ダンジョンの闇
領主から、『突如現れた、謎のダンジョンを探れ』との命令を受けた。
彼は今まで、数々のダンジョンを踏破し、様々な宝を持ち帰った冒険者である。ギルドでは、もはや伝説級の存在だそうだ。
しかし、彼はそんな地位や、莫大な財宝、利益など必要としていない。彼にとっての「宝」とは、まさに未知のダンジョンに挑むこと。恐怖心、好奇心、後悔、希望、そして踏破したときの達成感。
これこそが、彼の「宝」なのだ。
なので、今回の領主からの依頼は彼にとって好都合だ。新しいダンジョンに挑戦できる。しかも、報酬もなかなか高値だ。これで武器防具、道具も揃えられるし、拠点となる宿屋も押さえられる。仲間も雇えるかもしれない。
いつもは一人なのだが、やはり初見のダンジョンは仲間が居てくれると心強い。戦力というのもあるが、何より『ダンジョンの情報を他の人間にも周知できる』というところが大きい。
ダンジョンは一人のものではない。人類の謎であり、人類の糧なのだ。彼はずっと、この思考でやってきた。
さて、今回は三人の仲間が集まったようだ。
ダンジョン踏破数ふたつの武闘家。ダンジョン踏破数よっつの僧侶。ダンジョン踏破数みっつの、魔法使い。
冒険者の格は、ダンジョンの踏破数で決まる。これは申し分のない戦力だ。たいていが踏破すら出来ず、逃げ帰るものがほとんどなのだ。踏破数ひとつでも、一般の冒険者には一目置かれる存在である。
ちなみに彼は、やっつの踏破数を誇っているが、どうやら仲間には言わないでおくようだ。自分を誇示するようで、恥ずかしいのだろう。
そんなダンジョンベテランの彼でも、初めてお目にかかる『出来たばかりのダンジョン』。最初に足を踏み込むのは、我々なのだ。こんな心躍る冒険があるか。そんな心境である。
そして、件のダンジョンに到着した。入口は珍しい落下型。
ここで、ダンジョンの種類について少し説明しておこう。たいてい、ダンジョンというものは扉型、階段型、そして落下型と、その入口に応じて大まかに三種類に分けられる。
塔などに多い扉型、洞窟に多い階段型。この二種類が有名どころだ。今回我々が見つけた落下型は、その名の通り地面に穴が開いており、そこに飛び込む入り方をする。この型は、ほとんど見られない珍しいものである。
ベテランであり、百戦錬磨の猛者である彼は、抜かりなく脱出用のロープを張り、仲間に向き直ってこう言った。
「この中で、落下型に挑戦したことがあるものはいるか?」
皆、首を振る。
「俺もだ。しかも出来立てで、初の侵入者が我々だ。何が起こるかわからない。ここは作戦を立てていきたいと思う。まず、全員で一気に中に入り、しばらく入口周辺で様子を見ることにしよう」
全員、それに従う。リーダーはあくまでも、彼なのだ。
「では、行くぞ!」
全員、彼のあとに続いて入口に飛び込む。幸いなことに、そんなに高さはない。全員無事に着地した。その途端、全員が倒れた。
硫化水素による中毒死であった。
賢明なる読者諸君がもし、穴に降りる機会があるのならば、送風機などによる換気を徹底的にすること。ベテランこそ、このような罠に落ちるものである。




