緊急通報 #27
文化祭の昼過ぎ。屋台の前で友達と過ごしていた俺 は、ポケットに入れていた携帯電話が震えるのを感 じた。誰からだろうと思って画面を見た瞬間、名前 が表示された。瑞稀だった。
少し驚きながらも、俺は急いで電話に出た。普段なら、元気な瑞稀からの電話に心弾むはずなのに、今日はなぜか不安な気持ちが胸に広がった。
「もしもし?どうした?」
俺が電話を取ると、静かな空気が一瞬だけ流れた。それから、かすれた声が聞こえてきた。
「…助けて」
その声は、普段の彼女からは想像もできないほど弱々しく、震えていた。まるで命の灯火が消えそうなほど、か細い声だった。
「え…?どうしたんだ、どこにいる?」
俺はすぐに聞き返したが、彼女の声はさらにかすれて、次第に途切れがちになった。
その言葉が、うまく聞き取れなかった。何か問題があるのか、無意識に胸が締めつけられる。
「待ってて。すぐに行くから」
俺は電話を切ろうとしたが、突然、彼女の声が再び聞こえてきた。
「来ないで…来ないで…」
その言葉に、俺は息を呑んだ。どういう意味だろう。彼女がこんなにも弱っているのは、普段の強い瑞稀からは考えられない。それなのに、俺に「来ないで」なんて言うわけがない。
「おい、何かあったのか?」
焦る気持ちを抑えながら、必死で尋ねると、また一瞬の沈黙が流れた後、ようやく瑞稀が言った。
「…ごめん、ありがとう。もう…大丈夫。少し、休むだけだから」
その言葉に、俺は不安を抱えながらも一瞬だけ安堵した。でも、その安堵感はすぐに消え失せた。彼女がどこかに行ってしまったような気がして、心の中で叫んでいる自分がいた。
「待って、今すぐに行くから。無理しないで、絶対に」
俺は再び電話を切ろうとしたが、その瞬間、彼女の声がもう一度響いた。
「お願い、来ないで…」
その言葉が、まるで苦しみに耐えきれずに出たかのように響いた。その声は、もう俺を遠ざけようとしているのか、それとも他の誰かを遠ざけるための言葉なのか、何も分からなかった。
電話が切れると、俺はその場で動けなくなってしまった。あんなに元気だった瑞稀が、こんなにも弱々しくなっている。文化祭の最中で、みんなが楽しんでいる最中で、彼女が一体どんな思いを抱えているのだろう。
俺はすぐに誰かに言おうとしたが、すぐに決断を下す必要があった。迷っている時間はない。急いで、彼女のところに向かうべきだ。




