花火 #17
少し歩いた後、俺たちは祭りの外れにある小さなベンチに腰を下ろす。周りにはあまり人がいない。聞こえるのは、祭りの音と、遠くから聞こえる花火の準備の音だけだ。
「もうすぐ、花火が始まるね」
瑞稀が静かに言うと、俺も空を見上げながらうなずく。
「うん、もうすぐだね。すごくきれいだろうな」
俺は軽く笑って答えたけど、心の中では少し焦っていた。今、この瞬間が、なんだかすごく大切で、どんな言葉をかけるべきか迷ってしまう。
「ねえ、ちょっと聞いてもいい?」
突然、瑞稀が目を合わせて言った。その言葉に、俺はちょっと驚いて顔を向けた。
「うん、どうしたの?」
瑞稀の顔はどこか真剣で、普段の明るい笑顔が一瞬、引っ込んでいた。
「私、……春樹のことが、好き」
その言葉は、あまりにも突然で、俺は少し動揺した。でも、心の中では何かが確かに弾けた音がしたような気がした。
「……え?」
思わず声が漏れてしまう。驚いている俺に、瑞稀は少しだけ照れたように顔を伏せた。
「ごめん、突然言って。なんか、今言わないと、もう言えなくなりそうな気がして…」
瑞稀は言いながら、少し手を握りしめる。その姿が、どこか弱くて、そして強く感じられる。
「はじめて会ったときから、ずっと気になっていた。最初は、ただの友達だと思ってたけど、だんだん、春樹がいると安心するようになって…」
瑞稀の目を見つめながら、俺は何も言えなかった。ただ、心臓がすごく速く鼓動しているのを感じる。
「春樹がいなくなることを考えたくない。でも、それでも、私は春樹に言わないといけないと思ったの。これが私の気持ちだから…」
その言葉が終わると、空気が一瞬だけ重く感じられる。瑞稀が言ったことの意味が、心にじんわりと広がっていった。
「ありがとう、伝えてくれて」
ようやく、俺はその言葉を口にする。何よりも瑞稀が感じている不安や弱さを、少しでも受け止めたくて、そんな言葉を選んだ。
今度は自分の気持ちを素直に伝えようとした。ただ、上手く言えなかった。言葉の代わりに身体が動く。
俺は彼女を抱きしめた。――
全身に温かいものが広がって、胸の中で何かが満たされていくのが分かる。
瑞稀は目を大きく見開き、信じられないという表情を浮かべた後、少しずつ笑顔が戻る。彼女の目が光り、ふっと笑ったその瞬間、俺はすべての不安が一気に消えていくのを感じた。
「本当に?」
瑞稀がまだ驚いたように問いかけると、俺は頷いた。
「うん。本当に」
それだけで、なんだかすべてがうまくいった気がした。花火の音が大きく響き、空を色鮮やかに染める中で、俺たちの心も少しずつ近づいていく。
「それじゃ、今度は一緒に見ようね」
瑞稀が言うと、俺は嬉しそうに笑って答える。
「うん、もちろん」
二人の間に流れる温かい空気の中、花火が一瞬、空を照らし、その光が二人の顔を照らす。その瞬間、俺たちの世界がひとつになったような気がした。




