笑った君 #7
翌日、リハビリ室で再び彼女と顔を合わせた。
彼女は、俺と目が合うと少しだけ驚いたように目を瞬き、すぐに微笑んだ。
その笑顔は、昨日のような不自然さはなく、どこか安心したような表情だった。
少し前までは、彼女の笑顔が不自然に見えたことがあったが、今は違う。
けれど、その笑顔の奥に隠されている何かが気になって仕方なかった。
俺は彼女がいる間、何度も自分のリハビリに集中しようとしたが、気がつくと彼女の動きに目が向いてしまう。
足を軽く動かし、手を伸ばして器具を使うその姿を、無意識に見てしまう。
(何かあるんだろうな)
そんな風に考えてしまう俺をぶん殴りたくなるが、気になってしまう。
昨日、彼女があんな風に驚いた顔を見せた理由。
それを知りたい気持ちが強くなる。
やがて、リハビリが一段落し、彼女が休憩している間に、俺はついに声をかけた。
「……あの、さ」
彼女は、俺の声に気づくと、少しだけ緊張したように顔を向けた。
「なんだ?」
「いや、昨日の話なんだけど」
彼女の顔が一瞬、こわばった。
やっぱりこれはタブーか…
「……あの時のこと、気にしてる?」
「気にしてるっていうか……気になるんだ…」
「もしよければ…教えてほしい…」
彼女はその言葉に一瞬考えるような顔をしたが、すぐに小さく息を吐いて、答える。
「……うん、気になるよね」
その言葉が、俺の胸にずしりと重く響いた。
彼女も、それを感じ取ったのか、さらに小さく笑いながら言った。
「でも、春樹くんには関係ないよ…」
「……そっか、」
「ごめんね」
彼女は、少し申し訳なさそうに俺に言った。
「でも、絶対に、いつか話すから……その時は、ちゃんと聞いてくれる?」
俺は少し驚いた顔をして彼女を見つめた。
その言葉には、どこか強い意志を感じた。
彼女は小さく頷くと、再び目を伏せて、黙っていた。
(いつか話す……その時が来るのか)
言葉にはできなかったけれど、俺は彼女の気持ちを汲み取ることができた。
今、無理に聞き出すことはできない。
けれど、いつかその時が来たら――
(その時に、俺はちゃんと聞く)
俺は心の中で決意を固め、少しだけ彼女に微笑んだ。
「分かったよ、待ってる」
彼女はその言葉に、ほっとしたように小さく笑った。
その笑顔が、どこか安心感を与えてくれるような気がした。