恵方巻、南南東を目指して──。
恵方巻の予約の季節がやって参りました♪
> ……巻かれた。
> すべての始まりは、あの冷蔵室だった。
目を覚ましたとき、俺は**極 太巻**だった。
しかもただの太巻じゃない。
**銀座の名店『鮨よしたけ』監修**という
格式高き称号を冠した、選ばれし存在だ。
具材の密度は業界屈指。
マグロ、サーモン、穴子に厚焼き玉子
──己の中身ながら、つい惚れ惚れしてしまう完成度だ。
だが、俺の人生(巻き寿司生?)は、そう長くはなかった。
「はい、**冷凍**入ります〜」
その声を最後に、世界が凍った。
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■節分前哨戦:恵方巻、早割の罠にかかる
凍てつく時の牢獄で俺は知った。
この世界には“**早得**”という制度があることを。
1月10日、15:00──。
その時間までに俺たちを予約すれば、
なんと5%も安くなるらしい。
おいおい、俺の価値、5%も削れるんか……?
俺は【招福海鮮恵方巻】の奴と
冷凍庫の中で震えながら語り合った。
> 「お前……どこに送られるんだ?」
> 「……長野、だってさ。離れて暮らす息子のもとへ」
> 「そうか……せめて温かいご飯と味噌汁に恵まれろよ」
> 「……お前こそな」
海苔の奥が、涙で湿った気がした。
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■出発の日:恵方巻、配送トラックに乗る
配送票には「**お届け先変更便**」と書かれていた。
俺たちは“家族の絆”とか“福を巻き込んで”とか
縁起のいい言葉を並べ立てられながら、地方に送られていく。
……俺たちの意思は、誰も聞いてくれなかった。
トラックの中で聞こえた。
「南南東……今年の恵方は、南南東だそうですよ」
……南南東。
その言葉が、俺に希望をくれた。
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■クライマックス:恵方巻、食卓に立つ
解凍された俺は、ついに食卓へと並べられた。
「わあ、お母さんありがとう! 銀座の太巻きなんて豪華〜!」
目の前には、
久しぶりに実家から届いたという笑顔の青年と
優しそうなその妻と子供たち。
ああ、ここが……俺の最期の場所か。
青年が口を開いた。
「いただきます。……南南東、だよな?」
「うん、ちゃんと方角アプリ見た!」
噛み締められる。咀嚼される。
でも、もういい。これでいい。
俺は**幸福**を巻き込んで、誰かの一年の始まりになれた。
そう、これはただの寿司ではない。
**恵方巻**という名の使命を背負い、
南南東へと旅立った──
一本の物語である。
ご覧いただきありがとうございますm(_ _)m
恵方巻 おいしく転生(解凍)して召し上がって下さいね。




