダで済むと思っているのか!!」



 秘書もやはり過去に幾万人の人間が使い古した台詞を吐いて、勢い余って

メガネを床に落とした。

 殺されるかもしれない状況なら当然だが、男たちは音もなく現れた侵入者に、

虚勢を張っていても実際はかなりビビっていた。

 しかし暗闇に目が慣れて、よく見えていなかった夜襲の犯人を確認すると

途端に下卑た笑いを見せる。

 侵入者は頭から爪の先まで手入れの行き届いた、滅多に拝むことの出来ない

長身の巨乳美女が二人。

 1人は社長のオフィスデスクに腰を掛け、もうひとりは彼女を護るように日本警察の

規定より少し長い警棒を軽く構えている。



「貴様ら女か。しかもかなり若いな」

「さてはギャングか。金でも欲しいのか?お前たちくらいの女なら高く買ってやるぞ?」

「「-----」」



 彼らは監視カメラを見てすぐに警備員が駆けつけるだろうと踏んでいた。

 それで相手が大した武器を持たない若い女だと見て、殺されることはないと

侮ったのだろう。

 縛られているというのに彼女たちの見事な曲線美を視線で舐めまわす。

 社長など、若さ溢れる瑞々しい肌を曝け出したきわどい服装に、興奮して鼻血を垂

らしている。



「クククッ。すぐにお前たちを捕まえて、じっくり話を聞いてやるからな。」



 ………勿論身体に。

 美しい侵入者をどういたぶるかを考えているのだろう。

 鼻血に染まった前歯を剥き出しにしてニヤニヤしている。

 侵入者の1人は、その残念すぎる見苦しい姿に形の良い臀部を覆うほど長い色素の薄い

ミルクティー色の髪を弄りながら軽く眉を顰めた。

 それすら興奮させる材料になったのだろう。卑猥な言葉を並べているが、彼女たちは

初めから彼らには何の興味もない。

 今まで黙っていた長髪の女が、床で騒ぐ彼らを見ることなく面倒くさげに口を開いた。



「ムっちゃーん、虫が何か喋ってるー」

「少し煩いですね。喉を潰しておきましょうか?」



 彼女の発言に、『ムッちゃん』と呼ばれた従者のように従っていた黒髪の美女が

恐ろしい言葉を吐く。

 「馬鹿め。そんなことを言ってられるのも今のうちだ」と社長はなかなか現れない警備員に

若干焦りを見せながら、天井にチラリと目を向けてベタに嘲るが無視される。



「うーん、やりたいんだけど業者さんが困っちゃうかもしれないしねぇ」

「では落としておきましょう」



 そう言って手刀を下ろすと男たちが床に倒れて、職人が丹精込めて織ったであろう

色鮮やかなペルシャ絨毯に鼻血が飛ぶ。

 彼女は手に付いた中年男たちの脂を見て眉を顰め、本人のブランド物のスーツで拭った。










 黒髪の侵入者、ムツキは引き締まった細腰を飾る機能性の高いベルトから

72と書かれた子供の親指ほどのカプセルを2つ取り出した。

 先端に付いたスイッチを押すと、何処にその質量が入っていたのかと思うような

キャスター付きの大きな布製の袋が出てくる。

 それぞれの袋に先ほど落とした男たちを詰めていると、ベルトに収められていた

携帯端末が振動を伝えてきた。



「タマコ様、早くしなければキビ様がお怒りになりますよ」



 ムツキが作業している最中、長髪の美女タマコはあっという間に目標物を見つけ

出して、社長からぶん取ったオフィスデスクに腰を掛けたまま嵌め殺しの窓ガラスに映った

自分を見つめてうっとりとポーズをとっていた。

 ベルトから端末を外してタマコに渡すと『KB』と標示された画面が赤く点滅している。



「いいのよー、キビちゃんはどんなに怒った顔しててもカワイイんだから」

「いくらキビ様が愛らしくとも、お怒りになられたあの方の報復の恐ろしさをお考えください。

 特に睡眠の妨害をした暁には何が待っていることか……」



 ムツキは何かを思い出したように自己主張の激しいGカップの胸を抱きしめて

ブルリと震えた。

 タマコも携帯端末の向こうで苛々している人の逆襲の手口を思い出し、視線を少しだけ

監視カメラに向けて社長室にあった全てのパソコン計8台を立ち上げた。

 端末の通話ボタンを押すと声よりも先に相手の舌打ちが響く。



『こちら「KB」。準備は出来たか?』



 どんなに苛ついて地を這うような声を出しても、本人の性格と矛盾していても

その容姿に見合った愛らしい美少女声を耳にするとタマコはニヤついてしまう。



「やん。今完了したからキビちゃんそんなに怒んないで?」

『何が「やん」だ。お前はいつになったらコードネームの存在意義を理解するんだ』

「だってキビちゃんをソレで呼ぶのヤなんだもの」

『別に意味を考えながら呼べなんて言ってない。大差ないんだから

 名前だと思えばいいだろう』



 本人は気に入って使っているコードネーム。

 意味を知らぬものは耳にするだけで畏怖するが、知る者はツッコまずにはいられない。



「ヤぁーよぅ。聞くだけでも嫌なのに、世界一ラブリーな私の愛するキビちゃんを

 そんな愛称で呼ぶなんて耐えらんないっ!」

『ならせめて名前で呼ぶな。お前の愛もイタすぎて欲しくない。

 のしに菓子折り付けてやるから返上させてくれ』

「だって起きてる人間は私とムッちゃんだけヨ?それと、私の愛は返品不可なの。

 諦めて受け止めてね」



 微妙に話が逸れた。というか要らない話が混じった。


(キビ様、世界一ラブリーは否定しないんですか……)


 ムツキは作業をしながらツッコんだ。



『黙れ変態が。自慢の乳を削ぎ落とすぞ』



 眠くて気が立っているのだろう。

 キビのイライラをよそにタマコはうっとりトキメク。


(やっぱりキビちゃんは何喋ってても可愛くてたまんないわぁ…)


 タマコのここ数年のマイブームはキビと自分。

 嫌な顔をするキビを想像するだけでゾクゾクする。

 タマコは興奮して悶えながらクネクネとポージングしている。

 彼女はキビが自分を見ていることを知っていてわざとその動きをしていた。

 ここまで警備員が現れなかったのは、この部屋に到る道程でその殆どを

ムツキが排除したのだが、それに気付かれなかったのはキビが監視システムと

通信機器をジャックして二人の発見を回避していたからだ。


(深夜の変態はテンションが高くて相手にしたくない)


 早く寝たいのに見たくもないタマコの『冷たいキビに悶える美しい私』ポーズに

『はぁー』とキビが溜息を吐く。



『何度も言ってるだろう。そういう所には盗聴機だのカメラだのがあるものだ。

 業者が行く前に正体がバレるようなことをするな』

「えぇー?でもかなり手遅れよー?」

『分かってる。もうお前ら死ねばいい…』



 ムツキの携帯端末は盗聴を妨害する機能を持たせているが、会社以外の人間が仕掛けた

盗聴機等が在れば、その人間まで炙り出して始末しなければならない。

 でなければ存在が誰かに知れてこちらの身が危険に晒されるからだ。

 唯でさえ眠たくてイラついているのに初ッパナからムツキとタマコが正体をバラしたせいで

無駄に仕事が増え、おまけに変態ナルシストの自己陶酔プレイに付き合わされる。


 キビはこうしてタマコと会話をしながらも、社内全ての監視カメラのチェックと

その映像の偽造工作、起動したパソコンのハッキングを同時に行っている。

 キビがハッキングすれば、欲しい情報を手に入れるくらい簡単にできるのに

二人がわざわざ乗り込んだのは、敵があざとく彼女たちの欲しい情報を正規では

考えられない面倒な手段で隠していたせいだ。

 タマコたちこそ正規……というよりもむしろ犯罪行為で情報を強奪しているのだが、

自分至上主義の彼女は目的のためなら犯罪行為だろうが殺人だろうが気にしない。



『おい、88番をセットしろ』

「ムッちゃん、88ばーん」

「くっ!あ、はい」



 なかなか社長が袋に入らず苦戦していたムツキは、先ほど使った物と同じ形の

88と書かれたカプセルを捻って半分に割ると、中から先端がカプセルと繋がった

数十本のコード出してをタマコに渡す。

 袋詰めにされつつある社長は、タマコたちがろくな武器を持っていないと

思っていたようだがムツキのベルトには、キビお手製の日用品からテロまでこなす

『ジャイアニズムカプセル100種』というささやかな便利道具から、たった一つで

この部屋を吹き飛ばす爆弾まで詰まっている。

 これをムツキが管理しているのは、タマコにカプセルを持たせると何でもかんでも

吹き飛ばして事後処理が大変だからとキビに厳重注意を受けているからだ。

 タマコが適当なコードを全てのパソコンに繋ぎカプセルのスイッチを押した。



「キビちゃんOKよー」



 スイッチを押しておよそ1分。

 キビはネット回線に繋いであったもの、そうでないものも全てのパソコンのデータを

カプセルに移し、バグを植付ける。

 終了の合図はムツキが漸く社長を袋に詰め終えたのと同時だった。



『任務完了。ムツキに換われ』

「はいはーい」



 ムツキは予想外の重労働に汗だくでタマコから携帯端末を受け取る。



「はい、ムツキです。こちらも任務完了しました」

『荷詰めゴクロー。下で業者が待機してるからゴミ持って早く降りろ』



 キビはもう面倒くさくてムツキとタマコが名乗ろうがどうしようが

それを正すことを諦めた。



「帰りは」

『それぞれに車を用意してる。カラの方にお前が乗れ。燃料が切れたから補充してくれ』

「畏まりました」



 端末の電源を切りカプセルを回収し終えたタマコに向き直る。



「では帰りましょうか」

「キビちゃん何て?」

「アレが切れたそうなので私が少し行って参ります。タマコ様はお先にお帰りください」

「あらあら」



 タマコは秘書の入った袋を引きずりながら呆れた声をだす。



「お疲れ様」

「キビ様のためですから」



 ムツキは穏やかに笑うが、手に引く袋は100キロを越えている。




「キビちゃん明日じゃダメなのー?」



 まだシステムを操作しているであろう監視カメラに問い掛けて二人はエレベーターに乗った。 

文中に出てくる『業者さん』は

シ〇ケンジャーの黒子さん的存在

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