出会い #2
病院での生活は、驚くほど単調だった。
朝起こされ、検温と点滴、簡単な診察。昼になれば決められた病院食を食べ、午後はただひたすら時間が過ぎるのを待つ。寝転がってスマホをいじるのにも限界があり、本を読んでも集中力が続かない。
夜になれば、消灯時間とともに強制的に眠るだけの毎日。
(……暇すぎる)
窓の外を眺めると、暮れなずむ空に街の灯りがぽつぽつと点いている。病院の中は静かで、遠くからかすかにナースステーションの声や足音が聞こえるだけ。
数日前までは、部活をして、帰宅して、風呂に入って、飯を食って、寝るだけの普通の生活を送っていたのに。
なのに今は――
ベッドの上で、ただ時間を持て余している。
そんな生活が何日も続いたある日、担当医がリハビリを始めると言い出した。
***
「それじゃあ、今日から少しずつ動かしていきましょうか」
リハビリ室は、病室とは違い妙に開けた空間だった。窓から差し込む日差しが床を照らし、リハビリ用の器具が整然と並んでいる。
俺の担当になった理学療法士の先生は、穏やかな表情で俺を見下ろしながら、優しく微笑んだ。
「骨折自体は順調に回復しているので、無理のない範囲で動かしていきましょうね」
「はあ……」
俺は気の抜けた返事をしつつ、椅子に腰掛けたまま、まだ不自由な右腕を見下ろす。ギプスは外れたものの、力が入りづらく、うまく動かせる気がしない。
「最初は指先から少しずつ動かしていきますよ」
「こんなんで本当に治るんですか?」
「ちゃんと続ければ、ね。焦らず頑張りましょう」
理学療法士の先生はそう言うと、俺の手を取ってゆっくりと指を曲げ伸ばす。動かすたびに微妙な違和感と鈍い痛みが走るが、我慢できないほどではない。
それを何度か繰り返しながら、俺はふと周囲に目を向けた。
このリハビリ室には、俺のほかにも何人かの患者がいた。
年配の人が多いが、中には俺と同じくらいの年代の人もいる。
(意外と若い人もいるんだな……)
ぼんやりとそんなことを考えていると――
ふと、視界の端に見覚えのある姿が映った。
(……え?)
俺の動きが止まる。
白いリハビリ用のベッドに腰掛け、トレーナー姿で足をさすっている少女。
それは、俺のクラスメイトの《瑞稀》だった。
学校ではいつも明るく、誰にでも笑顔を向ける彼女。
けれど、この病院では――
どこか寂しげな横顔をしていた。
(なんで……?)
思わず見つめていると、彼女がゆっくりと顔を上げた。
俺と目が合う。
彼女の瞳が一瞬、大きく揺れた。
そして――
「……あ」
驚いたように小さく声を漏らし、戸惑いの表情を浮かべる。
そんな彼女の姿に、俺の中でさらに大きな疑問が膨らんでいく。
(どうして、ここにいるんだろう…?)