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約束なんて。 #19

 花火が終わり、祭りの喧騒が少しずつ遠ざかっていく。人々が帰り始め、空は一層静けさを取り戻していた。俺たちはベンチに座ったまま、しばらく何も言わずに、夜空を眺めていた。


 「花火、きれいだったね」

 瑞稀がふと、静かな声で言った。その声には、少しだけ疲れが滲んでいるように感じられる。けれど、俺はそのことに気づかないふりをして、うなずく。


 「うん、すごくきれいだった…」

 俺は答えたけれど、その声が少しだけ震えているような気がした。瑞稀の隣に座っていると、どうしても彼女の表情や動きに意識がいってしまう。瑞稀が不安そうな顔をするたびに、胸が苦しくなる。


 「ねえ、そろそろ帰ろうか?」

 瑞稀が立ち上がると、俺も慌てて立ち上がる。空気が少し冷たくなり、俺たちは手をつないだまま歩き出した。


 歩きながら、ふと瑞稀が足を止め、遠くを見つめた。目線の先には、祭りの灯りが遠くに輝いている。彼女はその灯りをじっと見つめて、深いため息をついた。


 「……なんだか、ちょっと怖くなってきた」

 突然、瑞稀が呟いた言葉に、俺は驚いて彼女を見た。その目は、いつもの明るさを失って、どこか遠くを見ているようだった。


 「怖いって…どうして?」

 俺は思わず問いかける。瑞稀は少しだけ顔をそらし、そして小さく肩をすくめた。


 「だって、今こうして一緒にいる時間が、ずっと続くわけじゃないって、わかってるから…」

 その言葉に、俺の胸がきゅっと締め付けられる。瑞稀が言っていることは、わかっている。俺たちは、来年も一緒に花火を見ると約束したけれど、その約束がどうしても現実の重さを感じさせる瞬間があった。


 「でも…今、こうして瑞稀と一緒にいる時間は大事…だよ」

 俺はなるべく明るく言った。けれど、瑞稀の表情がわずかに曇ったことに気づく。


 「うん、もちろん…でも、わかってる。私、そんなに長くはないって…」

 その言葉を、瑞稀はとても静かに言った。それがあまりにも唐突で、俺は言葉を失う。彼女が明るく振る舞っているからこそ、余計にその言葉が重く感じられる。


 「でも、私は今、春樹とこうしていることが嬉しい。だから、少しでも…できるだけ、今を大事にしたいの」

 瑞稀は少し笑って、俺の方を見た。けれど、その笑顔が少しだけ寂しそうに見えた。


 「……俺も、瑞稀とこうしている時間が大事だよ」

 俺は少し戸惑いながらも、その気持ちを伝える。彼女の気持ちを少しでも支えることができれば、と思う気持ちでいっぱいだった。


 「だから、できるだけ一緒にいようね」

 瑞稀が微笑んで言うと、俺も笑顔を返す。だけど、その笑顔の裏にある不安を、どうしても払拭できない自分がいる。


 それでも、今この瞬間を大事にしたいと、心から思った。

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