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二度目は騎士で

一度目の最後、私は確かに彼と共に戦えるような人間になりたいと思った。

思ったけどさぁ、これは無い。これだけは無い。


私は男性に生まれ変わって、時を遡っていた。


物心ついた時から、私は前世の記憶を取り戻していた。そして、辺境を守る辺境伯の三男として逞しく育つ事になる。

前世のちょっと小柄な姿からは遠く離れ、立派な胸筋と上腕二頭筋が育った体だ。

だって、仕方ない。

辺境伯一家は皆が皆、脳筋だったのだから。


幼い頃から、一日中体を鍛え、山盛りもりもり食事をする。元々父の体は巌のようにでっかいので、子供たちは誰もがその血を引いているのか、大きく育った。

はっきり言って、私の兄弟は戦闘狂だ。

私は理性がほんの少しだけあるので、一番まともだと思う。


木を倒すのに私達兄弟は、斧でなく体当たりだけで倒すことが出来、もちろん魔獣とは取っ組み合いの戦いができる。

私が15になる頃に、国の結界が綻び始め、魔獣が森から現れるようになった。



私が17になったある日、家族揃っての夕飯で、父がポツリと呟いた。


「聖女様を召喚することになったらしい。」


私がここに居るのに、どうやって?


それが私の疑問だったけど、その後、召喚に成功したとの話が聞こえてきた。

結界修復と共に、残った魔獣の一斉討伐の布告が出され、私は王都軍に志願した。


辺境伯の息子で、辺境の魔獣討伐の実績を買われ、若輩ながら、私は王都軍の聖女部隊に組み込まれることになった。


今私の目の前を歩くのは、真っ白なローブに身を包んだ私、早坂由利だ。間違いない。私の前世。

そしてその横に並んで歩いているのは、前の私の護衛騎士、デュランだ。


聖女様とデュランはなんかギクシャクしていた。傍から見ればそうだったのかもしれないけれど、私はもっと彼と親しかったつもりだった。


由利である時の私は、気が強いけど泣き虫で、映画を見る度に泣いて、友達によく笑われた。でも……

でも、こんな声を殺して泣くような泣き方をした事はなかった。


聖女様は由利で、でも私じゃない。


帰る方法が無いと聞いてるはずなのに、一人になると帰りたいと小さな声で呟いては泣いていた。

そんな彼女はいわゆるパラレルワールドの人なのかもしれないな、なんてラノベの読みすぎだろうか。


「聖女様、これをどうぞ。甘くて美味しいですよ。」

「!」


すっかりごつくてでかくなった私から、小柄な聖女様に桃色の果物を差し入れた。

ピオナという果物で、見た目も味も桃にそっくりなのに、つる性の植物なのがどこか馴染まない。

由利だった頃、私は桃が好きだった。夏になると飽きずに桃を食べていた。


「桃?」

「ピオナといいます。」

「ピオナ……」

「はい。」


聖女様は小さい手でピオナを受け取ると、そっと一口齧った。


「甘、い……」


聖女様も私と同じ皮ごと派だった。


顔を少し赤らめて、必死に食べる聖女様に、私はもう一つピオナを差し出した。


「もう一つ食べますか?」


小動物みたいに必死に首を振る姿が、由利の姿なのに何だか可愛くて、多分同い年なのに、妹みたいに可愛く感じた。


聖女様のテントを出たら、デュランが立っていた。


「す、すみません。勝手に聖女様に……」

「いや、良い。私では聖女様は気が休まらないから、君に感謝している。彼女の笑顔を見るのはいつぶりだろうか。そうかピオナが好きなんだな。」


少し切なげに眉を下げる彼を見て、あの頃の私の気持ちは、もしかしたら一方通行ではなかったのかもと、そう思うだけで、胸の奥が暖かくなった。

どうして今、私は聖女じゃないんだろう?


「団長……」

「君は辺境伯のご子息だったな。聖女様と同じぐらいの年齢か。まだ若いのに魔獣討伐に自ら名乗り出たと聞いている。」

「はい。」

「随分と剣の腕が立つと、副団長も褒めていたぞ。よろしく頼む。」

「頑張ります。」


そしてドラゴン討伐の日、死んだと思ったドラゴンがドラゴンブレスを吐く、その瞬間、私は自分の武器である人の倍はある大剣で、上からドラゴンの口を閉じ、被害が最小になった爆発で体を吹き飛ばされた。


そして、私の二度目の人生が終わった。

次に産まれ代われるなら、聖女様も助けてあげたいし、こんなゴツイ体じゃなくて、デュランに好きと言えるような女の子になりたい。

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