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三度目は魔法使い

三度目の人生、私はデュランの隣の屋敷に住む、女の子だった。


女の子!女の子だ!!


そして、今回の私には、驚くほど魔力がある。

聖女の時も魔力があったけど、今の私の魔力はその比じゃない。医者に言わせると、人の身には過ぎるほどの魔力量らしい。無事に生きているのが奇跡なんだとか。


そう言えば、デュランの仲間の騎士から、彼が妹のように可愛がっていた子が魔力過多症で亡くなったと聞いていた。


そっかぁー、死んだのかー、え?!私も死ぬの?

でも元気なんだよね?

その子は五歳で亡くなったと聞いていたので、私は六歳の誕生日を迎えた日、めちゃくちゃ大泣きして喜んだ。

泣きすぎて、親にも、デュランにもびっくりされて、結局泣き止むまで、デュランは私をおんぶして宥めてくれた。


有り余る魔力を持つ私は、史上最年少の10歳で魔塔に入った。研究テーマは転移魔法だ。

今回の人生で、私はどうしてもしたい事がある。その為の力になる魔法が転移魔法だった。


私には、よくある四元素魔法以外に、空間魔法と時魔法の適性があった。転移魔法はその空間魔法の一分野で、適性を持つ人が少ない為、研究が進んでいない分野だった。召喚魔法も転移魔法の一種ではあるのだけれど、かなり特殊で、別分野のような扱いになる。

それでも私は逆召喚の魔法は無いかとそれも研究したのだけれど、駄目だった。


元々召喚魔法は座標を指定して対象を呼び出すものでは無い。ランダムに魔力が届いた所から、対象を引っ張ってくる魔法だった。


つまり、聖女は誰でも良かったという事で、決して選ばれし〇〇、と言うものでは無かった。

神の与えた魔法と呼ばれていて、召喚時に聖女の力が付与されるだけ。概要は分かったけれど、一切手を加える余地の無い魔法だった。


召喚魔法、本当にクソ!


座標を指定しないから、帰る座標が得られず、元の世界に戻れないって、なんて糞魔法よ!

だから狙ったのは転移魔法。召喚魔法と違って送り先も送り元も確定していないと発動しない魔法だ。

けれど研究すればするほど難しい問題があった。


質量


つまり、送るものの大きさに制限がかかる。

魔力量次第で多少の差異は有るけれど、送る距離と質量には厳密な決まりがあった。

例えば国内なら私の魔力量で、20人迄転移させることが出来る。隣国なら15人。別大陸なら、2人。

そして、まだ試していないけど、別次元には人一人どころか、手のひらに乗る程度の物しか送れないだろう。

これでは聖女を元の世界に戻す事はできそうにない。

それに別次元ではその座標を知ることすら難しい。


どうする?どうすれば良い?


「シャロン、最近部屋から全然出ないそうじゃないか。体を壊すぞ。」

「デュラン兄さん。」


そう、なんと、今世の私は彼の事を兄さんと呼んでいる。凄くない?


「最近都に、ピオナのタルトを売る店があるそうだ。食べに行くか?」

「行く!すぐ支度する!」


デュランはくすくす笑いながら、下で待っていると言って、部屋を出ていった。

大急ぎで私は最近母様が作ってくれたクリーム色のワンピースに着替え、メイドのマリリンに髪をハーフアップにして貰って、階段を駆け下りた。


「こら、走るな。」


笑顔のデュラン兄様が私の頭にコツンとゲンコツをくれる。


「ごめんなさぁい。」


こんな彼との関わりが凄く幸せで愛しい。

けれどこんな日々は長くは続かず、結界の綻びと共に、デュランは魔獣討伐に走り回るようになった。


そして17の時、やはり聖女召喚が行われ、異世界の少女、由利がこの世界にやって来た。


私はデュランの反対を押し切って、魔法使いとして、彼の騎士団に参加することにした。そこで出会ったのが、辺境伯三男のコンラッドだった。


二回目の私。


彼は気のいい男で、ゴツイ割に子犬のような可愛さがあった。同い年なのもあって私たちはすぐに打ち解けた。そして、彼は聖女に恋をしていた。


「はい。ピオナ」

「え、なんで?」

「女の子はね、みんなピオナが好きなの。」

「聖女様も?」

「うん。絶対。」

「そうか。うん。ありがとうシャロン。」


嬉しそうに、大切そうにピオナを持って、聖女のテントに向かう彼を見送っていたら、デュランが隣に立っていた。


「聖女様に気遣ってくれてありがとうシャロン。彼女をこの世界に引きずり込んでしまった責任と罪を、我々は自覚しなければいけないな。」

「そうだね。」


そうね、ごめんね由利。召喚阻止してあげられなかった。本当にごめん。


少しづつコンラッドと聖女様が距離を詰めていくのを、私は微笑ましく見守っていた。


「シャロン、辛くないか?別の団に移るか?」


少し眉を下げ伺うように聞いてくるデュランに、私は目を丸くした。


「え?何で?デュラン兄さん」

「お前、コンラッドが好きなんだろう?」

「違うし!あいつは良い奴だけど、私が好きなのは、」


思わず口を両手で抑えた。


「……好きな男がいるのか?付き合ってるのか?何時からだ?」

「す、好き、なのは、もうずっと前、から。付き合っては、いない、かな。」

「お前、もしかして、遊ばれてるのか?」

ぎゅぎゅっとデュランの眉間に皺がよる。

「ち、違う、違うの。」

「そうか。明日はドラゴンとの戦いだ。それが終わったら、俺がその男に話をつけてやるから、ちゃんと詳しい話を聞かせて貰うからな。」

「う、うん……」

「じゃあ、今日はもう寝ろ。」

「はい。デュラン兄さん。」


そして、瀕死のドラゴンがドラゴンブレスを放つその瞬間、私は転移魔法でドラゴンを地上1000メートルの高さに吹っ飛ばした。



ドラゴン戦の後、私は聖女様からスマホを借り受けた。よく使う物にはその使用座標の履歴が残る事が私の研究で分かったからだ。このスマホにはこの聖女である由利の座標が残っている。

残念ながら、私の座標はどこにも無いけれど。


「手紙なら聖女様の家に届ける事ができます。返事は受け取れませんが、ご家族に今の生活をお知らせしてはどうでしょうか?」

「できるの?手紙が送れるの?あ、どうしよう。手紙なんて書いたことない。ううん、でも書く、書くから送って下さい。」

「はい。」


そして、私は聖女の家族に手紙を送った。目に涙を湛えて私に手紙を差し出す彼女の隣には、彼女の肩を優しく抱くコンラッドがいた。



「シャロン、お前の好きな人の話なんだけど……」

「う、うん。」

「ちゃんとお前を大切にしてくれる人か?」

「うん。絶対。」

「そ、そうか。それなら、良いんだ。」

「あのね、私、今日、告白しようと思う。」

「今日?今から、行く、のか?」

「うん。今、会ってる。」

「え?」


目が真ん丸になっているデュラン、初めて見た。なんか、可愛い。


「い、今?」

「うん。今。」

「それって……」

「デュラン兄さん、大好き。愛してます。私をずっと隣に置いて欲しい。」

「シャロン……」


真っ赤になったデュランは、ポケットから小さな箱を取り出した。


「これは?」

「お前が告白する前に、俺がプロポーズしようと思ってた。他の男にシャロンを取られるのは嫌だ。」

「デュラン兄さん……」

「デュランだ。兄さんじゃない。」


真っ赤な顔で視線をずらしながら言われ、私はそのあまりの可愛らしさにくすくすと笑ってしまった。

ああ、彼がこんなに可愛い人だったなんて。


「笑うな。」

「ふふ、大好き、デュラン、凄く好き!」

「俺も、昔からお前が好きだった。妹じゃなくて、特別な人、として。」

「うん、うん。」


彼に駆け寄り抱きつく私に、カフェ内の客から暖かな拍手が贈られた。

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