何かを隠す君 #6
彼女との会話が終わると、俺は再びリハビリに戻った。
理学療法士に指示されながら、腕をゆっくりと動かす。
骨折した箇所に鈍い痛みが走るが、我慢できないほどではない。
そんな俺の横で、彼女も別の器具を使ってリハビリを始めていた。
俺とは違うメニューで、足を伸ばしたり、軽い運動をしたりしている。
動作自体は自然だが、その表情はどこか硬い。
昨日まで、彼女がここにいることすら知らなかった。
そして、今日こうして言葉を交わしてみても――
(やっぱり、何か隠してる)
病院での彼女は、学校での彼女とは違っていた。
明るくて快活なはずの彼女が、どこか影を落としている。
俺の前では、無理に笑っているようにさえ見える。
(何を抱えてるんだ、お前は)
だが、それを俺が知る必要があるのか、とも思う。
病院にいる理由を話したくないのなら、それを無理に聞き出すのは違う。
俺たちはただのクラスメイト。深入りする関係じゃない。
……けれど。
(こうして偶然会っちまった以上、気にしないってのは無理な話だよな)
ちらりと彼女を見ると、ちょうど向こうも俺を見ていた。
視線がぶつかる。
彼女は少し驚いたように目を瞬かせたあと、小さく微笑んだ。
しかし、その笑顔はどこか儚かった。
何かを隠すような、そんな笑顔。
俺は思わず口を開きかけたが――
「はい、今日はここまでにしましょう」
理学療法士の声で、俺は言葉を飲み込んだ。
彼女も、担当のスタッフに声をかけられ、動きを止める。
「……じゃあ、また」
彼女はそう言って、リハビリ室を出て行った。
その背中を見送りながら、俺は思う。
(“また”か……)
病院で彼女に会うのは、これで終わりじゃない。
夏休みが続く限り、リハビリのたびに顔を合わせることになるだろう。
(もっと踏み込んでみたい…)
彼女が何を隠しているのか。
俺が知るべきことなのかは分からないが、知りたい。
そんなことを考えながら、俺は病室へと戻っていく。