文化祭 #24
それから数週間が過ぎ、秋の風が少しずつ冷たさを増してきた。病院でのリハビリは続いていたが、瑞稀の顔には日に日に明るさが増してきた。教室でも彼女は以前と変わらず元気で、学校生活に溶け込んでいた。しかし、病院で過ごす時間と学校で過ごす時間が交互に訪れる中、瑞稀も少し疲れた様子を見せることがあった。
「無理してない?」
俺がそう声をかけると、瑞稀は明るく笑って首を横に振った。
「大丈夫だよ。だって、もうすぐ文化祭だしね」
その言葉に、俺は少し驚いた。文化祭というと、学校生活の中でも大きなイベントだ。皆が楽しみにしていることだが、彼女にとってはどうだろうか。
「文化祭、楽しみだな」
瑞稀は目を輝かせて言った。だが、その顔の中に、少しだけ控えめな表情も混じっていた。元気でいられるときに楽しむことが、彼女にとってどれだけ貴重なのか、俺は少しだけ感じ取った。
「うん、俺も楽しみだ。でも、無理しないでね」
「もちろん!無理をするつもりはないよ」
彼女のその言葉に、少しだけ安堵した。だが、それでも、瑞稀が文化祭を迎えることができるのはどれほどありがたいことか、改めて感じた。
リハビリを終えて、瑞稀と一緒に帰る道のり。秋の空は澄み渡り、夕日が街を赤く染めていた。俺たちは並んで歩きながら、次の文化祭について話をした。
「今年はどんな出し物があるんだろうね?」
俺が言うと、彼女は少し考えてから答えた。
「うーん、クラスの出し物とか、見てみたいけど…でも、私は自分のクラスの出し物が一番楽しみかな」
彼女のその言葉に笑ってしまった。
「そうだよね。まあ、俺もそのつもりだよ。君が頑張ってるところ、見たいし」
「え? なんで?」
彼女はちょっと照れたように俺を見上げる。その仕草に、俺は思わず顔が赤くなってしまう。
「いや、だって君が頑張っている姿を見てみたいから」
そう言った瞬間、彼女は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、絶対見に来てよね。私、頑張るから!」
その言葉に、俺は少し胸が熱くなる。どんな小さなことでも、彼女が一生懸命に頑張る姿を見ることができるなら、それだけで十分幸せだった。
そして、文化祭当日が近づくにつれて、二人の間に少しずつ期待が膨らんでいった。彼女が学校に来るたび、文化祭の準備が進んでいく中で、何度もその話を交わすようになった。
「ねえ、もしお化け屋敷があったら、一緒に入ってくれる?」
突然、瑞稀がそんなことを聞いてきた。
「お化け屋敷?」
俺は少し驚きながら聞き返す。
「うん、怖いけど、ちょっと楽しそうだし。怖いのが苦手だったら、無理しないでいいんだけど」
彼女は照れたように言うと、すぐに顔を赤くして下を向いた。
「まあ、怖いけど、一緒に入るなら…頑張るかも」
俺がそう答えると、瑞稀は嬉しそうに微笑んだ。
「ほんと? ありがとう! じゃあ、絶対行こうね」
その笑顔を見て、俺は心の中で思った。文化祭が来るたび、彼女との関係がまた少しだけ深まっていく。何気ない会話、少しの約束。それが、どれだけ大切なものなのかを実感していた。
文化祭まであと少し。二人の期待が膨らみ、少しずつ秋の空気の中でそれを楽しみにする時間が続いていく。どんなことが待っているのか、それを一緒に体験することが、何よりも楽しみだった。




