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一度目は聖女だった

お読み頂きありがとうございます

サクッと短いので気軽に読んでいただけると嬉しいです

一度目の人生、私は聖女としてこの世界に突然取り込まれた。


いつものようにバイトに急いでいた時に、突然足元が光ったかと思えば、石造りの建物の中、見慣れないおじさん達に囲まれて、立っていた。


何コレ、異世界召喚?

まさか、と思ったのに、そのまさかで。


おじさん達は、子どもだ、とか、ひ弱だ、とか、小さい声で言いながら、作り笑顔で私に近づいてきた。


「聖女様、よくぞお越し頂けました。」

「来たくて来たんじゃないし!」


言い返したらびっくりされた。言葉が通じてびっくりだわ。


「突然の事で驚かれたようだ。ささ、ご案内致しましょう。」

「ちょっと、聞いてんの?帰してよ。」

「ははは、まあゆっくりお話を。」

「だから、帰せって言ってんの。ふざけんなよおじさん。」


こんなに切れたのは初めてだ。だってこの人達、おかしいんだもの。全く話が通じないと言うか、聞く気がなあと言うか……



まるで作り物かのように顔面偏差値の高い騎士、多分護衛騎士かな、と部屋に閉じ込められた私は、なんか悔しくてクッションをバスバスと叩いていた。

その後、おじさん達がまたやって来て、我が国はこんなに困ってるんですぅとか、聖女様には助けて欲しいんですぅとか、色々言ってきた。

でもニヤニヤ笑うおじさん達を見ていると、なんだか全然信用出来なくて、ただ自分達が利用しようとしてるだけなんじゃないかなって思えてしまった。


そんな私に護衛騎士の彼が言った。


「この国の姿をあなたの目で見て下さい。」


良いとか、悪いとかじゃなくて、私の目で見る?

何を?

でもその言葉が気になって、私はおじさんに喧嘩口調で言ってみた。


「そんなに困ってるって言うなら、街を見て歩かせてよ。構わないよね。」

「おお、勿論ですとも。聖女様。」


それで連れられてきた街は、思ったよりも暗かった。

つい先日も隣の村が魔獣に滅ぼされたと街の人の噂になっていた。市場の商品も凄く少なかった。

歩く人は顔色も悪く痩せていた。

そういえば、おじさん達もみんな太ってはいなかったな。


部屋に戻って落ち着いておじさん達を見てみれば、ニヤニヤ笑いは、私に気を使った愛想笑いだった。

本当は聖女じゃなくて聖人、つまり男性を呼ぶつもりだったんだって。それも成人後の。

だから、私みたいな高校生は子どもで心配だったらしい。でも聖女か聖人はどうしても必要だった。

この国を守っていた結界はもうあと一年も持たないらしくて、綻びから魔物が入り込んでいて、もう既に大勢の人が犠牲になっている。戦うにも聖なる力が有ると無いとでは全く違って、魔物によっては聖なる力が無いと倒せないらしい。


それで、召喚された人はもう元の世界に戻れないんだって。

そっかぁー、戻れないのか。

この人達が憎らしい。私の人生返せって言いたい。言いたいけど、そっかぁー、ここで暮らすしかないのか……

じゃあ、この国滅ぼされちゃ困るよね。私が生きていけるところはここだけなんだもの。


「分かった。協力する。でもずっとは嫌。私は普通の暮らしがしたい。」

「城での暮らしはお嫌ですか?ご不自由はさせませんが?」

「そう言うのは良いや。なんか私には似合わないし。」

「聖女様。では一年。我々と一年協力をお願いします。死にものぐるいでこの国の脅威を取り除く努力をします。それでも貴方様に危険は無いとは言えません。けれど……」

「私が命にかえてもお守りする。」


護衛騎士が低いイケボでそう言った。その台詞がまるで映画みたいで、ちょっとだけキュンとした。


そこから10ヶ月、私は結界を張り直し、この国の騎士団の人達と魔物討伐に各地を転々とした。

護衛騎士のデュランは騎士団一の剣と魔法の使い手で、数回魔法を打つ事しか出来ない私を、言葉通りずっと守ってくれた。


「ねぇデュラン、次のドラゴンで魔物討伐も最後だね。」

「ああ、そうだな。」

「絶対に倒そうね。」

「ああ。」


倒したら、その後は?

私から告白してみる?他の騎士に彼に婚約者も付き合っている人もいないと聞いている。彼から見たら私は子どもかもしれないけど、それでも彼が好き。大好き。


「早く寝ろ。明日は大変な一日になるだろうからな。」


そっと頭を撫でてくれる彼の大きな手が好き。


そして翌日、私たちはドラゴンと対峙した。大きい。それに怖い。騎士達が次々とはね飛ばされ、魔法もなかなか決まらない。


「ホーリーノヴァ!」


私の魔法が作った傷跡をデュランの剣が鋭く抉る。


ギャアアアアアアア


「ホーリーノヴァ!」


けれど、魔法が届くまでの僅かな隙に、その大きな爪が私を襲った。

駄目、避けれない!

そう思った私の前を大きな影が覆った。


「デュラン!!」


彼の体から血が噴き出す。

駄目。死んじゃ嫌だ。必死に彼に治癒魔法をかけた。凄い傷で治せるか分からない。


「由利。」

「話しちゃ駄目。治すから。絶対に治すから。」


私の背後では、私の放った魔法で弱ったドラゴンを騎士団の皆が一斉に攻撃してくれている。


「ドラゴンを……」

「皆が頑張ってる。デュランは生きる事を頑張って!もう喋らないで。血が止まんない。」

「……」


ずずーんと音を立ててドラゴンが倒れた。やった。これでデュランを治したら私達の勝利だ。


私はずっとドラゴンに背を向けていた。だから気がつけなかった。

死んだと思ったドラゴンが、まさか最後の最後でブレスを放つなんて。


そして、私の一度目の人生が終わった。

次に産まれ代われるなら、彼の力になれるような人間になりたいな。


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