教室で #23
始業式を終えた朝の空気は、どこか新鮮で清々しい。しかし、校舎に足を踏み入れた瞬間から、俺の中で何かが違うことを感じていた。夏休みが終わり、日常が戻ってきた。でも、俺の中での“日常”は少し変わっていたようだ。
瑞稀が病院で過ごしていた時間が、あまりにも濃密だったからだろうか。あの日々を経て、俺は確実に瑞稀との距離が縮まったと感じている。そして、それがどこか不安でもあり、嬉しくもあった。
学校では、久しぶりに会ったクラスメートたちとの再会が嬉しい反面、どこか浮ついた気分が収まらない。
「久しぶり!」
そんな時、友達の声がかかる。振り返ると、顔なじみのクラスメートたちが笑顔で話しかけてきた。
「お前、どうだった?夏休み、何してた?」
「ずっと家でゴロゴロしてたかな。部活もサボってたし」
皆、相変わらずのノリで話してくる。俺もその流れに乗って話すことにした。けれど、どこかで心が落ち着かない。
瑞稀が教室に入ってきた。彼女は笑顔で手を振った。そして、すぐに歩み寄ってきた。
「おはよ」
瑞稀のその一言に、少しだけ心が温かくなる。リハビリを終えて学校に来る彼女を見て、どこかホッとした。
「おはよ、無理しないでね」
俺が心配そうに言うと、瑞稀はニコッと笑って、肩をすくめた。
「大丈夫だよ。学校に来たら元気出るし。皆と会うのが楽しみだったから」
そう言う瑞稀の顔には、いつもの明るさが戻っていた。その笑顔を見て、俺は少し安心する。
「そうか。でも無理しないでな」
俺は何度も言ってしまう。少しでも瑞稀を支えたいという気持ちが、どうしても言葉になってしまうのだ。
そして、登校初日はなんとか終わった。
「お疲れ様」
俺が声をかけると、瑞稀は振り返り、少し疲れた顔を見せてからまた笑った。
「お疲れ様、今日は久しぶりに学校行ったからちょっと疲れたかな。でも楽しかったよ」
「そうだよね、俺も学校行ったけど、なんだか変な感じだった。しばらくリハビリが続いていたから、学校に戻るのが不安だったけど、またみんなと会えるんだなって」
俺がそう言うと、彼女は小さくうなずいた。
「うん、でも学校に行けるだけでも、嬉しいよ。春樹とまた会えるし」
その言葉に、俺の胸が少し温かくなった。
「それならよかった」
俺は少し照れくさく言って、リハビリが始まる前に二人で少しだけ話をした。病院の空気は、やっぱりどこか静かで、落ち着く。けれど、こうして彼女と一緒に過ごすことで、少しだけ外の世界の喧騒も感じられた。
次の日から、また普通の日常が戻ってきた。でも、彼女との時間がまた少しずつ積み重なっていくことが、どこか嬉しかった。




