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お待ちかねの花火まで #16

 祭りの喧騒が少しずつ遠ざかり、花火が打ち上げられる時間が近づくにつれて、人々は一斉に空を見上げ始める。周囲の音も少しずつ静まり返り、ただ花火を待つ気配だけが漂っていた。俺と瑞稀は、並んで静かに歩きながら、空を見上げる。


 「花火、きれいだろうね」

 瑞稀がぽつりとつぶやく。その声が、空気を破るように響く。俺は隣で、瑞稀の顔をちらりと見た。


 「うん、絶対きれいだよ」

 俺も、何となくその言葉に答える。今、何を話すべきか分からない。祭りの楽しさを共有するために無理に話す必要はないけれど、何かもっと言いたいことがあるような気がして、黙っているのが不安だった。


 少しの間、無言のまま歩き続ける。しかし、何度も何度も視線を瑞稀に送ってしまう自分に気づく。


 「ねえ、ちょっと…休まない?」

 瑞稀が歩みを止め、ふと立ち止まった。その瞬間、少しびっくりしたが、瑞稀がにっこりと笑ってみせた。


 「いいよ、少しだけ座ろう」

 俺たちは、祭りの会場の隅にあるベンチに腰を下ろす。人々の笑い声や話し声、賑やかな祭りの音が遠くに聞こえる中で、二人だけの静かな時間が流れる。


 「こんな風に、二人きりで静かな時間を過ごすのもいいね」

 瑞稀がポツリとつぶやいたその言葉に、俺は少し驚いた。いつも明るく、誰とでも笑顔で接する瑞稀が、こんな静かな言葉を口にするなんて思わなかったからだ。


 「うん…そうだね」

 俺はその言葉を聞いて、なんだか心が落ち着くのを感じる。周りの音が全く聞こえないわけではないのに、何故かそれが心地よく感じる瞬間があった。


 少しの間、黙って座っていると、瑞稀がふと立ち上がった。

「ちょっと、行きたい場所があるんだ」

 その突然の言葉に、驚きながらも、俺はすぐに立ち上がって追いかける。


 「どこ?」

 瑞稀は少し照れくさそうに笑いながら、祭りの少し外れた場所に向かって歩き始めた。


 「ちょっとだけ、見たいところがあるんだ」

 それだけ言うと、瑞稀は静かに足を運ぶ。俺はその後ろをついていきながら、瑞稀の様子を注意深く見守っていた。


 やがて、祭り会場の外れにある小道を歩いていると、瑞稀は立ち止まり、ゆっくりと空を見上げた。その瞳は、まるで何かを探すように、ぼんやりと遠くを見つめていた。


 「ねえ、あの花火、どんなふうに見えるかな?」

 突然、瑞稀がそんな問いを口にした。

「どんなふうに見えるって?」

 俺は少し戸惑った。瑞稀が言いたいことが分からなくて、ついそう返してしまう。


 「いや、花火が打ち上がるときに、どんなふうに空が変わるか、どう感じるかなって…」

 その質問の意図が分からなかったけれど、何か深い意味があるのかもしれないと思った。


 「空がきれいに変わるんじゃないかな?夜が明るくなる感じで…」

 俺は自分なりに答えたけれど、瑞稀の顔にはどこか満足そうな笑みが浮かんでいた。


 「そっか…」

 瑞稀は再び少し黙り込む。その間、俺は何も言えずに彼女を見つめていると、急に振り向いて言った。

「ねえ、花火が打ち上がる前に、一緒に少しだけ歩かない?」


 その言葉に、俺は思わず頷く。瑞稀が求めていることが、今は分かった気がした。


 「うん、一緒に歩こう」

 こうして、俺たちは祭りの会場から少し離れた道を歩き始める。あまり人がいないところで、二人だけの時間が流れていった。


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