2週間後の夏祭り #15
リハビリが終わった後、俺は病院のベンチに座って、ゆっくりと夏の風を感じていた。
今日は少し涼しく、空には薄く雲が広がり、夏祭りを控えた静かな午後が広がっている。
あの夏祭りまで、もうあと2週間。
最初は少し先のことだと思っていたけれど、時間は思っているよりも早く流れる。
瑞稀は、リハビリが終わった後にいつも以上に元気な顔を見せていた。
どこか、夏祭りのことを考えているような顔だったけれど、それは口に出してはいなかった。
俺も、何となく言わなかった。
病院の廊下を歩く足音が、だんだん近づいてきた。
振り返ると、瑞稀がやはり少しはしゃいだ様子で、手には何かを持っている。
「また、こんなに元気そうだね」
俺が軽く言うと、瑞稀は照れくさそうに笑う。
「うん、だって、もうすぐだしね」
「何が?」
俺は無意識に尋ねる。
「夏祭りだよ」
瑞稀は嬉しそうに笑って言う。
「何か、楽しみにしてるの?」
「もちろん。花火がきれいだし、屋台もあるし、春樹と一緒に行けるしね」
その言葉を聞いて、俺は一瞬驚いた。
瑞稀と一緒に行ける?
俺たちはもう、何度も一緒に過ごしている。
けれど、その言葉の響きが、少しだけ新鮮に感じられた。
「それに、祭りのあと、春樹がどうするかも気になるしね」
彼女がそう言った瞬間、少しだけ言葉に詰まった。
気になる?
俺のことを、そうやって気にしてくれるんだ。
でも、それがなんだか、少し照れくさい気もした。
「どうするって?」
「その……花火見た後、帰り道に何か話したりするのかな、って」
その言葉が、俺の胸にぽっと火をつけたように感じた。
「……まあ、どうだろうね。でも、帰るのは遅くならないようにしないと。」
「うん、分かってるよ。きっちり者の春樹のことだから、きっと早めに帰るんだろうけど」
瑞稀が軽く笑うと、俺もつられて笑った。
その後、二人で少しだけ雑談をしてから、病院の外に出ると、夕日がきれいに沈みかけていた。
夏祭りまであと2週間。
明日もリハビリがあって、その後も何かを少しずつ決めていくんだろうけれど、今はただ、この瞬間の静かな時間が続けばいいと思った。
二人の間に流れる時間が、あまりにも優しくて、そして少しだけ切ない。




