前日 #25
文化祭がいよいよ明日だというのに、俺は今、少しばかり落ち着かなかった。リハビリも終わり、今日は一人で帰る途中だ。街並みがどこか賑やかで、夏の終わりを感じさせるような夕焼けが空を染めている。その光景をぼんやりと眺めながら歩いていると、急に足を止めたくなった。
「明日か…」
そう呟きながら、俺はつい息を吐いた。文化祭の準備は完了し、クラスメイトたちも明日を楽しみにしているだろう。しかし、俺の心は落ち着かなかった。特に、瑞稀のことが気がかりだったからだ。
病院から帰ったばかりの彼女が、無理をしないようにしていると分かっていても、やはり少し心配だ。明日の文化祭、瑞稀は楽しみにしているだろうか？ 本当に無理せずに楽しめるだろうか？ そんな不安が、頭の中でぐるぐると回っている。
「瑞稀…明日も来るよな…？」
俺はひとりで呟く。答えは出ないけれど、気持ちの中では答えを願っている自分がいた。
そのとき、ふと携帯が鳴った。画面を見ると、彼女からのメッセージだ。
『明日、文化祭行けるかな？ 少しだけでも一緒にいたいな』
そのメッセージを見た瞬間、俺の胸が高鳴った。明日、瑞稀が来ると言っている。少しだけでも、一緒にいられることが嬉しくて、自然と顔がほころんだ。
『もちろん、待ってるよ。無理しないでね』
すぐに返信を送ると、すぐに返事が届いた。
『ありがとう。明日、楽しみにしてるね！』
その短い言葉に、俺はまた心が温かくなった。
そして、そのまま帰宅した俺は、文化祭の準備をしながら、どこかソワソワしていた。衣装の用意を整えたり、明日必要なものをチェックしたりしながら、ふと彼女がリハビリ室で言っていたことを思い出す。
「明日は楽しんでねって、あんまり無理しないようにしなきゃな…」
彼女はいつもそう言ってくれるけれど、その言葉を胸にしっかりと心に留めておかなければならない。
文化祭という大きなイベントは、学生たちにとって特別なものだ。誰もが楽しみにしている。でも、彼女にとってそれはまた少し違う意味を持つ。病院で過ごす時間が長い彼女にとって、この日をどう迎えたのだろうか。それが少しだけ心配だった。
「明日、楽しい一日になるといいな」
俺は窓の外を眺めながら呟いた。夜の空気はひんやりとしていて、秋の訪れを感じさせる。
翌日、文化祭当日。朝の陽射しが爽やかで、空は透き通るように青かった。俺はいつもより早めに学校に着き、クラスの準備を手伝うことにした。すでに他のクラスメイトたちは賑やかに準備を進めていて、その中でも特に目を引くのは、彼女が来ることだ。
少し心配だったが、彼女からのメッセージを思い出すと、安心した気持ちになれた。そして、今日は何よりも楽しみだと思う自分がいた。
文化祭の準備が進む中、やがて昼過ぎに、俺はリハビリを終えた彼女と再会する。病院から学校に向かう道のり、彼女はどこか晴れやかな顔をしていた。
「やっと来たね！」
俺が声をかけると、瑞稀は明るく答えた。
「うん、楽しみにしてたから！無理しないで頑張るね」
彼女は少し照れくさそうに言うと、俺の隣に並んだ。
「無理しないでね。今日は楽しもう」
そう言って、俺は彼女に笑顔を向けた。少し緊張している自分に気づく。
「うん、楽しむ！」
瑞稀も力強く答えた。
明日はどんな一日が待っているのだろうか。お化け屋敷に行くのか、屋台を回るのか、クラスの出し物を観に行くのか…二人で過ごすこの一日は、間違いなく素晴らしいものになると信じていた。
