病室 #28
文化祭の喧騒が耳の奥で遠くなる。携帯電話を握りしめ、俺は一歩踏み出した。周りの友達が声をかけてきても、全く耳に入らない。視界がぼやけ、頭の中にはただ一つのことしかなかった。
――彼女が心配だ。
急いで校門を抜け、走り出す。普段なら歩いて行く病院だが、今日は一秒でも早く会いたくて、足を速めることしか考えていなかった。
――どうして、あんな言い方をしたんだろう。最初は助けを求めていたのに、最後は「来ないで」って…。
その言葉が頭から離れない。あれが、彼女の本当の気持ちなのか、それとも何か別の理由があるのか、どうしても分からない。無力感が胸に広がっていったが、今はそれを考えている暇はない。
病院に到着すると、俺はエレベーターを待たずに階段を駆け上がった。自分の体が叫んでいるような気がして、心臓の鼓動が速くなるたびに、少しずつ不安が募っていく。
病院の廊下を走り抜け、瑞稀のいる病室に向かう。足音が響き、息が乱れ、俺はただひたすらにその扉を目指して進んだ。
「……お願いだから………」
病室の前に立ったとき、急に足が止まる。ドアの向こうからは、何の音もしない。ただ静寂だけが広がっていた。それが余計に不安を掻き立てる。
迷いながらも、俺はドアを開けた。
病室の中
病室の中は予想以上に静かだった。彼女のベッドの上には、薄く汗をかいた彼女が横たわっている。顔色はいつもよりも少し青白く、目を閉じたまま眠っているようだった。その姿を見た瞬間、心が痛んだ。
(おい、何してんだよ…)
俺は、心の中で何度も叫んだ。しかし、彼女の無防備な顔を見ていると、声をかけることができなかった。彼女が寝ているのか、それとも意識がないのか、それすらもわからなかった。
そっと近づき、彼女の手を取る。冷たく感じるその手を握りしめると、微かに彼女の目が動いた。俺の手のひらを感じ取ったのだろうか、ほんの少しだけ目を開けて、かすかな笑みを浮かべた。
「……来てくれたんだ」
その一言が、瑞稀から聞こえてきた。
俺はその言葉に安堵し、思わず涙がこぼれそうになった。彼女が無事でいることがわかり、胸の奥が温かくなるのを感じた。
俺は、精一杯の笑顔を見せようとした。しかし、彼女の顔を見ていると、どうしても笑うことができなかった。
「無理しないで、ゆっくり休んでくれ」
「…ありがとう」
そう言うと、彼女はまた目を閉じた。
その言葉に、俺は深くうなずきながら、再び彼女の手を握りしめた。




