もうすぐ始業式 #21
秋の風が少しずつ強くなり、病院の庭にもその冷たさが漂ってきた。夏が終わりを迎え、もうすぐ始業式が始まる。病院のリハビリ室で過ごす日々もあと少し。瑞稀と過ごす時間が限られていることを感じながら、俺はついに口にしてしまう。
「そろそろ、始業式だね」
俺がふとそう言うと、瑞稀は少しだけ驚いたように顔を上げた。そして、いつものように明るく笑顔を浮かべて答える。
「もうすぐ夏休みが終わるなんて、信じられないなぁ」
瑞稀は少し考え込むように、空を見上げる。その目には、少し寂しさが浮かんでいるようだった。
「夏休み、早かったね。まだ終わりたくないなって思っちゃう」
俺は少し苦笑いしながら言うと、瑞稀も同じように笑った。でも、その笑顔にはどこか隠しきれない寂しさがあった。
「そうだね、でも学校に戻るのも悪くないよ。みんなに会えるし、ちょっと楽しみかな」
瑞稀はそんな風に言うけれど、その声のトーンには不安が混じっているのがわかる。リハビリが続いている瑞稀は、学校生活に戻ることをどこか心配しているのだろう。
「うん、でも、無理しないでね」
俺は思わずその一言を口にしてしまった。瑞稀はすぐに小さくうなずく。
「大丈夫、ちゃんと自分のペースでいくよ。ありがとう」
瑞稀が微笑んでくれると、少しだけ心が軽くなった気がした。でも、やっぱり心のどこかで、彼女が元気を取り戻すには時間がかかることを知っていた。
「でも、もう少しだけ、ここで過ごしたいな」
その言葉に、俺は驚いて瑞稀を見た。
「え?」
「だって、ここで過ごす時間が、なんだか落ち着くんだ。リハビリも、春樹と話してるときも、少しだけ安心できるから」
瑞稀は少し照れたように笑う。その顔がどこか切なく見えるのは、気のせいだろうか。
「わかるよ。ここで過ごす時間も、楽しかったよね」
俺も少し考え込むように言った。だって、ここで瑞稀と過ごした時間は、確かに特別なものだった。けれど、瑞稀が言うように、そろそろ学校へ戻らないといけない。その現実が、少しずつ近づいてくることに胸が痛む。
「でも、学校に戻ったら、また一緒に過ごす時間が増えるかもしれないよ」
俺はそう言って、瑞稀を励ますように笑った。
瑞稀も少しだけ笑顔を見せたけれど、その目にはどこか寂しさが残っている。
「うん、そうだね。学校でも、できるだけ君と一緒にいられるといいな」
瑞稀がそう言って微笑んだとき、俺は心の中で瑞稀がどれだけこの時間を大切にしているのかを感じ取った。それと同時に、俺もまたこの時間を大事にしたいと思っていることを実感した。
「ねえ、始業式が終わったら、またどこか行こうか?」
瑞稀が少しだけ明るい声で言った。俺はその提案にすぐにうなずく。
「うん、行こう。どこでもいいよ」
俺は心からそう思った。学校が始まって、忙しい日常が戻る中でも、瑞稀と一緒に過ごす時間を作ることができたら、どんなに嬉しいだろう。