外の光に当たる君 #8
リハビリが終わり、いつものように病室に戻る途中、俺はふと思い立った。
「……ちょっと外に出てみるか」
病院の廊下を歩きながら、ふと窓の外に目をやると、緑の中に広がる小さな庭が見えた。
病院の敷地内にある庭は、どこか穏やかな空気が流れていて、病院の中の騒がしさから少し離れている感じがする。
リハビリの後に、少しでも気分をリフレッシュできる場所があればいいなと思った。
そして、病室を出て病院の庭へと向かうと、そこに彼女がいた。
彼女は、静かにベンチに座って本を読んでいた。
昨日とは違って、表情が穏やかで、どこかリラックスしているように見える。
そんな彼女を見つけた瞬間、思わず声をかけた。
「おーい!」
彼女は、驚いたように顔を上げ、俺を見た。
「……あ、春樹くん!」
「外出れるんだね。何してるの?」
「本読んでるだけ」
彼女は本を軽く見せてから、またページをめくる。
「暇だから、外に出たくなって」
俺は彼女の隣に腰掛けて、庭を眺めながら言った。
「結構、静かで落ち着くね」
「うん、ここが一番いいかも」
彼女はそう言いながら、周りの風景を見渡した。
日差しが柔らかく、木々の間を風がそっと抜けていく。
花が咲いているわけでもないが、緑が広がっていて、それだけで心が和む。
「こういう場所、いいよな」
「うん、たまにはこういうところで気分転換しないとね」
彼女は小さく笑いながら言った。
会話が自然と続いていく。
リハビリ中に見せたあの硬い表情からは想像できないくらい、リラックスしている彼女に、俺は少し安心感を覚えた。
俺たちは、ただ静かな時間が流れる中で、少しの間、ただ庭の景色を楽しんでいた。
どちらからともなく、会話は途切れ、しばらく沈黙が続く。
しかし、沈黙が気まずいわけでもなく、ただ自然にその時間を共有しているだけだった。
ふと、彼女が口を開く。
「ねえ、今日は何かやりたいこととかないの?」
「んー、特にないけど」
「じゃあ、気になることとか」
「気になること?」
「うん、あったら言ってみてよ」
俺は一瞬考えたが、彼女の真剣な表情を見て、ふと思いついたことを口にした。
「実はさ、前から思ってたんだけど……」
「ん?」
「瑞稀って、どうしてそんなに学校では明るくて元気なのに、病院ではちょっと違う顔してるんだろうなって」
聞きたい欲望には逆らえなかった。
彼女はその言葉に驚いた様子を見せた。
しかし、すぐに小さく笑った。
「それはね、病院にいる時って、どうしても気を抜けないからかな」
「気を抜けない?」
「うん、気を使わなきゃいけないっていうか、そんな感じ」
俺はその言葉に、ふむと考え込みながら頷いた。
「そんな無理しなくてもいいのに」
「うーん、それが一番難しいんだよね」
彼女は笑顔を見せて、また本に目を戻した。
その瞬間、どこか晴れやかな空気が広がったように感じた。
庭の風景を見ながら、俺は少しだけほっとした気分になった。
彼女が少しひきつった笑顔だったことを、風景を見ていた俺は気付なかった。