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約束は #29

病院の窓から、わずかな陽の光が差し込んでいる。瑞稀が眠っている間、俺は手を握りしめたままじっとその姿を見つめていた。日が暮れるまで、もう少しだけここにいよう。そう思いながらも、胸の中には抑えきれない不安が広がっている。


 ――どうして、こんなことになってしまったんだろう。


 あの日からずっと彼女の病状は良くならない。無理をして学校に通い、俺と一緒に過ごす時間を楽しんでいたけれど、やっぱり彼女の体は限界だったのだろう。そのことに気づくのが遅かった。


 そして、今日も彼女は寝ている。だんだんと顔色が悪くなり、動くたびに息を呑むような表情を浮かべる。それでも、俺が近くにいれば安心して眠ってくれるから、何も言わずにただそばにいる。


 ――どうか、少しでも長く一緒にいられますように。


 そんな思いが胸に込み上げてきたとき、彼女がゆっくりと目を開けた。薄い笑顔を浮かべ、俺に視線を向ける。


 「…来てくれたんだ」

 その声を聞いた瞬間、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。


 「もちろんだよ、ずっといるから」

 俺は必死に笑顔を作ったけれど、それがどこかぎこちなく、彼女はそれを見抜いたかのように小さくため息をついた。


 「ごめんね、迷惑かけて…」

 彼女の言葉に、俺はすぐに首を横に振った。


 「迷惑なんてことない。瑞稀がいてくれるだけで、俺は十分だよ」

 その言葉を伝えると、彼女はしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。


 「でも…」

 その言葉は続かない。彼女は視線を伏せ、しばらく黙ったままだった。


 「ありがとう…でも、私はもう長くないよ」

 その言葉に、俺は動揺を隠せなかった。彼女がそう言ったとき、何かが崩れるような気がした。


 「そんなこと…」

 俺は声を震わせながら答える。でも彼女は静かに目を閉じ、頷いた。


 「ずっと前から分かってた。だから、少しでも楽しい思い出を作りたかったの。だから、春樹と一緒に花火を見たかった…」

 その言葉を聞いて、俺は涙がこぼれそうになった。しかし、瑞稀の顔に浮かぶ安堵の笑みを見て、何も言えなくなった。


 「ありがとう、あなたと過ごせて本当に幸せだった」

 そう言って、彼女は目を閉じた。そのまま静かに、深い眠りに落ちていった。


 俺は、瑞稀の手を握ったまま、ただ静かにその時が来るのを待った。彼女の顔が少しずつ穏やかになり、呼吸が弱くなっていく。最後の瞬間、瑞稀が目を開け、俺を見つめた。


 「来年も……花火を…一緒に見ようね…」

 その言葉が、俺にとって彼女からの最後のプレゼントだった。


 そして、瑞稀は静かに息を引き取った。

 彼女の頬に目から溢れた涙がつたっていった。

 


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