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観察者アリオと、はじめての地球人

作者: ごはん

アリオは惑星ザイア出身の若き観察官だった。ザイアの住人は、感情を空気の色で共有する種族で、言葉を持たない。彼らは空気を通して気持ちを読み合い、争いのない社会を築いていた。


地球への任務が下ったとき、アリオは心を躍らせた。「言葉」で意思疎通をする生き物たち、そして「個別の思考」と「自由意志」を持つ存在。なんと魅力的で、なんと理解不能な生物なのだろう。


アリオは姿を隠し、地球人の暮らしを観察し始めた。


ある日、公園のベンチに座るひとりの少女に目がとまった。彼女はパンくずを手にスズメたちを呼び寄せ、にっこりと笑っていた。空気の色は読めない。でも、たしかにそこに「やさしさ」があった。


少女の名はハルカ。アリオは、彼女の行動と言葉を記録し、宇宙船で解析を重ねた。


「どうして、ハルカは笑っていたのだろう?」


「スズメが近づいたから?」「それとも、自分が与えることができたから?」


データでは答えが出なかった。


そしてアリオは、ひとつの結論に至った。


――観察では、足りない。


ある日、意を決してアリオは人間の姿に擬態し、ハルカの前に現れた。


「こんにちは。君を、研究していました」


突然の言葉にハルカはぽかんとしたが、アリオの真剣な目を見て、くすっと笑った。


「変な人。でも、いいよ。質問あるなら聞いて」


それからというもの、アリオとハルカの対話が始まった。


「なんで人は泣くの?」


「悲しいときとか、うれしいとき。心が動いたら、あふれるんだよ」


「それはなぜ?」


「理由は……たぶん、自分でも全部はわからない。でも、それで誰かに寄り添ってもらえることがあるから」


その夜、アリオの胸に、ほんのりと色が灯った気がした。ザイアの空気では見たことのない色。それが「共感」というものだと、アリオはまだ知らない。


観察は、理解への入口に過ぎない。触れて、感じて、わからなくても、隣にいること。


それが、彼の初めての「地球語」だった

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